第三十九話 出撃
兵は拙速を尊ぶという言葉は
考えずに突撃という意味ではない
(要約:猪武者というか騎士)
「んで、私とギラファさんが囮になるとして、どうやれば効果的に向こうに気付いて貰えるかって事っすよね?」
現状、自分が表に出ていようがワイルドハントが動き出す気配は無い。だとすれば、それこそギラファさんに抱えて貰って上空へ近づかなければならないのでは無いだろうか。
「それに関してですが、恐らく城壁から外へ出さえすれば、何らかの反応があると思います。」
「え? でもさっき王城の外に出てもなんも変化なかったっすよね?」
「ああ、そうか。君は知らなかったのだろうが、このキャメロット全体を取り囲む城壁には、上空を含めて強固な防護術式が常時施されている。その上、先程ワイルドハントが確認されてからは対死霊用特化の結界を重ねて展開しているからな、あちらとしては中を探る事すら難しいだろう。」
なるほど、都市ならそうした結界があるのは当然と言えば当然、しかし、
「遺骸の上では、結界って速攻で破られてた記憶があるんすけど?」
「規模と出力が段違いだからね。遺骸は巨大だけど、魔力の供給は各駆動系の炉に頼っている。これは空間から魔力を生成する優れものだけど、一度に獲得できる魔力に制限はあるし、遺骸自体を航行するために出力の大部分を持ってかれているんだ。」
「一方、キャメロットの防護術式は地脈から直接魔力を供給される方式ですから、遺骸の結界とは強度も情報の遮断性も比べ物になりませんわ。」
家の屋根でソーラー発電した電力と発電所から電線通して供給される電力なら、後者の方が圧倒的に出力と安定性で上なのは間違いがないと言う事か。ご家庭のソーラーパネル程度で大工場並みの消費電力を賄える訳がない。
「もっとも、敵がただのワイルドハントでは無く災厄絡みならば、結界を浸食、解析されて破られる可能性は低くは無いがな。」
「うへーー……」
滅茶苦茶厄介じゃないっすか災厄。
「だからこそ、直接出向いて元を断つのが効果的なんだが、儂は出ては駄目か、そうかあああああああああ!!」
アーサー王うるさいっす。
「やかましいです陛下。――おそらく結界の外に出るだけで災厄は反応する。だが、これだけの小康状態が長いと言う事は出現する軍勢の量も、質も相当な規模になるだろう、その対応をどうするかだな。」
「個人的にはアーサー王の他に、モードレッドも出陣は控えて欲しいかな。あの子の『叛逆の剣』はアーサー王の聖剣と性質が近しいからね。」
「もとよりそのつもりだ。モードレッド卿は一対一なら非常に優秀だが、騎士団の指揮経験はまだ浅い。それに武具の扱いも多勢を相手に出来るほど習熟していないからな。各領地から他の円卓を呼び寄せている時間も無い以上、全体の指揮は俺がとるしか無いだろう。」
「遊び気分だったとはいえ、パーシヴァル卿がこちらに来ていたのは僥倖だったな。卿は対軍勢でこそ真価を発揮する、ギラファ、蜜希両名と共に陽動に立ってもらう。」
「最初が余計ですけれど了承しましたわ。兵の指揮をアグラヴェイン卿にお任せできるなら、こちらは攻勢に専念できますわ。」
パーシヴァルの返しに、アグラヴェインが重い息を吐く。
「貴様に指揮を任せると突撃しか言わんからな、防衛戦で城壁周りを留守にするわけにはいかん。」
「やっぱり蛮族じゃないっすかパー子……」
そういえば遺骸の上でも露骨に防衛隊の方へ行くのを避けていた気がする。一応突撃ではダメな場所だったという判断はあったのだろうか。
「う、うるさいですわね! 良いじゃありませんの、適材適所!!」
「ウェールズの兵たちの苦労が偲ばれるな……」
うぐぅ、と黙ってしまったパーシヴァルは放っておくとして、アグラヴェインに聞いておくべきことがある。
「囮になると言っても、馬鹿正直に城門近くに出ていくわけにはいかないっすよね、その辺りどうするんすか?」
いくら城壁の外に兵を展開するとはいえ、死霊達の発生個所はなるべく離した方が良い。自分達が囮になったとしても、ただ門から歩いて行ったのではあまりよろしくない。
できれば、転移。そうでなくても高速で距離をとって死霊達の発生地点を遠ざけておきたい。
「私の槍で放り投げたり教官に抱えてもらうのもありですけれど、ここならもっといい方法がありますわよ?」
「ほほう、それは一体?」
「説明するより見た方が早いと思いますわ。アグラヴェイン卿、時間も無いでしょうし、貴方の事ですから兵の編成は既に済んでいるのでしょう? 兵は拙速を尊ぶ、でしたかしら? ――出撃の許可をいただけまして?」
え?
「やれやれ、相変わらずの猪武者だな。――いいだろう、出撃を許可する。」
あの、ちょっと?
●
「照準術式、方位角固定! 続いて術式カタパルト展開、同期完了!」
「魔力充填率85%、発射準備完了まで、あと十秒!」
「飛翔体固定完了、ハッチ開け!」
壁面が開かれ、中から砲身の様に伸びたレールが現れる。
レールの最奥、今まさに発射体勢に入ったカタパルトの上に三人纏めて固定されているのは、この国の最高戦力の一人である円卓の騎士と、過去の英雄とその子孫。
対ショック姿勢として首後ろで手を組んだパーシヴァルが、叫ぶ。
「発射準備完了。――発射!!」
術式カタパルトに光が走り、レールとの摩擦で火花を散らしながら滑走する。
音を置き去りにして射出された飛翔体、その中でギラファに抱えられる様な姿勢で風を受ける女が叫ぶ。
「パー子貴様アアアアアアァ!!?」
不意に、空が暗くなったのを感じ、視線を上へ。
ギラファの大顎の隙間から眺める空は、先程まで染みのようだった暗がりが急速に広がりだすしていた。
「あーもう!! やってやるっすよ!!」
手には力を、視線に意志を、さあ、ワイルドハントの始まりだ!




