第二十八話 モルガンと言う神格
「ところでマーリン。さっき言っていた、蜜希がモルガンと相性最悪っていうのはどういう意味ですの?」
ようやく横倒しの姿勢から復帰したパーシヴァルの言葉は、自分としても気になる所だ。
「あーー、そうだね、最悪と言うか、ある意味では最高なんだけどさ?」
「いやどっちなんすか一体!?」
自分達の疑問に、マーリンは一度目を閉じ、少し唸りながら身長とそう変わらないサイズの杖を回す。
「モルガンはさ、真面目なんだよ。真面目過ぎるから、地球側の伝承である本来のモルガンを再現することを自分に科してるんだ。」
「再現を自分に科してる?」
「そう、勘違いしないで欲しいんだけど、僕達みたいな神格は、地球側の神話の存在とイコールじゃない。地球側で神格が実際に存在していたかはひとまず置いておくとして、僕らはそっちの経験を持っては居るけれど、基本的には別存在だ。」
「ただ、その経験が、報告書に書いてある記録の様な物か、実際に体験した記憶のようであるかは神格によってさまざまだ。僕なんかは完全に前者だし、モルガンもそっち系だね。」
「それ故に、記録でしかない地球側での自分を再現していると?」
フィーネの言葉に、マーリンは曖昧な頷きを返した上で続ける。
「モルガンの場合はまた特殊でさ。アイツは地球におけるモルガンと、他の湖の精霊の集合体なんだ。その中で一番記録としての強度が高かったのがモルガンだったから、アイツはそれを自分と定義した。――最初は再現でも、それを年十年、何千年と続けていけば本当になるだろう、ってね?」
「え? でも今のモルガンさんはこう、悪女を演じる善人臭がプンプンするっすよ?」
「そこなんだよねー、アイツ真面目過ぎたからさ、「モルガンならこう言うだろう」見たいな言動をしながらも、内心では「え、こんなこと言ったら失礼では?」見たいな感情が抜けきらなくてね。どうしたってボロが出るから人前に出るのは最小限にしてたんだけど、子供を育てるってなったら引き籠ってるわけにもいかないだろう?」
「…………」
モードレッドの無言が少し気になるが、それに構わずマーリンは話を続ける。
「食糧とかは魔術や権能でどうにかなるけど、自分以外誰にも関わらせないんじゃ子供に良くない。そんで真面目なアイツがそれを良しとするわけなくてさ、学校の手配や何やらこなすために、自然と人前に出ることが増えてくる。」
「まあ、それは仕方ないな」
「でしょ? ――それで、今までですら『あれ、この人実はいい人では?』オーラを漂わせてたモルガンがさ、子供の為に幼稚園や学校ウロウロしては心配そうに眺めてるんだぜ? もう周りはほっこりしながらそれを見てるし、モルガン自身も気づいては居るけど何千年と染み付いた今の言動をそう簡単にやめるわけにもいかない。結果出来上がったのがあの悪女っぽいモードレッド大好きお母さんだ。」
「モードレッド大好きお母さん……」
「モードレッド大好きお母さん……」
「あ、あの、そう何度も復唱されると流石に恥ずかしいのですが!」
モードレッドの苦情を無視してマーリンは言葉を続ける。
「それで最初に戻るけど、君や希みたいなタイプはモルガンにずけずけ言うからさ、アイツとしては調子が崩れるし相性最悪だけど、それって様は自分を偽る必要が無いって事だから、根本的には相性良いんだよってこと。」
「なるほど、……つまり、マーリンさんはモルガンさんが大好きなんすね?」
「はぁ!? え、ちょっと待って、何をどうしたらそうなるの!?」
困惑して慌てふためくマーリンだが、周りのパーシヴァルやフィーネは笑みを浮かべて見守っているし、モードレッドに至ってはまるで同志を見つけたように瞳を輝かせている。
「あー、なんかこう話し方とかを聞いてるとモルガンさんの事を実によく見ているというか、大事に思ってるんだなって感じたというか」
「いやいや! 僕は女遊びは好きだけどむしろ女は嫌いと言うか――!」
「そのドクズ発言はスルーいたしますけど、マーリン、貴方モルガンの事を話すときに自然と頬が赤くなってるの自覚ありませんの?」
「え!? 嘘!!」
「ええ、勿論嘘ですわ、でも今の反応で半ば確信いたしましたけど。」
「うっわそれ酷くない!? ってモードレッド? どうしたの急に僕の手を握って?」
「あ……」
なんかついさっき同じ光景を見たというか、体験したというか。
「マーリン様! 是非とも母様について話し合いませんか!!」
「しまった、こっちは同好の志を得たオタクみたくなってる!! はーなーせーよー!」
しがみつく様に腕を掴まれ、ジタバタともがくマーリンだが、その顔は迷惑に思っているというよりは、自分の内心を暴露された事への照れ隠しのようで、そうしていると見た目の少女そのままの様にも見える。
「ていうかオタクって言葉あるんすね」
何の気なしに呟いた言葉だったのだが、意外にも返答が返って来た。
「アージェが向こうの世界の書籍とかを結構こっそり翻訳してながしてますし、通信ではアニメなんかも流れてますのよ? かく言う私もアージェから向こうの本をちょくちょく横流ししていただいてますの。」
その話を聞いて、ふと思い至る事がある。
「もしかして、パーシヴァルがチラホラ英語を使いだすのって……」
疑問に対し、パーシヴァルはやや照れたように顔をそむける。
「お察しの通り、読んでいた書物の影響ですわ……主人公の掛け声がかっこよくて……」
「ま、まあ、誰しもそういう時期はあるっすよ……」
その辺りを深く突っ込まないだけの慈悲はある。下手に刺激するとこっちがダメージを受けることもあるからだ。
しかし、そこまで向こうの文化が入ってきていると言う事は、案外パーシヴァルと共通の話題で盛り上がれることもあるかもしれない。
「ちょっとそこ! 和気あいあいしてないでモードレッドを何とかしてよーー!?」
「マーリン様マーリン様、それで母様のどういった所が好きなのですか? あと、私の知らない昔の母様のお話もっと聞かせて頂けないでしょうか!?」
うーーむ、どうしたものだろうか。
「下手に助けようとするとこちらも巻き込まれそうですし、放置が安定でしょうね。」
「だな、パーシヴァル、暫く王城に滞在することになるから、案内を頼む。」
ギラファの言葉に、頷いたパーシヴァルが先頭に立って歩き出す。
「勿論ですわ、皆様は国賓待遇にせよとアグラヴェイン卿に言われてますし、最上級の客間をご案内いたします。」
「身分違い過ぎて不安になるっすけど、まあ何事も経験っすね。――んじゃモードレッド卿にマーリンさん、また今度ー」
「オイイイイイ!! この状況で置いてくなってば――!!」
「マーリン様! 今夜は母様がハンバーグを作って待って居て下さるのですが、マーリン様もご一緒いたしませんか!?」
モードレッド卿の、まるでマイナーカプの同志を見つけた愛好家の様な迫り具合に、自分達は足早に花園を後にするのだった。




