第二十五話 謁見
一目見て
分かるこの人
苦労人
(要約:フィーネ心の一句)
「陛下の御前である、平伏せよ。」
パーシヴァルに連れられて王城を訪れた自分たちは、今、アグラヴェイン卿の言葉を受けながら王の前に跪いていた。
赤と金を主調とした、華美な装飾が彩る謁見の間。
敷かれた絨毯から壁の僅かな調度品まで、その全てが一級品であることが、素人の自分ですら分かるほどの完成度。
「……面を上げよ」
声に促され見上げる視線の先、一際目を引く装飾の施された玉座に座るのは、ワイルドハントで見た姿と同じ、初老に差し掛かった屈強な男の姿。
しかし、一目見て分かる、その姿から漂う威圧感は、嵐の王の比ではない。
……これが、本物のアーサー王。
思わず息も忘れそうなほどに圧倒される自分の眼前、堂々とした佇まいのパーシヴァルが言葉を作る。
「お久しぶりです、陛下。円卓の騎士が一人パーシヴァル、ウェールズより英雄に連なる客人を連れて参上いたしました。」
パーシヴァルがアグラヴェインに軽く目配せをすると、それにこたえる様にアグラヴェインがこちらを、正確には自分の斜め前に片膝を付くフィーネに視線を向ける。
「発言を許す、要件を述べよ。」
「感謝いたします、陛下、アグラヴェイン卿。――ウェールズに住まう名誉円卓議席第三席、アルジェント・フィーロより、捧げものを預かって参りました。」
フィーネの言葉に合わせ、事前に言われていた通りの動作でアージェから預かっていた箱を掲げ、そばに来ていた騎士へと差し出す。
箱を抱えた騎士が持ち場に戻ると、不意にアーサー王がアグラヴェインへ視線を向ける。
「――――」
無言、しかしそれだけで何かを察したアグラヴェインは、周囲に控える騎士たちへ向けて声を上げる。
「総員下がれ、こちらから呼ぶまでこの部屋に入ることは許さん。」
「「はっ!!」」
命令に従い部屋を去っていく騎士たち、その中で何人かがこちらへ視線を向けては何やら考え込んでいたが、まあ気にしない事にする、スレッドが回るくらいだろう。
謁見の間には自分たちと王、アグラヴェインのみが残された。
「さて、客人、楽にしたまえ。――ああ、パーシヴァル卿はその場で腕立て百回三セットに処す。」
「え!?」
「貴様、ウェールズの統治をほっぽり出してこちらへ来たのだろう、代理で政務を任されたアージェ殿から報告が来ているぞ。」
「あ―――――……」
項垂れながら腕立て伏せを始めたパーシヴァルを他所に、アグラヴェインは自分へと視線を向ける。
「報告は受けているが、改めて陛下に名を名乗りたまえ、英雄の子孫よ。」
促しに、やや気圧されながらも自分はアーサー王を真っ直ぐに見つめる。
「お初にお目にかかります、陛下。私は功刀・蜜希。 秋楡・希の孫にあたる者です。」
「うむ……」
自分の言葉に対し、王はただ頷きを返すのみ、その事に「これが王の意圧と言うものか」と感じたのも束の間。
「よくぞ参った! なにやらそこのギラファと恋仲とのことだが、まさかその堅物がな、いや実にめでたいものだ!」
おっと、思ったよりもフランクなノリでちょっと思考が固まったっすよ?
「はあ……相変わらず口を開くと威厳が消えるな、アーサー。アグラヴェイン卿の苦労が偲ばれるぞ。」
「なに、それが俺の仕事だからな。――それに陛下は政務をさぼって遺骸に飛び乗ったりはしないからな。」
「さりげなくこっちを刺してくるのはやめて欲しいですのよー?」
「パー子のそれは自業自得だと思うっすよー?」
つい漏れてしまった呼称に、アーサー王の眉がピクリと動く。
「パー子?」
「あ、しまっ! いや、その、これはですね陛下……」
「はっはっはっ! 聞いたかアグラヴェイン、あのパーシヴァルに友人が出来たようだぞ!」
「ええ陛下、喜ばしい事かと、パーシヴァル卿は13歳で襲名者となったこともあり、それまでの学友との交友は絶えて久しいですからね。」
まさかパーシヴァルが友達少ないタイプだったとは……いや割と納得できる感じはする、人との距離の取り方が分かりづらいタイプなのだろう。
しかしそれとは別に気になるのは、王やアグラヴェインの反応だろう。
「ええと、怒らないんすか? 仮にも円卓の騎士の一人をあだ名で呼ぶとか。」
自分の言葉に応えたのは、何処か表情に柔らかさが見えるアグラヴェイン卿だった。
「勿論、対外的に考えれば少々問題ではあるが、君の祖母、秋楡・希は円卓の名誉議席第一席だ。その血縁である君はこちらとしても無視できないだけの影響力がある、そこまで罪に問う様な事ではないとも。」
「なにより、パーシヴァル卿自身がその事を喜んで居るのだから、俺や陛下としては彼女と仲良くしてやって欲しいと思うだけだとも。」
そう告げるアグラヴェインの表情は、まるで手のかかる妹を心配する兄の様にも見えた。
「愛されてるんすね、パー子は」
「な、なにこっぱずかしいこと言ってますのよ!!」
「あと百回追加だな」
「あ―――――――!!?」
今のは照れ隠しだろうか、と思ったが、流石にそれを言うほど愚かではない。
「お、照れ隠しかアグラヴェイン、儂より年上の癖に卿は若いなぁ。」
「…………陛下には言われたくないですな、そのセリフ。」
「違いない、童心が初老の外見を持ったような男だからな。」
「その通り過ぎて何も言い返せんな。――それでギラファよ、そこの娘とはどういった馴れ初めだったのだ?」
唐突な振りにギラファではなく自分が吹きだした。
……まさかパー子が言ってた掲示板が乱立するって言ってたの、騎士たちじゃなくて陛下の方っすか!?
そう思ってちらりと腕立て伏せを続けるパーシヴァルを見れば、諦めたような表情で首を上下左右に振っていた。
「アージェからの土産も確認せねばいかんしな、よし! この後はここに居る者で茶会と行こうではないか!」
楽しそうにはしゃぐアーサー王と、それにため息を吐くギラファの姿。それは王と戦友と言うよりも、仲のいい友人同士のそれのようで、具体的に言うと普段自分には見せないちょっと気の抜けた感じのギラファさんの表情とかめっちゃいいっすわーー!!
「…………」
「――はっ!」
気が付けば、アグラヴェインがこちらをじっと見つめていた。
いけない、傍から見ても分かるほどに脳内領域が漏れ出していたのだろうか。
「功刀・蜜希」
「はいっす!?」
思わず全身を硬直させるように気を付けの姿勢をとった自分に対し、意外にもアグラヴェインは苦笑を零して語りかけてきた。
「そう身構える必要はない、俺は君の祖母に世話になったが、どうやら君にも世話になりそうだと思っただけだ。」
「えーと、はい?」
何やら分からず困惑する自分に対し、アグラヴェインは一つ頷くと踵を返す。
「陛下、既に謁見の時間を相当オーバーしています、茶会は後日として、まずは政務を片付けて頂きます!」
その横顔は、どこか楽しそうに微笑んでいたのだった。




