第二十三話 掲示板は回る
何時の時代も
何処の世界も
人の痴情は共通娯楽
(要約:ゴシップ案件)
「だあああああああああ!!?」
「そろそろ着地しますわよー。はい口閉じて、私に捕まってー、加速術式逆噴射で減速して―、3、2、1、ゼロ!」
トン、と、高さ数百メートルから落下したとは思えないほど軽やかに足先が石畳を踏みしめる。
「離しますわよーー」
「ちょわっ!?」
支えが消え、地面との接地間に一瞬足がふらつくのを、パーシヴァルに一発ビンタを入れてバランスをとる。頬にクリーンヒットしたパーシヴァルがトリプルアクセル決めながら吹っ飛んでいったが、恐怖で竜の加護が発動していたのだろうか。
「み、蜜希! 貴女淑女の顔にいきなり何しますの!!」
「淑女をいきなり槍に結んで放り投げた蛮族に対するお返しっすよ、やーいざまーみろー!」
「い、言いましたわね!!」
戻ってきたパーシヴァルがこちらに掴み掛かるのを一歩下がってやり過ごそうとしたのだが、思ったよりもパーシヴァルの勢いがついていた。
「およ?」
伸ばされた手は自分の肩ではなく、その下の空間、そう、具体的には胸部を鷲掴みすることになる。
「…………」
「…………」
「…………えーと、蜜希、わかっているとは思いますがこれは――」
「パー子……いくら自分がまっ平だからって私の胸を揉まないでもいったたたたたたた!!ちぎれる!千切れるっす!!」
「言って良い事と悪い事がありますわよバカーー!! あと鎧してるから私の胸見たことないはずですわよ!?」
「ん? あーそっか昨夜の記憶無かったっすね、パー子酒盛りでポールダンスした後、私とエルフの人の腕掴んで風呂に連行してたんすよ。」
告げた言葉に、パーシヴァルが崩れ落ちる様に項垂れる。
「ほんっとうに何してますのよ昨夜の私……」
「すまない、遅れた……なに往来の真ん中で蜜希の胸を掴んで項垂れてるのかね、パーシヴァル?」
「往来?」
言われ、視線を上げれば、自分たちがいるのは噴水を中心とした広場の中。外周沿いには露店や屋台がいくつも並び、道行く人々がこちらを見ては何やら話し込んだり通信礼装を取り出したりしている。
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「おい! パーシヴァル卿が異境の民の女性の乳を掴んで項垂れてるぞ!」
「え!? パーシヴァル卿がついに己の貧乳を嘆くあまり巨乳揉みだしたの!?」
「なにやらポールダンスや風呂と言う会話が聞こえてきたが、パーシヴァル卿が巨乳を揉んだ!? 捗るな!!」
「ねえねえ! パーシヴァル卿が巨乳とお風呂でポールダンスしてたって!!」
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不意に、パーシヴァルと自分の間にアージェからの通信用ウインドウが表示される。
『ねえ、今通信の話題ランキングに【円卓の騎士パーシヴァル! 巨乳女子とお風呂でポールダンス(意味深)か!?】みたいなスレッドがガン回ってるんだけど、何してるの貴女達?』
「風評被害が激しすぎますわ――――!!?」
「というか自分はギラファさん一筋なんすけど!?」
『OK、お相手は彼氏持ちの異境の民って書き込んでおくわ。』
「何一つOKじゃない返しは止めるっすよ!!」
「冗談よ」とアージェは笑うが、この人の場合何処まで本気か分かったものでは無い、面白半分でそういう事をやりかねない不安さがある。
「ええ、もう書き込んであるもの」
「あんたって人はあああああああ!!」
試しにアージェに改造して貰ったスマホを取り出し、通信の掲示板サイトを呼び出してみる。
「うっわ、既に3スレッド目に突入してるんすけど!?」
「……まあ、見た所割と好意的な書き込みが多い印象ではあるな」
「原因の私が言うのもアレですけれど、嫉妬したりしないんですの教官?」
その辺りは自分も気になる。故に体をギラファの方に向け、答えを待つようにじっと見つめる。
それに対し、ギラファは少し考える様に口元に手を当てる。
「確かに、余り気分の良いものでは無いが、私は蜜希が私を想ってくれている事を知っているし、私の蜜希への想いは周囲の反応程度で揺らぐものでは無い。ならばわざわざ騒ぎ立てる事も無かろう。」
直撃を喰らって思わず倒れかけた。
「えと、その……はいぃ」
『通信越しでもあまりの甘さに口から蜂蜜吐きそうなんだけど、現場で食らったパーシヴァル息してる?』
「ちょっと甘さと熱さで脳と心臓がとろけそうですわ……」
「む? 何か変なことをいったかね?」
首を傾げるギラファを他所に、周囲で一連の会話を聞いていた通行人達から拍手が起きる。
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます! 功刀・蜜希とギラファさん、これからも精進してまいります!」
「選挙か何かでして?」
『と言うか凄いわね、一瞬でランキング一位が【虫系異族の英雄 異境の民と熱愛発覚! パーシヴァル卿まさかの失恋か!?】に塗り替わったわよ』
「さっきから私一人だけ扱い酷くありませんこと!?」
「と言うか見出しの付け方的に、それさっきのスレッドと立てたやつ一緒じゃないっすかね?」
『ID的にも多分そうね、管理者権限で神罰いっとくわ』
「権利の乱用では無いかね?」
『私が管理者だって知ってるの世界で数人だから大丈夫よ、この通信も貴方達以外には見えないようプロテクトかけてるし。』
「それならまあ……因みに神罰ってどんなのっす?」
『今回は特に犯罪って訳でもないから、昔その人が書き溜めてた恥ずかしいポエムが通信にばら撒かれるくらいにしておいたわ。』
何やら人混みの方から断末魔の様な絶叫が聞こえて来た気がするが、気にしない事とする。
「えぐい事いたしますわねぇ……」
『ふふ、じゃあパーシヴァル、二人をよろしくね?』
そう言ってアージェを映したウインドウが消えると、パーシヴァルがこちらを改めて見つめる。
「さて、色々アクシデントがありましたけど、改めてキャメロットへようこそ、まずは適当に街を案内いたしますわ。」
パーシヴァルが身を回し、街の喧騒の中へ歩み始めようとした瞬間。
「お待ちくださいぃ――――!!」
叫び声と共に、何者かが自分たちの元へと駆け寄って来た。
「よ、ようやく見つけましたよ!! ギラファ様! 蜜希様!!」
なんかクラシカルなメイド服着た白髪美少女が出て来たんすけど、どちら様ですか一体。




