第十八話 告げる言葉
それは言葉にすればありきたりで
けれど確かな私の心
(要約:伝えたい想い)
「ぷあーー、何とかなったすねぇ。」
割れた甲板に思わずへたり込み、大きく息を吐き出す。
流石に槍にライドオンしてヒーローキックは無茶苦茶が過ぎた。もう一度やれと言われても無理だろう。それほどまでにあの時はテンションが上がっていた。
パーシヴァルに投げ飛ばされた後、方向転換する際に一瞬吹っ飛ばされかけたが、ギリギリで持ち直して軌道も修正出来た。
「まあ、ギラファさんも助けられたし、結果オーライっすね!」
「そうだな、まずは助けられたことに感謝する。ありがとう、蜜希。」
気が付くと、横に武器を収めたギラファの姿があった。座り込み、こちらへ頭を下げる姿勢は、どこか座礼を行う侍の様にも見える。
「いやいや、最初からギラファさんには助けられっぱなしっすから、少しは恩返しできたかなーって」
「恩返しなど不要だが、今回は君の助力がなければ危ないところだった――が、」
おっと、何やら不穏な気配を感じるっすよ?
「いくら何でもあそこまで危険な行為に出る必要は無いだろう!」
「あ――! 覚悟はしてたっすけどお説教タイムっすか――!?」
確かに、ギラファを救うためとは言えかなり危ない橋を渡ってしまった事は否めない。しかしあの時はああするしかなかったというか、ギラファを助けるという事で思考が一杯になってしまったといういうか。
「でもでも、あの時ギラファさんを助けるにはパー子さんの槍に乗ってくしか無かった訳っすから、結果的には仕方なかったというっすか……」
「だからと言って、私などの為に自分を犠牲にしかねない行動はするべきではない。」
ギラファの告げたその一言に、ついムッとしてしまう。
「その言い方は良くないっすよ、ギラファさん」
「だが事実だろう、君にとって此処は本来の世界では無い、ましてや私とは会ってまだ数日だろう。その程度の相手よりも、君は君自身の安全を優先するべきだ。」
「――――!!」
思わず、己の拳をギラファの胸に叩きつける。
金属を殴った様な音が響き、拳には骨が砕けたのでは無いかと疑うほどの衝撃が返り、そのあまりの痛みに自分はうずくまる。
「~~~~ッッ!!」
「……大丈夫かね?」
若干呆れた様子のギラファに無事な左手を掲げて「ちょっと待て」と示す。
いや本当マジでいたい。鉄板と言うか中までミッチリ詰まったチタン合金か何かじゃないだろうかこれ、殴った時に微塵もギラファさんの甲殻が震えなかったというかあーーもう無理マジでいたいあーーーーーー!!
追加で三分ほどのたうち回り、ゆっくりと体を起こす。
「いいっすかギラファさん? 確かに私はギラファさんと出会って数日だし、この世界の人間じゃないっすけどね?」
「いまの醜態の後に即座にそこまで真剣になれるのは素直に尊敬するな……」
やかましい。何事も切り替えが大事なのだ、けっして無かった事にしたいという訳では無い。
「やかましいっす。……いいっすか? 確かに自分はこの世界では新参者っすけどね?」
言う。少し体を前に倒し、下からギラファの瞳を覗き込むようにして、笑う。
「自分の身に危険があっても助けたい、ずっと傍に居たいと思える大切な人は誰か、それを見誤ったりはしないっすよ?」
「――――――」
それだけ告げて、ふいっと後ろを向いて表情を隠す。
「えと、その……あははは……」
駄目だ、顔が熱い、頬の紅潮を隠せない。
語った言葉としては、別段愛の告白と決まったものでは無いのだが、自分の気持ちに噓はつけない。
ギラファがどう捉えるかはともかくとして、少なくとも自分はそういう気持ちで言葉を作った。それ故に湧き上がるこの胸の動悸と、顔に火が付いたような感覚、いますぐ答えを聞いてみたいのに、それを恐れもする二律背反。
確かに、時期尚早ではある。まだ自分はこの世界に来て三日めな上、恋愛方面のイベントなども特に発生してはいない。強いて言えば自分が時々脳内で過剰反応していた程度だから、状況的にはギラファが『親友や家族の様なもの』と解釈してくれた方が都合がいいし、そう思われる可能性は高い。
でも、自分が伝えたいと思ったのは今なのだ。
細かい理屈付けなんてない。ギラファが危ないと思って、動いて、そして今二人無事にこの空の下に居る。そう思ったら言葉は勝手に口を出ていた。
「……蜜希」
「…………ひゃい!?」
思わずうずくまってしまいそうな体を抑え込み、頬の熱を冷まそうと顔を仰いでいた自分の頭に、ギラファの爪が軽く乗せられる。
「これは私の思い過ごしかもしれない、だからそうであったならば忘れてくれていい。その上で、功刀・蜜希。」
ギラファにしては珍しい、僅かに緊張した様な声音。
「――、私で、いいのかね?」
告げられた言葉の意味を理解するのに、数秒の思考を要した。その上で分かるのは、自分の言葉が正しく伝わっていたと言う事と、それに対するギラファの返答。
だから、自分は言葉を作る。
「ギラファさん「で」いい、じゃないっすよ。」
振り向く、頭に乗せられたギラファの爪に手を伸ばし、包み込むようにして胸元に引き寄せる。この胸の高鳴りが少しでも伝わってほしいと思いながら。
「ギラファさん「が」いいんです、私は!」
そうだ、私はこの人と共に居たい。
確かに見た目も好みだけれど、この人の傍に居たいと思った理由はそうじゃない。
……多分、ギラファさんが自分を気にかけて居てくれていたのは、希お祖母ちゃんの孫っていうのが大きいと思うっすけど。
それでも、この人は一度も、私を『希の孫』と呼んだことは無かった。自分の大胆さを祖母に似ているとして言ったことはあったが、呼称としてはずっと『君』や『蜜希』か、『功刀・蜜希』と呼んで、私自身を見てくれていた。
それが言葉だけでなく、私個人を認め、尊重してくれているのだと、分からない自分ではない。
「さっき、ギラファさんがピンチになった時、思ったんす。――もし、これで二度とギラファさんと会えなくなったら、って。」
「…………」
無言は促しだろう、だから自分は言葉を続ける。
「嫌だ、って、それだけは絶対に嫌だって。その時はそれしか考えられなかったんすけど、今、無事なギラファさんと一緒に居て、気が付いたんです。」
一息、大きく深呼吸をして、真っ直ぐに彼を見つめる。
「私は、貴方が好きです。希おばあちゃんの孫として気遣ってくれながら、けど、きちんと私を『功刀・蜜希』として見てくれてた貴方が、ギラファさん。」
一度、握った手を放し、開いた掌をギラファに差し出す。
「だから、改めて言わせてください。――私と、一緒に居てくれますか?」
「一緒は嫌だな。」
即答だった。
「え!?」
思わず困惑し、気を失いそうになる自分の手を握り、抱き寄せながら、ギラファが答える。
「――ずっと一緒で無ければ、嫌だとも。」
背に回された腕に、しっかりと抱き締められる。その感覚と告げられた言葉に、思わず視界がぼやけてしまいながら、それでも、精いっぱいの笑顔を作る。
「……はい、ずっと、一緒に居て下さい。」
晴れ渡る空の下、暖かな陽射しが祝福してくれている様に思うのは、少し、自意識過剰だろうか?




