第十五話 パーシヴァル
「さあ、押し返しますわよ!」
突然現れ、周囲を一掃して見せた女性。パーシヴァルと言えば、確かに円卓の騎士の一席だ。
「あの、助けてくれてありがとうございますっす。けど、ええと、ウェールズから飛んで来たっていうのは……」
既に遺骸が出航してから数時間は経っている。救援を出したとて、そんなすぐに来れる様な距離では無いと思うのだが。
「ああ、それでしたら簡単ですわ、槍の石突きに足場付きのロープを結んで、ここまで投げ飛ばしたんですの」
「…………」
「はいいぃ!!?」
「それで遺骸の上空まで来ましたら、ここに死霊が集中してるようでしたので、上空から術式槍を大量に投擲してから着地したわけですわ」
「――――」
開いた口が塞がらないというのはこの事だろうか。この世界で物理法則は絶対ではないとわかって来ては居たが、改めて規格外を持ち出されると脳が理解を拒む。
「――――」
横を見れば、二人も口を置けて呆然としていることから、これがこの世界のスタンダードというわけでは無い様だ。その事に安堵を覚えつつ、何時までも呆けては居られないと思考を強引に切り替える。
「えーと、色々言いたいことはあるっすけど取り合えず納得したっす。それでパーシヴァル……卿、これからどうするっすか?」
自分の言葉に、パーシヴァルは一度軽く目を見開くと、ふっと笑みを作り
「ふふ、アージェから話は聞いてましたが、中々大した胆力ですわね、功刀・蜜希。皆この移動方法をすると暫くは頭を抱えているものですわよ?」
「あ、異常行動だとは御自覚あったんすね、なんかちょっと安心したっす。――アージェさんとお知り合いっすか?」
「ええ、彼女との関係など語りたいところですけれど、今はこの状況を打開することが先決ですわね。」
確かにそうだ、今の掃射で大半が排除されたとはいえ、次々に新たな死霊が湧いて出ている。本当に無限湧きなんじゃないだろうかこの野郎。
「はいはいそこの呆けてるバカップル、さっさと復帰するっすよー」
「誰がバカップルよ!!?」
貴女達ですよ、という言葉は飲み込んだ。横で「いやぁ……それほどでも」と呟いた兵士がボディーブローを食らっているが、あの、肋骨折れてるのでは?
「そこの傭兵二人、一応聞いておきますわ。――戦えますの?」
パーシヴァルの真っ直ぐな視線に、エルフの女性が兵士をちらりと伺う。
肋骨と左腕の骨折、下がっても問題はない程の重症だ。
「取り合えずひびの入った肋骨は簡易術式で固定した。痛みはあるが、まだ戦える。」
「――」
「よろしい」
エルフの女性が制止の言葉を掛けようとした直前、それを遮るようにパーシヴァルの声が響く。
決して大きくはない、けれど、異論を許さないといったその声に、エルフの女性は出掛かった言葉を飲み込んだ。
「互いが大切であるならば、過分な心配はむしろ妨げになりますわ。ふふ、殿方の強がりには、黙って見て見ぬ振りも必要ですのよ?」
さて、と、パーシヴァルが槍を構え、右足を一歩引く。
「これからあちら、首魁の方までの死霊を一掃しますわ。――ついてこられますわね?」
「「「勿論!!」」」
「Excellent!」
三人の返答に、パーシヴァルは大きく頷いた。そして疾走の構えを深くしつつ、告げる。
「では、参りますわよ!!」
その言葉を合図として、円卓の騎士は走り出す。
――速い!
決して全力疾走ではない。軽い動きでありながら、こちらは全力で走って辛うじて追いつけるほどのスピードだ。
「こりゃあ、流石は円卓の騎士ってやつっすかね!」
パーシヴァルと言えば、円卓の中ではガウェインやランスロットに次ぐほど有名な騎士だろう。
武勇においては投げ槍が得意だったとする程度で、あまり特筆するべき逸話は無かった様に思うが、その最大の逸話は聖杯探索における功績である。
一度は聖杯探索に失敗するものの、後にガラハッド、ボールスと共に聖杯を見つけ出した円卓の騎士、それがパーシヴァルだ。
「――そこですわ!!」
走りながら、パーシヴァルがその手に携えた光の槍を投擲する。それは一度空高く昇ると、まるで流星の様に死霊へ降り注ぐ。
それが、ひと呼吸で十数本放たれた。
「おいおいマジかよ、上空で分裂してるとかじゃねえぞアレ、一瞬で何本も投擲してやがる。いくら術式槍が重さがゼロに等しいつっても、尋常じゃねえ速さだぞ!!」
振りかぶりに合わせ、その手に光の槍が形成され、瞬時に上空へ投げ放つ、言葉にすればそれだけの事だが、その動きは腕が幾本にも見えるほどに高速だ。
「お褒めに預かり光栄ですわ。けれどこの程度、まだまだ肩慣らしでしてよ?」
それを証明する様に、パーシヴァルが大きく息を吸う。
「はああああああっ!!」
雄叫びに呼応し、パーシヴァルの周囲に数十を超える槍が一斉に展開する。
それらを両手で掴み、投げ放つその速度は、加護で加圧された視覚を持ってしても追い切れない。
流星群の様に甲板上に槍が降り注ぎ、現れる端から死霊を駆逐していく。
「こりゃ、うかうかしてると何も出来ずに終わるわね。」
矢を放ち、槍から逃れた死霊を穿ちつつ、エルフの女性が笑みをこぼす。
「おいおいそいつは無いぜ、お前と違ってこっちは接近しなきゃただの肉盾だぞ?」
「いいじゃない、きちんと私を守ってくれるんでしょう?」
「へいへい、仰せのままに、我が姫君。」
いやなんすかこの甘ったるい空間は。
「口から砂糖吐きそうな気分すね……」
「わかりますわ、さっき発破かけておいてなんですけれど、糖度高めですわよね。」
頷き、手を差し出して握手する、片手が塞がってても投擲が止まないのはさすがと言うべきか。
「――! 見えて来た、ギラファさん!!」
さあ、約束を果たそう。私は、私に出来る事で、彼の助けになるために。




