第十二話 偽の王
走り出せ
駆け抜けろ
思考を止めずに加速しろ
(要約:やってやるっすよ)
「おおぉっ!!」
ギラファが雄叫びを上げ、交差させた大剣を払う様に振り開く。
押しのけられた衝撃に死霊の将たる男が退き、たたらを踏んで踏みとどまった。
『――――!?』
戸惑う様な動き、それを逃さず、翅を広げて地を翔け抜けたギラファの横薙ぎの一線が男の胸部に直撃した。
硬質な金属音が鳴り響き、男の体が更に後ろへ下がる。
「ギラファさん、その相手って――」
頭上に輝く王冠、白銀の鎧、そして事前に聞いていたワイルドハントの性質、そこから導き出せる答えはある。けれど、だとしたら逆に浮かび上がる疑問もまた、あるのだ。
「ああ、あれはアーサー王の似姿だ……しかも、当代のな!!」
「やっぱり……でも、だとしたらエクスカリバーは!?」
アーサー王と言えばエクスカリバーである、事実ギラファも聖剣に選ばれた者がその時代のアーサー王になると言っていた。
しかし、ギラファを警戒して構えをとる男の手には何もない。それどころか、右腕には鎧すら装備していないのだ。
「あれが、エクスカリバーだ。」
ギラファが大剣で指さす先、そこには剥き出しの右腕。
「はい!?」
「聖剣は本来、選ばれたアーサー王の最も愛用していた剣と同じ姿へと変ずる。だが当代のアーサー王は常に拳で戦う男でな、あの右腕、そこに聖剣の力が宿っている。」
それだけ告げて、ギラファが再びアーサー王の似姿に肉薄する。
袈裟斬りに放たれた右の大剣を、偽王がその拳で打ち返す。返す刀の左の薙ぎは、身を屈める事でやり過ごされた。
『――――!!』
両の武器を振り切ったギラファに対し、偽王が屈んだ姿勢を跳ね上げるように拳を振り上げる。
狙いはギラファの胸部、当たると思えたその打撃は、翅を用いた急激な後退によって空を切った。
「蜜希! こいつの相手は私が引き受ける! ――君は君の出来ることをしろ!!」
ギラファの一言に、つい足を止めて見入ってしまっていた事を思い出す。
そうだ、あのアーサー王以外にも敵はまだ大勢いる。ならば自分がするべきはギラファの戦いを見守ることではない。
「わかったっす! ギラファさんも、こっちは気にしないでいいっすよ!」
「それは無理な相談だだが、行くと良い、功刀・蜜希!」
「了解っす!!」
背後に拳と大剣のぶつかる音を聞きながら、自分は結界の方へ走り出す。
●
「やっぱり! ギラファさんがあいつに掛かり切りになった分、騎兵が結界に殺到してるっす!!」
見れば、結界を守る様に展開する守備隊を、更に取り囲むように死霊が隊列を為している。
とはいえ守備隊もさすがと言うべきか、後衛に頭上を警戒する弓兵を置き、前衛は死霊の隊列を防ぐことに集中している。時折矢群を抜けた騎兵が隊列を崩すが、直ぐにカバーして立て直している。
しかし、どうしても騎兵が隊列を崩した瞬間、死霊の歩兵がそこに切り込んでくる。そうして僅かずつだが守備隊が劣勢に傾いている上、何より死霊の追加が未だに収まらない。
……こりゃ、ギラファさんがアレを倒すまで無限に出てくる奴っすかね
だとしたら大したクソボスだ、ゲームだったら制作会社にお便り送りたくなってくる。
だがこれはゲームではないし、先程のエルフの女性が言っていた通り、此方が嫌がることをするのはあちらの最適解だ。
「だったらこっちも、せいぜいかき回してやるっすよ!」
走る、駆ける、そして意識を研ぎ澄ます。加護が思考を加速させ、足の動きは自分の限界を超えた速さを引っ張り出す。
「まずはそこ!」
跳躍、一瞬で2メートルほど飛び上がり、確保した視界で今まさに守備隊に斬りかかろうとしている死霊達へと符を投げつける。
出鼻を挫かれ、困惑する様に此方へ振り向いた一団を無視、着地と同時に身を廻し。去り際に追加で片手に挟み込んだ符の束を投げつける。
浄化の光が辺りを照らし、多くの死霊が此方に注目したのを確認しながら走り出す。
体が軽い、これだけの全力疾走で息一つ切れていない。そのことに感謝しつつ、向かう先は大きく回り込んで死霊群の反対側、今の動揺が伝わっていない連中へ再度符を投げ、また走り出す。
「とにかく、今は向こうをかき回すっすよ!」
どうも、あの王が出て来てから死霊の動きがより一層秩序だっている。それがあの王による指揮なのか、はたまた王が居ることで全体の能力が上がっているのかは分らないが、どちらにせよ厄介なこと変わりはない。
「嬢ちゃん!向こうはいいのか!?」
不意に、横から声を掛けられる。見れば、先程小隊を組んでいた顔見知りの兵士が、自分に併走する様に死霊を斬り捨てながら走っていた。
「あっちはギラファさんに任せてきたっす。私らは此処の死霊をどうにかしないと、アレ、素人の私でも分かるくらい結界にヒビ入ってるっすよね!?」
「ええ、どうも連絡だと遺骸各所も死霊がわんさか湧いてるらしくて、人手が全然足りないのよ! ここ十年は無かったわよこんな規模のワイルドハント!」
「嘆いたってしょうがねぇ! 嬢ちゃん、符は後どれだけある?」
兵士の声に、鞄の中の符の残量を確認する。
「蜜希でいいっす! 符はまだあと百はあるっすけど、このまま続くとジリ貧っすよ!?」
「いや、そんだけありゃ一先ず大丈夫だ、というか見た感じ異境の民だが、随分早く走れるな?」
「そうね、私やこいつに追いつけるのって、守備隊でもかなりのエリートなんだけど。」
「あーー、ちょいとこっち来た時に竜皇に加護を押し付けられまして、おかげで何とかなってるっすよ!」
受け答えをしつつ、近くまで降りて来ていた騎兵へ符を投げつける。だんだん向こうの速さや動きに慣れて来たのか、今なら偏差込みでほぼ当てられる。
というかこの符、どうも軽微のホーミング性能があるようで、投げると矢の様に飛んでいくのもそういう事だろう、なるほど、高級というのもうなずける。
「竜の加護か、ああ、なるほど、だからアージェさんに向こうへ返してもらってないのか」
結界周りの死霊に散発的に切り込みながら、兵士の男がそう声を飛ばしてくる。
「いや、こっちに残ったのはそれとは関係ないっすね、自分の意思っすよ!」
「へぇ? 一体どんな?」
エルフの女性も大したモノだ。自分に付かず離れずといった距離で走りながら、的確に上空の騎兵へ矢を放っている。しかも矢にホーミングが掛かっている気配がない、純粋な技術だけでそれを為している。
「決まってるっすよ!」
こちらも負けてはいられない、戦闘に関しては素人同然だが、こうした状況だけならゲームの拠点防衛でよくやってきた。
大事なのは敵の注意を防衛対象に向けさせない事。出来れば拠点に辿り着かれる前に排除したいが、この数ではそれは無理だ。それならある程度は拠点周りの守備隊に任せ、自分はそちらから死霊の注意を引き剥がすことに専念する。
「こんな不思議だらけの世界、めいっぱい楽しまないで帰れるかってんですよ!!」
「はっはははは! いいなぁ蜜希の嬢ちゃん、そういう奴らは嫌いじゃねぇ!」
「そうね! 命の危機だろうが何だろうが、どうせなら楽しんだ者勝ちだよ!」
「よっしゃ! テンション上がって来たっすから、もうひと踏ん張りいくっすよ!!」
「上等! さあ何処へ行く? ここまでくれば何かの縁だ、この戦闘が終わるまでは付き合うぜ! 嬢ちゃん!」
「まったく調子いいんだから。でもそうね、私も付き合うわ。頭上は任せて、貴女は死霊を減らすことに集中なさい!」
「助かるっす、お二人とも!」
よーし、こっちも派手に切り込むっすよー!!
【補足】
蜜希は恐怖を感じていないわけでは無く、普通にこの状況に対して怖い、死ぬかもしれないとは常に思っているのですが、それをねじ伏せる勢いで「まあどーせなら楽しむだけ楽しんでやるっすよ!」という狂人の思考をしています。
普段は常識人ぶっているけど、いざ鉄火場になると覚悟がキマって突っ込んでいくタイプ、守ると誓ったギラファは気が気じゃないと言いながらも、内心かつての相棒と被る姿に微笑んでいます(それはそれとしてハラハラはする)




