第十話 女神の遺骸
そんなこんなでギラファと二人、アーサー王の居城を目指してレッツゴー!
というわけだったのだが、今自分たちが何をしているかと言えば――
『―――――!!』
「ギャー!!ギラファさんそっちにデカイの行ったっすよ! こっちは気にせず頑張ってくださいっす!!」
「無理はするな蜜希、ダメだと思ったら術式符をばら撒きながら近くの防護術式まで走れ!」
「まだまだー!! こいつら動きは遅いっすから何とかなるっす!!」
キャメロットへ向かう女神の遺骸。地上から遥か数千メートル上空で幽霊の大群相手に大立ち回りを繰り広げていた。
「はいだらーー!!」
『―――――!!?』
術式符を投げつけ、数体纏めて死霊を浄化する。一体がロングソードを構えてこちらへ突撃してくるが、隊列崩して突出したらただの的だ、横に躱して符を投げつけてはい浄化。こちとら伊達に剣術家の祖父に「お前は避けるのだけなら名人級だな」とか言われていない、人と等しい動きと速度なら十分見切れる。しかも今は竜皇様の加護による加圧もありだ。
「まだまだ符はあるっすよ――!!」
足は止めない。加護のおかげで速度は此方が上だが、囲まれたら流石に死ねるし、ギラファが対応してくれているとはいえ、上には空飛ぶ騎兵が盛りだくさんだ。あれに死角から襲われたらマズイ。
だからひたすら走る、駆ける、と言うか逃げる。
遺骸の上を走り回り、死霊を纏めるように立ち回る。
この感覚はゲームに似ている。とにかく危険なのは死角から襲われる事。
だから動き回りながら死霊の動きを誘導し、視界から抜け出しそうな所を狙って符を投擲。
「まーったく! なんでこんな大事になってるんすかねぇ!」
そう、あれはつい昨日こと――。
●
「え? 徒歩で行くんじゃないんすか?」
渡された靴を履き、「お掃除用よ」と渡されたやけに量の多い術式符を束のまま通勤鞄に詰め込みながらアージェに問いかける。
周囲の建物の感覚的に、首都への移動は徒歩か、よくて馬車か何かだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
「ええ、普段だと精霊馬や長距離走破系種族、移動用礼装とかが主な交通手段になるのだけれど、今回は丁度いいから、アレに乗せてもらいましょう」
そう言ってアージェが指さす先、そこに見えるのは貨物の積み込みの為に停泊中の巨大物体。
そう、女神の遺骸である。
「え? あれって乗れるもんなんす!?」
「ああ、行く先を自分で選べるわけでは無いが、そうだな、ここウェールズの次の停泊地はキャメロットだから問題ない。 帰りは陸路になるがね」
「折角だもの、利用しない手は無いでしょう? 遺骸は長期間航行するから、表層には居住区画もあるのよ?」
「そっか、あれだけ大きいんすから、運航するにも人手が要るっすもんね。働いてる人の住む場所なんかも必要になるってことっすか。」
戦艦や空母などとは文字通りスケールが違う。全長十数キロの空飛ぶ物体を動かすのに、いったいどれだけの人手が必要になるのだろうか。
「まあ、昔に比べると遺骸の制御も随分と簡略、自動化が進んでるから、航行だけなら数十人で可能らしいのだけれど、ローテーション要員や遺骸の大半を占める貨物区画の管理、それらを支える福利厚生の人員や観光客なんかも含めると、数千人があの上で暮らしているわね。」
「数千人……と言われてもイマイチピンとこないっすけど、つまりあの上に町があるような感じっすね?」
「そうだな、種族差はあるが、やはり大地から離れれば余分な負荷が体や精神に掛かる。それを取り除くためもあって、あの上の娯楽施設や食文化の整い具合は世界トップクラスでな、それ目当てに乗船している者も多いほどだ。」
「それは楽しみっすね、初めての場所はちょっと緊張するっすけど、ギラファさんがいるなら安心っす!」
「あ、でも私って乗って大丈夫なんすか? 身分証とか一切ないっすけど?」
なにせ現状一文無しだ、あ、いや、とりあえずの軍資金はさっきアージェから渡されたのだが、まだこの世界の金銭感覚が分からないので何とも言えない。3万prって日本円で幾らくらいなんすかねぇ。
「大丈夫よ、ギラファちゃんがいれば大体は顔パスだから」
「一体何者なんすかギラファさん……五百年前の英雄特権まだ生きてるんす?」
「いやなに、定期的に遺骸の防衛任務を請け負っているのでね、その縁で何かと顔が利くだけだ。」
「なるほど……ん?」
「防衛任務?」
「ああ、そうだが?」
少し待ってほしい。いやまさかそんな、たまに、たまにある位っすよね、そんな毎回毎回航路の度に襲われているとかじゃ……
そう内心で自分に言い聞かせていたが、それは無情にもアージェの言葉に打ち砕かれる。
「遺骸は各国や各都市を移動するわけだから、当然その領域に入る度にそこ固有の神話由来敵対者や、遺骸そのものを憎悪する災厄の残滓なんかに襲われるのよね。」
「毎回の恒例行事ってことっすねヤダーー!!」
「落ち着け蜜希、勿論、大部分は遺骸の結界や防衛礼装で防げるものなのだが、時折、規模の大きなケースを引くと撃ち漏らしが重要区画まで乗り込んでくる事もある。そうした時への備えとして、守備隊の他に各国からの傭兵も雇用されるというわけだ。」
「あー、つまり基本的には予備隊みたいな感じなんすね。」
「ああ、――この時期は丁度ワイルドハントの頃合だから、なかなかに荒れるかもしれんがな。」
おや、何やら不穏な単語が。
「……ワイルドハント?」
「ヨーロッパ各所に存在する死者の狩猟団伝説ね、元々は北欧神話のオーディンの狩猟団だったはずだけど、時を経るに連れ形を変え、死せるアーサー王が率いているなんて伝説も存在するわ。」
「アーサー王……え? それってこの国の王様じゃないんすか?」
「ああ、当代のアーサー王は存命だとも。この国のアーサー王は襲名制でな、各時代で聖剣に選ばれた者がその名を受け継ぐ事になる。そして、ワイルドハントはその性質上、極稀にだが将として『歴代のアーサー王』の似姿を伴う事がある。」
「ふふふ、よかったわねぇ蜜希ちゃん。早速元の世界にはない未知へ飛び込めるわよ?」
「もうちょっと段階踏んでほしかったっすよ――――!!?」




