第九十一話 翌朝の大失態
誰かのせいにしてしまいたくとも
浮かぶは自分の顔しかないわけで
(要約:朝からお盛ん)
翌朝、布団の中で目を覚ました蜜希は、ぼんやりとした思考で体を起こそうとして、その身に感じる違和感に意識を覚醒させた。
……うわ、何すかこの、股関節あたりの嚙み込みが合わない感じ……!!
原因は分かり切って居ると言うか一つしかないのだが、体の全体的な疲労感も合わさって酷く動きがぎこちない。
「うぎぎぎぎ……」
「……何を得値の知れない動物の様な声を上げているのかね蜜希?」
「わひゃ!?」
不意に聞こえた彼の声に、思わず飛び起きる様に体を起こす。
「あっ、いたたたたた!」
筋肉が突っ張るような痛みに声を上げ、突っ伏す様に布団に倒れ込みそうになるが、むっと香る汗やその他もろもろの匂いにギリギリで体を支えて何とか耐えた。
これはヤバイ、何がやばいかと言うとこのまま再試合に持ち込みそうな勢いでヤバイ。
ふと彼の方に視線を向ければ、何時も通りの漆黒の甲殻からは僅かに湯気が立ち昇っている。手にタオルを持っている事から見ても恐らく朝風呂の帰りと言った所だろうか?
「ん? ああ、君が中々起きないのでな、軽く部屋に備え付けの露天風呂で体を流して来たのだよ。――朝食の時間まではまだ少しあるから、君も汗を流して置くと良い。」
そう言って洗い立てのタオルを差し出されれば、自分としては異議はない。実際体に張り付く汗の感覚が少し不快に感じてもいる。
「ありがとうございますっす、じゃあお言葉に甘えるっすね。」
タオルを受け取る為に掛け布団を退かそうとし、ふと気づいた。
……私、今全裸っすよ!?
「いや、まあ、既に隅々まで見られている訳だし、今更恥ずかしがるものでは無いのかもしれないっすけど、それはそれとしてやっぱり何処か恥ずかしい物でありまして。というかギラファさん地味に触覚が動いてるのはもしかして私の匂いに反応してます? マジっすか? このまま延長戦朝の部行くっすかー!?」
「……蜜希、全部声に出ているぞ?」
「――はっ!?」
いかん、思考が体を超越してしまった、超越と言えばアーサー王のエクスカリバーだが、ギラファさんのエクスカリバーは……ってくだらない下ネタ考えてないで落ち着け私、深呼吸しましょう深呼吸。はい吸って―――
――――思いっきり残り香を吸い込んでしまい結論だけ言うと朝食に三十分ほど遅刻しました。
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「おはようございまーす! いやぁ、ちょっと寝坊しちゃって、申し訳ないっす。」
軽く汗を流した(二重の意味で)自分とギラファは、食事用と皆で決めた隣室へと赴いた。
大体集合時間から三十分程経過しているが、まあ寝坊したと言えばセーフセーフ。
「…………」
「…………」
「…………」
おや、なにやら不穏な雰囲気が。
怪訝な自分の視線を感じ取ったのか、パーシヴァルがゆっくりと口を開き、
「……せめてもの情けでハッキリ言いますけど、貴女窓開いてたからさっきまでの嬌声全部聞こえてましたわよ?」
え?
「……私、昨晩に希様が生中継で実況しようとしたのを体張って止めたのですが、それ全部無駄だった気が……」
いや、ちょっと。
「アタシが百歳超えててよかったな、本来の体の持ち主の親友だったら通報もんだぞおい?」
「はぎゃああああああああああああ!?!?」
え!? さっきまでの恥ずかしい叫び声が全部お茶の間に筒抜けだったと!?
「あああああ! でも確かに昨晩ギラファさんといちゃついてる時に暑くなって窓開けた記憶あるっすよ――――!!」
あと、さり気にばあちゃん何しようとしてたんすかねぇ!?
「部屋の方向が違いますから昨夜のは聞こえませんでしたが。朝に関してはまあ、随分と情熱的な声で叫んでいた物ですわねぇ、教官が無口ですから余計に響くといいますか。」
「友人の嬌声聞きながら味噌汁飲むのって新手の拷問か精神トレーニングだよな、途中で何度か吹き出しかけたわ。」
「それに関しては味噌汁を頑なに離そうとしなかったククルゥ様のせいの様な……?」
「いやほら、何つーか意地になる時ってあるだろ? 負けたくねぇって言うか?」
「何と戦ってるんですのよ貴女……」
何やら女衆が話しているが自分としてはそれどころでは無いというか、助けを求める気持ちでギラファの方へと視線を向ける。
と、彼は軽く首を傾げる様な仕草と共に、
「てっきり私は、君にそういう趣味があって開けているのだと思って居たのだが、そうでは無かったのかね?」
「んな訳ないじゃないっすか―――!!」
刺激的な世界は大好きだが、そんなエキセントリック方向な刺激は現状求めていない。
いやまあ、ギラファとの営みがマンネリ化して来たら変化としてそういうのもありかも知れないが、少なくともまだ暫くは二人だけの時間として楽しみたいというか。
と、そんな事を考えていた所、何やらパーシヴァルがこちらへ手招きをしていたので、促されるままに三人に挟まれる様に席に着いた。
「……それで、ぶっちゃけて聞くのですけど、教官って全身甲殻で言葉選ぶと難易度ウルトラハードな気がしますけど、貴女随分とハッスルしてましたわよね?」
ああ、なるほど。確かにギラファは外骨格であり、至る所に尖った部分もある為、激しく体が触れあえば怪我をすることもあるだろう。
けれどそんな風に自分達が考える事など、彼が当然わかっていない筈も無く、
「あー、その辺はギラファさん自分の危険な箇所を完全に把握して、そこが当たらない様に触れてくれるっすからね。それにパー子、ギラファさんが異常に頑丈なのは知ってるっすよね?」
「ああ、キャスパリューグの爪を無防備に受けてへし折ってましたものね。――けれど、それが何か?」
その反応はもっともだろう。故に自分は追加で言葉を作り、
「あれ、甲殻自体がクソほど頑丈なのもあるんすけど、どうも甲殻を個別に振動させて衝撃を反射したり受け流したりしてるらしいんすよね。」
「? ですからそれが一体どういう関係があるんですの?」
確かに、今の言葉だけでは彼の甲殻の頑丈さを補強しただけかも知れない。だが、一部から連想すれば答えは出ているのだ。
「――あっ。」
どうやらフィーネは気づいたようだ。
立ち居振る舞いなどから実はそういう経験豊富なんじゃ無いかと思って居たが、こうした反応を見るにやっぱりどっかで経験した事あるのでは無いだろうか。
「……全身至る所で自由に個別の振動生み出せる人が、こっちの反応見ながらそれを的確に調整してきた場合、さあ私はどうなったと思うっすか?」
「その結果がさっきのお茶の間直撃かぁ……」
しみじみした口調で言うのは止めるっすよククルゥちゃん。
「と言うか君達、そういう話はせめて私が居ないところでするべきでは無いかね?」
「「「「はーい!」」」」
「良い返事をすれば良いわけでは無いからな!?」
まあ個性個性!




