第九十話 二人の時間
他人を完全に理解することなど出来はせず
他人を完全に理解する必要も在りはしない
けれど知ろうと思う心は否定される事無く
私は私が知らない貴方の事を深く知りたい
(要約:想いは等しく)
深夜十一時、夕食兼酒盛りが一段落付き、自分達はそれぞれ別の部屋に分かれる事になった。
パーシヴァルは一人部屋、フィーネとククルゥは同室だ、既に彼女達はそれぞれの部屋に入っていった。
なお、自分とギラファは二人で同じ部屋に入っている。
本来であれば四部屋ある為、二人別の部屋に止まる予定だったのだが、流石に少々食事と共にはしゃぎすぎ、食べ物こそ粗末にしていない物の部屋が結構散らかったと言うか、
『片付け』『他色々』『退出推奨』
とのことで追い出されたが、その直前にフィーネ達が蚕に何かを吹き込んで居たので仕組まれた気がしないでもない。
と言うか私とパー子が同室になればいい気がするんすけど、あの女ご丁寧に内側から鍵掛けおってからに。
まあ、ギラファとは既に遺骸の時などは同室だったのだし、恋人なのだから実際それを気にする関係でも無い。
にもかかわらず今自分が躊躇しているのは、旅先でちょっと開放的になっていることもあり、ギラファへの想いが抑えきれないと言うか、この状況で彼と同室になると何かの拍子に彼を襲いかねないからだ。
と言うか襲う、ええ間違いなく。
「蜜希、別に私は外の休憩スペースで寝泊まりでも構わないがね。基本座った姿勢で眠るので布団も必要が無いし、空調も効いているからな。」
そう彼は言うが、そうした彼の言葉はこちらへの気遣いだろう。
だったら、ここは自分が勇気を出す所だ。
「ギラファさんは、私と一緒に寝るのは嫌っすか?」
「そんなことは無いとも。……ん?」
よっしゃ言質とった。
「えへへ、それじゃあギラファさん、今日から一緒の御布団っすからね!」
「待ちたまえ、幾ら恋仲とは言え同じ布団と言う状況では万が一にも間違いが起きればまずいだろう!」
それに関しては心配いらない。
「大丈夫っすよギラファさん、絶対間違いなんて起きないっすから。」
「ふむ? それなら構わないが、随分言い切るな?」
そう、絶対に間違いなど起こる訳が無いのだ、なぜなら、
「お互い同意の上で行われる行為は間違いじゃ無くって正しい結果っすから、何も問題ないっすよ!」
「待て待て待て! 何か根本的な部分で間違っていないかねそれ!?」
叫ぶギラファに対し、自分は構わないとばかりにその手を取り、自分の胸元に抱き締める様に引き寄せる。
「……私とは、嫌っすか?」
「……そんな事は無いとも、蜜希。」
先程と同じ様な問い掛けに、返る答えもまた同様で、けれどそのまま言葉は続き、彼はこちらを抱き締める様に抱え込んできた。
「あ……。」
彼にしては強引な抱き締めに、吐息を漏らしてされるがままに。
「――良いのだね? 私とて、そうした衝動はゼロでは無いのだが?」
その言葉への回答など、既に分かり切った事だ。
腕を伸ばし、彼の体に身を寄せて、じっとその瞳を覗き込む。真正面だと瞳が見えないのはご愛嬌、すこし顔をずらせば問題ない。
「女の子がこれだけ勇気出してるんすから、応えてくれなきゃ嫌っすよ、ギラファさん?」
微かに震える声で紡いだ言葉に、返答は口づけのカタチで返された。
ひんやりとした彼の口元へ応える様に自分の唇を押し付ければ、繊維上の舌が唇を割って差し込まれる。
「ん……っ。」
湿り気を帯びた舌の感覚に、僅かに驚き体が震える。けれど拒むことはせず、むしろ自分から彼を求めて舌を絡ませ、吸い、離してはっと息を吐く。
「えへへ、ギラファさんの舌、なんだか不思議な感覚っすね。」
「人とでは体のつくりも何も違うからな、逆に私にとっては、君の何もかもが分からないことだらけだ。」
彼の言葉に、自分は苦笑を零す。
「お互い、分からないことだらけで、でも、だからこそもっと深く知りたいと思うのは、悪い事っすかね?」
「正誤の判断など下せるものはそう居ないとも。――だが、私は君をもっと深く知りたいよ、蜜希。」
浴衣の袷に彼の手が添えられ、それに応える様に自分は帯の結びを解く。
「……蜜希、君の全てを、確かめさせてくれるかね?」
衣擦れの音と共に浴衣が解け、全てを彼に曝け出す。
心臓が早鐘の様に脈打ち、自分の頬が、顔が、全身が熱を持って紅く染まるのを自覚する。浮かんだ汗が乾いてひんやりと熱を奪っても、即座に押し寄せる波がそれを遥かに上回る。
けれど、顔は伏せない。じっと彼の瞳を見つめ、恥ずかしさを抑え込んで笑顔を向けた。
「はい。……私の全部確かめて、ギラファさんの全部、教えてくださいね?」
包み込まれる様に抱き締めて来た彼の体が、いつもより僅かに暖かく感じたのは、自分の錯覚か、それとも……。




