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6.都会のセミと声の営業
「どうでした? 神社との打ち合わせ?」
スーツ姿の若い男が、今しがた帰社した中年の男に尋ねていた。
「もちろんバッチリだぞ」
「良かったですね。新規顧客で神社なんて、なかなか当たりじゃないですか!」
「まあな。でも神社ならわざわざウチに注文しなくても、自然の鳴き声で十分だろ?」
中年の男は、顎に手を当てていた。
「あー、あの辺りですね。なんかセミ取り名人の小学生がいるらしくて、片っ端から捕まえては、近所の医者に渡してるって噂ですよ」
「は? なんだそれ?」
「よく分らないですけど、ウチとしてはラッキーですよね。で、どれくらいの注文になったんですか?」
若い男は興味深々な顔つきだ。
「あー、ミンミンにツクツクとヒグラシ多め、祭用らしいぞ」
「なるほど! セミの声がないと風情が出ませんもんね」
「そうだな。で、秋にはスズムシの声もお願いするかもって言ってたぞ」
「マジっすか! ムシの声って儲かりますね!」