W 第一部 第一話 6
ここがオーシャンネットワーク
思ってたより、きれいな会社ね
十階建てぐらいかしら
全面ガラス張り
デザイン的には嫌いじゃないけど
セキュリティ的には大丈夫なのかしら
「ふぁ~」
さっきまで涎垂らして寝ていた相棒がふらふらした足取りで私の隣まで歩いてくる
「わぁ~大きなビル、水族館みたい」
そういわれると、見てるぶんにはいいけど
あの中で働きたいとは思わないわね
なんかあの人たちが展示動物に見えてきた
こちらの動物は、会社に属し、いろいろな課に分類され、オスはリーマン、メスはオーエルと言います
特徴として、同じ時間にこのケージに集まり、同じ時間にお家に帰ります
ぶん、ぶん、何、変な妄想してんの
「さっ、中に入るわよ」
「はぁ~今日は定時で帰れるかな」
人が気を取り直そうとした矢先これである
「あんた、またそんなこといって」
「だって~」
まぁ気持ちは分からないわけじゃないけど
「はぁ~、せめてどっかでやんないかなー、定時で帰ることに命を燃やす警察のドラマ」
「どんなドラマよ!」
「略して定刑!」
「やんないわよー」
そんなやりとりをしながら、中へ入る
「ふぅん」
さすがにまだ建ててから5年というだけあってまずまずきれいね
「まずは受付に行くの?」
「そうよ」
会社の中は自動ドアで簡単には入れたが、会社内のドアはすべて社員が持っているIDカードがないと入れないようになっていて、外部の人は受付で来客用のIDカードをもらう必要がある
まぁ他にも用があるしね
受付には茶髪ロングとこれまた茶髪ショートの二人の女の子がいた
ロングの子は宅配の配達員と話していたので、ショートの子に話しかける
「すいません、私たちこういうものなんだけど」
開口一番、手帳を見せる
下手に警察のものですといって風評被害を与えるのもあれだし
なによりこっちの方が話が早く進む
ショートヘアの子も最初はびっくりしたようだけど
すぐに社長の件であると察してくれたらしい
「どういったご用件で」
「そうね、まずは秘書の魚和周平さんに話を聞きたいんだけど」
「かしこまりました、少々おまちください」
内線で魚和に連絡する
その間、優が私の耳に口を寄せて話しかける
「受付の人のあのピンクの服って受付の制服かな」
「そうじゃない、他の女性社員は着てないから」
というか、わざわざ耳元で言うことなの、それ
「ふぅん、ダーリン、ああいう服好きじゃないかな」
「あんた人の会社の制服で何する気よ」
「なに、をする気だよ」
「はあ」
こんなくだらない話をしている間に電話は終わったらしい
「大変申し訳ございません、魚和はいま会議中ですのでしばらくお待ちいただけないかと」
「あら、そう、じゃあ貝殻瑠奈さんはいるかしら」
「貝殻なら午前は三階の事務室にいると思いますが」
「ならそこまで案内してもらえるかしら」
「わかりました、ではまずこちらの用紙に記入をお願いします」
「はいはい」
名前と所属、来訪理由を記入すると来客用のIDカードを渡された
「では、案内させていただきます、こちらへどうぞ」