W 第一部 第二話 16
「シン国王との会談は明日の午後になります、それまでお体を休めておいてください、何かありましたら隣の部屋におりますのでお声かけください」
「わかりました、あなたたちもゆっくり体を休めてください」
「お心遣い感謝します、それでは失礼します」
ミーサとケインはアリサ大使がドアのかぎを閉めたのを確認して自分たちの部屋に戻っていく
その後、しばらくして、かちっ、とアリサ大使の泊まる部屋の鍵が中から開けられる
「もう、大丈夫です」
聞こえるか聞こえないかわからないぐらいの小さい声だったが聞こえたらしく、
曲がり角から優が顔を出した
「うわあ」
優が部屋の広さに驚嘆の声を上げる
自分が住んでいるマンションはもちろん
アリサが泊まる部屋は彩夏たちが泊まる部屋の三倍くらい広かった
「一人ですから、こんなに、広い部屋を用意しなくていいんですが」
少し恥ずかしそうにしながらそう言うと、座布団を二つ持ってきた
「どうぞ、座ってください」
「あ、どうも」
二人は座布団の上に座り、互いに見つめあう
沈黙に耐えられなかった優が口を開く
「あ、あのー」
「ああ、すまない、少し考え事をしていた」
少し顔を赤らめる
「うおほん、実はあなたを呼んだのはすこし聞きたいことがあったからです」
聞きたいこと、正直、優には心当たりがなかった
ヨーロッパのお姫様が自分のような一般人に何を聞くことがあるのか
「何か、気に病んでることがあるのではないですか」
「っ」
何も言えなかった
自分ではちゃんとしていたつもりだが、周りから見ればそうでなかったのかもしれない
「どうして」
「別にあなたが任務に集中していなかったというわけではありません」
優が気にしていたことをあっさりと否定する
「ただ、なんとなくそう思っただけです」
「・・・・」
優が反応に困っていると
「もし、何かわだかまっているものがあるなら私に言ってくれませんか」
「え」
「付き合いが浅いから言える事もあるでしょうし、言うことで気が楽になることもあります、もし私に言える事なら言ってください」
その後はただ優しい目で優を見守っていた
「えっと、ぼく、昨日旦那とケンカしちゃって、ケンカっていってもぼくが一方的に相手を傷つけてしまったんですけど、それで、今日の朝仲直りしようとしたんですけどできなくて、それで」
おそるおそる、優が一昨日から気にしていることをアリサに伝える
「まあ、どんなに仲が良くてもケンカすることはあるでしょう、それで相手を、自分さえも傷つけてしまうことも、しかし、それは決して悲しいことではありません」
優は何も言わずアリサをじっと見つめる
「互いにぶつかり、互いに傷を負う、そうやって人は強く結ばれていくのです、初めから強く結ばれている者なんていません、何回もぶつかり、何回も絆を結びなおすそして強い絆で結ばれていく、あなた達は今、絆を強く結んでいる最中なのです」
「は」
優の目から涙がこぼれだした
「す、すいません」
「かまいませんよ」
優は涙をぬぐった後、少し赤くなった目でアリサを見つめて言った
「アリサさんは優しいですね」
「アリサでいいですよ、私、実は昔の記憶がないのです」
「え」
「14歳から以前の記憶が全くないのです」
「でも、普通、それぐらいの時の記憶なら誰でもほとんど覚えていないんじゃ」
「そうですね、でも覚えているでしょう、悲しかったことも、うれしかったことも」
「そ、それは」
「それが、今のあなたを形成している、でも私にはそれがない、だから今の私が言っていることが本来の私、本当の私の言葉であるのか自信がないのです」
話をしている間、アリサはずっと優から視線を外していた
「大丈夫、きっとあるよ、たとえ思い出せなくてもアリサの心の中に、だから、アリサの言葉は、ぼくにちゃんと届いた」
アリサは何も言わず、ただ少し微笑んでみせた
彩夏たちが待つ部屋に戻ろうとする優の背中にアリサが声をかけた
「明日の朝、この辺りを案内してくれませんか」
「え、でも」
いたずらを計画する子供のような笑顔で観光がしたいと言ってきた
その顔を見ていると、アリサも優と同じ女の子なんだと思えて、笑みが浮かぶ
「うん、わかった、じゃあ、いこっか」
優とアリサが同じ顔で、明日の約束をした




