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W  作者: maow
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W 第一部 第一話 3

満員電車を乗り終え、駅の外へ出ると、黒服の軍隊が足並みそろえて前進してる

「はあ」

やっと息苦しい場所から解放されたと思ったのに、この有様だ

「いやぁ、まぁオフィス街だから仕方ないんだけどね」

頭ではそう思っていても、こうも黒ばかりだと気が滅入ってしまう

「はあ」

文句を言っても仕方ないので、黙々と目的地へ向かっていく


変わり映えしないビルが乱立するなか、目的の建物を見つけた

何の変哲もない五階建てのThe ビルである

「服もそうだけど、ほんとこの国って創造性がないというかなんというか」

あまり考えすぎると気が滅入ってしまうので、さっさとビルの中に入る


三階奥の会議室

階段を使ってもよかったが、エレベーターを使う

予想通りエレベーターがすぐ来たので乗り込みボタンを押す

腕の時計をちらっとみると8時50分を少し過ぎたところだった

約束は9時からなので問題ない

目的の階に到着し扉が開く

やっぱり、という内装に少し呆れて

一本道なので迷うことなく目的のドアをノックして開ける


そこにはすでに先客がいた

小柄な私と違い、長身の女性である

「相変わらず、はやいわねぇ」

紺色の髪をひつに結び姿勢正しく座るその女性にあいさつ代わりの言葉をかけると

「そうか」

素っ気ない返事が返ってきた


そんなことは気にも留めずに、部屋の中を見回しめみると

買ったばかりなんだろう、真っ白な黒板と会議用の長机がドアの延長線上、部屋の真ん中にあり机を境にそれぞれ左右に椅子が二つずつ並び、部屋の奥、机と黒板の間に一つの計五つ


私は彼女の向かい側、左奥の椅子に座る

「あんた、いつも何時ごろ来てんの」

なんども聞いたから、予想はつくけど、聞いてみる

「8時半ごろにはもう着いていたな」

やっぱり、まぁいつもそうなのだから、大して驚かないけど、30分近く何もせずただ座っているんだと思うとやはり呆れてしまう


いつもならこの時間もう一人いるはずなんだけど、見当たらない

「優はいつものこととして、冬華はまだ来てないの」

「奥で寝てる。昨日も泊りだったらしい」

親指で自分の後ろの壁を指して教えてくれた

まぁそうだろうなぁ

残業続きで定時帰宅などほとんどない

まして彼女の場合は一度もないんじゃあ

日頃のストレスも相当なものであろうに

今も奥で寝ている同僚に日頃の感謝と同情の念を込めて祈る

なむー


ドン、ドン、ドン、ドン

けたたましい音がドアの方から響いてきた


「はあ」

呆れと安堵をないまぜたような気持ちになる


インパラのような足音が静まった瞬間

「おっはよう!はぁはぁ」

ドアがものすごい勢いで開け放たれ

小柄な女の子の元気いっぱいの大声が部屋中を満たした


「おはよう。じゃないわよ、あんたまたギリギリよ」

真正面に座る彼女と同じくいつも通りの言葉を彼女にもかける

「ごめん、ごめん。ふぅあちぃ」

こちらもまたいつも通りの返し

いつもの自分の席、私の隣に腰を下ろして

「おはよう、あきあき」

私の真正面、優からは左斜め前に座る彼女、秋にも声をかける

「おはよう、優」

秋はあきあきというあだ名で呼ぶなと何度か言っていたけど最近は言わなくなった

あきらめたらしい


「さいさいはいつもの派手な服だね」

「そうかしら」

赤いワイシャツに黒のパンツスーツ

優と秋は黒のスーツなので確かに二人に比べると派手ではあるけど

「さいさいの赤髪とよく似合ってるよ」

優は気に入ってくれているようだけど

「目立つと仕事に支障が出るぞ」

秋にはお気に召さなかったみたい

「わかってはいるんだけど、やっぱりこれぐらいはしないとやる気が出ないのよね」

「はぁ」

ため息を一つついただけで、これ以上は何も言われなかった

優だけじゃなく私についてもあきらめているらしい


「全く騒々しいなぁー」

目をこすりながら白衣を着た、水色の髪の、これまた小柄な女の子が入ってきた

「ふゆふゆ、おはよう」

「おはよう優ー、秋に彩夏もー」

「冬華おはよう、起こしてわるいわね」

「おはよう冬華、疲れは大丈夫か」

優が自分に対してのクレームを堂々と無視し、冬華も特に気にせず

いつも通りのゆるゆるした調子で私と秋も普通にあいさつをする

うちのマスコットである

「ふわぁー」

大きなあくびをひとつして秋の隣、右手前の席

いつもの席に腰を下ろす


「あれ、はるはるはまだ」

「少し、遅れているようだが、優、お前、一応私たちの上司に向かってはるはるは」

「いや、あんたも一応って」

「班長遅いねー、寝不足かなー」

「それあんたでしょうが」

他愛もないやりとりをしていると


「みんなそろっているようだな、会議を始めるぞ」

その一声が会議室に響くと

今までの騒がしさが嘘のように室内は静まり返った





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