W 第一話 第一部 2
「ん・・」
まだ寝ている俺のために弱くしていたのであろう
ちいさい明かりに眉をすこしひそめる
しばらくすると、明るさにも慣れ
ベッドから起き上がり、あたりを見回す
簡素なベッドに、これまた簡素な机といす、これ以外何もない
何とも無機質な部屋だ
しかし、
トン、トン、トン、というすこし甲高い
が、不快ではなく、むしろ喜びを表現している音たちがドアの方から小刻みに流れ込んでくる
このなんともいえない殺風景な部屋も
音たちによりデコレーションされ
ちょつとしたパーティールームのように感じてしまわないわけでもない
いつまでもその音楽を聴いているわけにもいかず、寝室をでて、
いまだに奏でられている音たちの方へ向かう
この音源がいるであろう部屋のドアを開け、入ると
夜空のような紫がかった黒髪を一つに結んだ、小柄な女の子の後ろ姿が見えた
彼女はドアを開けた音を聞き取るとすぐに振り返り
「あ!起きたんだ、おはよう」
満面の笑みで朝のあいさつをしてきた
「おはよう」
あまりにも気づくのが早かったので、すこしびっくりしてしまったが、自然に返すことができた
彼女は一瞬、にこっと笑い再び音楽を奏で始める
俺はその演奏を邪魔しないよう、ゆっくりとダイニングチェアまで移動して腰を落とす
テーブルの上に置いてあった新聞を手に取る
争いとはほとんど無縁のこの国で新聞に載っていることなど
政治家の失言や、芸能人の熱愛についてがほとんどである
まことに平和な国だ
どうせ今日もそんな記事ばかりだろうと軽い気持ちで目を通してみると
【オーシャンネットワーク社長行方不明】という記事が大々的に載っていた
オーシャンネットワークといえば今年で創立5周年を迎える、最近できた新しい企業だ。
たしか、新しいコンピュータのプログラミングを開発して
株価が急上昇していたような
社長はまだ40歳になったばかりだそうだ
まだまだこれからだというのに、惜しいことだ
半分同情、半分他人事の感想を抱いていると
目の前に熱々の味噌汁がおかれた
「朝ごはんできたから、一緒に食べよう」
どうやら演奏会は終わっていたらしい




