五十八話 欲望渦巻くアバロン帝国〜《その一》来たのは馬鹿貴族。
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現在カイウスと正義は冒険者ギルドで素材を売り終え、皆がいる高級宿へ帰ってきている。
それまでマックスが警戒中だったのだが、特に何もなかった。
しかし、やはり報告連絡相談は重要である。
爆睡していたみんなを集め、先程の高位貴族と思われる青年について情報を共有する。
この時、部屋の外で警戒に当たっているのはクロエである。
クロエはすでに先程の男について、皆が爆睡中、マックスが警戒中に少々調べてきていた。
屋台での昼食中に、遠くからの視線に気づいたクロエは対象を確認、宿に戻って部屋に入ってから、即行でその男の後をつけたのである。隠密はすごい!
クロエが把握できたのは、その男がマルスダルド侯爵家の人間だという事(馬者に紋章がついていた)、帝国に来る前に情報収集したときに要注意対象として挙げられていた家である事、現在は前帝時代の残党扱いされ粛清対象であること、そしてその男の独り言からハーレム願望系妄想型ナルシストである事などである。
そしてそのナルシスト発言により、その男が嫡男カルロスだと判断した。
アバロン帝国マルスダルド侯爵家嫡男のナルシスト振りは、闇に生きる者たちには有名だったのだ。
人の秘密を探る者たちは、そんなことまで知らねばならない。知りたくもないのに。しかし仕事だから仕方ない。人の趣味趣向も時には取引材料になる。
その男カルロスは独り言で言っていたのだ。
「最初は大量の魔物を殲滅するくらいだから、どんな不細工でごつい女かと思ったけど。
どの子も綺麗だし、可愛くて華奢だった。全員でも全然悪くない。むしろ良い!僕の隣にいても見劣りしない容姿に高い地位!」
ここから延々と続いた。途中から興奮し出したのか、声が大きくなり最後は叫んでいた。
一応場所は馬車の中なので、プライベート空間であると言えなくもない。
密かに近くで聞いていたクロエがすごいのだが、相手の独り言の内容がキモい。しかも最後は叫んでいる。キツイ。
なんだ、僕の隣にたっても見劣りしない、とは。どんだけ自分の容姿に自信満々なんだ。
クロエは帝国に来てすぐに、またしても変な男に遭遇する勇者一団に戦慄した。大した変な男ホイホイである。
世界中の男が何かしら変態的である、という説もあるが、もっと内に隠して欲しいものである。
クロエの場合、その内側の秘密を知るのが仕事なので内に隠されてもあまり意味はない。
これからも秘密の変態に遭遇しながら生きていくか、隠密なんて辞めるしかない。ガルド王国に仕えるのをやめた今、やめても特に損はない。
しかし、彼女はそれでも隠密であり続ける。彼女は崇拝する存在に少しでも必要とされる力でありたいのだ!
今後、彼女が闇で変態を見つける事が少ないことを祈るばかりである。
そんな彼女はカルロスを見て、誰かを彷彿とさせることに気がついた。
そう某勇者殿である。
見た目に共通点はない。両者顔は整っているが、白人系と日本人では元々の系統が異なる。
ただあの何故か自信に満ち満ちている感じや、他人が自分に好感を持つのを当然と思っている感じ、ちょいちょい自分の自慢を入れたがる感じ、そして自己中心的な言動がカルロスと某勇者の印象を近づけているのだ。
一言で言うと、同類である。同じ方向性に似ている性格を持つ二人、そういう奴らは雰囲気も似てくるものだ。
ただ一つ決定的に違うのが、正義には絶対服従な存在、宗教対象がいることである。
その相手がすごく真っ当に見えるので、正義も前より大分マシになっている。
犬でいう、好き勝手部屋の物全てで遊んでいた子犬が、待てとお座りができるようになったくらいのレベルアップである。残念ながら、今の正義はまだお手お代わりはできない。
しかし簡単な命令なら、きちんとこなせるようになったのだ。最初に比べたら随分な進歩である。
もう一度あの頃の正義を見たら、殴りかかり顔をボッコボコにする自信がある。それくらい酷かったのだ。
何度でも言うが、今でもマシになった方なのだ、アレでも。
そういう意味では、カルロスは今よりも初期の正義の方に似ている。つまり悪い方に。
カルロスは一度家に帰り、夜ごはんを宿の食堂で食べるだろう勇者一団の女性陣を待ち伏せするための準備をしていた。
カルロスは人を雇って宿の場所を調べていたのである。キモい!
そして自分の分の予約を取り、今夜から同じ宿に宿泊予定だ。すでにストーカーの域に達している。
しかも、自分の家があるのにわざわざ宿を取る。まるで浮気夫である。
クロエはカルロスがこの宿に予約を取ったところまでは情報を掴んでいる。
そのため早めに食堂に食事を注文、部屋で食べながら女子会を開く予定だ。決して食堂には皆を近づけない。
勇者一団の部屋は一つの階に集中させており、ここが仮想敵国の帝国であるため、階の他の部屋も押さえてある。
だからカルロスが、この階の部屋を取ることはできない。宿の主人にもそこの所はいい含めてある。流石は高級宿、話が早かった。
女子会後、真希達にカルロスのことを報告し今後の対策を練るつもりだ。
隠密であることを知っているのは真希と桃香だけ、アンネリーネは薄々感づいていそうだ。
すでに主人を変えた身である。時が来れば話したほうがいいだろう。
情報共有ができていない集団は脆く、崩れやすい。
だからその時は近いかもしれない、マックスの心のありようが分かれば決断を下すつもりだ。
クロエはひとり、扉の前で思案する。マックスが今でもガルド王国に忠誠を誓っているのかどうか。
彼以外が全員すでにその心を他に向けている。
王女アンネリーネは友である真希や桃香へ。
魔術師エーリカは友であるアンネリーネや真希と桃香そして魔導面でも崇拝すべき偉大なる存在シュフ様へ。
騎士カイウスは狂信を偉大なる存在シュフ様へ、。
そしてクロエもまた、、、。
この勇者一団は、偉大なる存在を一番間近に感じてきたのだ。
その圧倒的なまでの強さ、弱きを助ける優しさ、宗教されることに拘らない心の広さ、この一団にいてそれを心からわからない者などいない。
任務放棄といっていい行動をとっているのがその証だ。
ただマックスだけは、その行動も任務の延長である可能性が高いのだ。
ガルド王国第二騎士団副団長マックス=ミュリオーズ(47)、第二騎士団の良心と呼ばれ、【暴れ獅子】の異名を持つ第二騎士団団長の手綱を握れるほぼ唯一無二の存在。
騎士爵にありながら、一代限りであることを理由に47歳になる現在でも結婚はせず、国に仕えて三十余年。
その忠誠心と召喚者への誠実な態度を買われ、前回のモンスタースタンピートの援軍の旅に同行、戦闘時のリーダーを任される。
ガルド王国からの帰還を乞う話を断り、未だ勇者一団にい続ける彼の真意は。
そこまで考えてクロエは顔を上げた。害意が気配察知に引っ掛かったのだ。
今はもう夕暮れ時、おそらく早めに頼んだ食事が運ばれてくる頃である。
害意を含んだ気配とともに現れる食事が安全と言えるか、もちろんそんなことは言えない。
すぐさま扉に合図を送り、食事を運んで階段を上がってきた女の首にショートソードの刃を当てる。
女は驚き固まっているが、その目が泳ぐのをクロエは見逃さない。
暫くそのまま待っていると、部屋からマックスだけが出てきた。どうやらこちらの意図は伝わったようだ。
「この女です。」
クロエは端的に害意のもとを指す。マックスは頷くとクロエと場所を変わる。クロエはそのまま階下へ降り店主を呼びに行く。
こういう時、下手に物に触ると濡れ衣だなんだと言い逃れしてくる輩は多い。
この場の責任者の前でことの次第が分かれば、言い訳無用、時間も短くて済む。
店主を連れマックスのもとに戻ると、すでに女が食事に薬を入れたことを白状して泣いていた。
仕事が早いというか、人誑しというか、流石は第二騎士団のおふくろである。
店主とクロエを含め再度事情を聞くと、どうやら貴族と思われる男に脅されて店の食事に渡された薬を入れたらしい。
しかし、それならばクロエの気配察知に害意の反応は出ない。そういう場合、恐怖や心配の感情が大きく出るからだ。
クロエは女の話を嘘だと判断した。しかし、証拠はない。
ちらっとマックスを見ると真剣な表情の中、目だけがその女への殺意で溢れている。
その後クロエとマックスによる誘導尋問により、女は脅されたのではなく金を握らされていたことがわかった。
普通こういう高級宿の賃金は他よりかなり高い。今回のようなことを防ぐためだ。身元も調べられる。
しかし、その女は盛大に暴露した。
高級宿に泊まれる歳若く容姿にも優れた少女達を妬ましく思っていたことも。
誘導されたことで金のことがバレてしまい、被害者面できなくなっての逆切れでの暴露であった。
店主は必死に頭を下げ、宿のお代はお返ししますと言ってきたが、それはそれである。
ここでお代を返してもらうより、今後の安全の確保の方が大事なのだ。
ここからクロエとマックスによる圧迫交渉が始まる。
二人の目的は同じだ。
今後の安全を確保しつつ、この宿から侯爵令息カルロスを排除することである。
交渉はクロエとマックスの圧勝、薬を盛られる宿などと漏れて噂になれば高級宿などやっていられない。
わざわざ高い金を払うのは秘密を守り安全を買うという側面もあるのだから。
そのため、侯爵家令息カルロスの予約は別の客に上書きされ、他の高級宿への紹介という形での排除に成功した。
カルロスは、ならばご飯だけでもと食べていったがいつまで経っても待ち人は来ず、最終的には諦め帰った。おそらく自身の家へ。
クロエはマックスに問うた。何故そこまでするのかと。
マックスは決然と答えた。
「それが我々のためになるからだ。」
クロエは思う、その我々は誰のことを指すのか。
この後の女子会で、マックスの忠誠心がガルド王国を離れアンネリーネ個人にあることが桃香によって軽くバラされることになるのだが、今回はシリアス回なのだ。
そんな話はいいのである。そのまま放置していくスタイルでいく。
女子会後、全員での情報共有が行われた。
もちろんクロエが尾行時に得た情報がメインだ。
正義が現在、扉の外で警護中だ。
今回の標的は女性陣である。そして正義に何を話しても無駄だからだ。適材適所、話が通じない馬鹿だが警戒くらいできるだろうという簡単なお話だ。
もちろん正義の警戒など信用していないので、エーリカによる結界が張られている。
密偵クロエの決断の時は女子会のすぐ後にはやってきていた。
クロエからもたらされた侯爵令息カルロスの情報は女性陣のドン引きを買い、男性陣の同情も買った。
そう、ハーレムも、複数の可愛い女の子達からの熱い視線も、男なら皆一度は思い描き夢見るものだ。
しかし、それが他人に、しかも対象としていた女性達にバレるなんて悪夢である。
そして今はボロクソに言われ嫌悪の表情を浮かべられている侯爵令息に心の中で黙祷する。
もう絶対に願望が現実になるのは無理だし、彼女達に会ったらGを見るような目で見られるのは確実、骨は拾わないし助けもしないけれど、ご冥福をお祈りします。
それが彼らの共通した想いだった。
そして先ほど起きた異物混入事件である。
色々と調べるためにクロエが異物が入っていた食事を引き取っておいたのだ。証拠の確保でもある。
事件のあらましを伝え、真希達に鑑定をお願いする。
クロエもスキル鑑定持ちではあるが、真希達に比べると精度が低い。
精々が種類程度、実行犯が分かるわけもなく、指示した者など絶対にわからない。
比べる相手のスキルがすごいだけで、クロエのスキルの精度が悪いわけではない。それにそれを普段カバーするのが隠密の情報収集なわけだが。
クロエからの話を聞いた真希達はゲンナリしていた。
またしても薬を盛られたのだ。嫌な気分にもなる。
そしてあまりの犯罪者の多さに、ゲンナリする気持ちもわかってもらえるだろう。劇物および薬物混入は立派な犯罪です!
事前にクロエ達が排除してくれただけマシだろう。
ガルド王国ではこうはいかない。最低評価獲得、ガルド王国!
《スモークサーモンと胡瓜のピクルスのサンドウィッチ
状態:適量の媚薬入り
犯人:高級宿[精霊の舞]女性従業員(雇主マルスダルド侯爵家従僕)
ライ麦パンを軽く炙りそれにバターを塗り、レタスとトマト輪切り、ピクルスにした胡瓜、スモークサーモンをたっぷりと挟んだサンドウィッチ、味付けはマスタードとケチャップそして少量のマヨネーズと胡椒。》
またしてもサンドウィッチ!!!
そして美味しそうなだけあって、媚薬入りという言葉が憎い!
真希は鑑定結果を皆に教える。
やはりと言うか、案の定指示したのはマルスダルド侯爵家のものである。
ここで真希はずっと不思議に思っていたことを聞いてみた。
元の世界で媚薬とは、おまじない程度のものや、興奮剤的なものを指していた。
つまり、もし元の世界通りの薬なら目の前に対象がいないのに、わざわざ薬を盛る意味がわからない。
それともこの世界にはある特定の人物に恋愛感情を抱かせるような薬があるのだろうか。何それ怖い!
疑問を口にした真希に対する答えは、対象限定で絶大な効果をもたらす媚薬が存在すると言う恐ろしいものだった。
ド神官の媚薬攻撃が直撃していたらと考えて怖気が立った!
ただ現在では安心できる点もある。
対策方法があるという事だ。真希達のもつ魅了耐性、毒物耐性の装飾品がそれに当たる。
そして、最も凄い完璧な対策と言えるのが、いつからか獲得していた称号《偉大なる存在シュフの応援》である。
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《偉大なる存在シュフの応援》
全精神攻撃無効、全毒物無効、鑑定関連反射、スキル獲得率上昇、レベルアップ補正、害意感知、痛み軽減、タフネス
取り敢えず何にでも果敢に挑んで強くなれというシュフ様の応援。
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何これ凄い!!と思うほどの絶大な効果である。
他の神達の加護や寵愛にこんな効果はない。あるはずがない。
シュフの強くなれ!頑張れ!という意志が迸っている称号である。
真希達はこれがある事に気づいた時死ぬ程安堵したのだ。
この世界に来て、ずっと狙われ続けている。半年間、ジパンヌ王国滞在時以外ずっとである。
いくら耐性の魔道具があっても所詮は耐性、効くときは効くのだ。
レベルが100を超え精神力がかなり上がってからは少しだけ安堵したが、その比ではない特大の安心感。
これでやっとゆっくり寝れるし、安心して食べれると喜んだ。そして深い感謝をシュフ様に抱いたのだ。
しかし、それはそれである。
媚薬などを盛られることに慣れることもなければ、気にしなくなることもない!
嫌な気持ちも無くなるわけではないのだ!またしてもサンドウィッチに仕掛けてきたことに錯覚とはいえ悪意を感じる!サンドウィッチがトラウマになったらどうしてくれる!
真希達の殺意はマルスダルド侯爵家へと向かった。今後もしその家の誰かに会うことになれば血の雨を降らせることもやぶさかではないほどに荒れ狂う怒り!
また今回狙われたのは真希達だけではなく、アンネリーネやエーリカ、 クロエもである。
王女の食事に異物混入、相手は自殺志願者なのかも知れない。
取り敢えず、実行犯の女従業員の命はない。
なにせ知らなかったとはいえ他国の王族、しかも帝国を未曾有のモンスタースタンピートから救った援軍の責任者であり、派遣国の王女であるアンネリーネに薬を盛ったのだ。
これを帝国が放置した場合、最悪戦争になることもあり得るのだ。
まぁもし戦いになるなら今回の場合、戦争というより勇者一団による虐殺に近いことになりそうである。
クロエの話と異物混入の証拠品の鑑定が終わってすぐにマックスにより、その元従業員は城にある第二騎士団の詰所本部に連れて行かれた。
もちろん証拠と証言(魔道具で録音済み)をつけ、犯罪の対象者がこの国のモンスタースタンピートに援軍に来たもの達であり、その中にはもちろんガルド王国王女、救国の英雄である大賢者、聖女がいた事も付け加えてある。
話した相手は下っ端などではなく、街の安全を請け負う第二騎士団団長その人である。
ついでに指示を出した主犯についてもボヤかしてだが教えておいた。証拠はないが騎士団がやる気を出して調べればすぐにボロが出るだろう。
ここでの騎士団の対応次第で、勇者一団は帝国を去る決断をした。
救国の英雄に薬を盛っておきながら、それに誠実な対応をしない国などと今後交流を持つ気はない、という意思表示だ。
そして新皇帝が未だに騎士団すら手中に収めていないのならば相手をする価値すらないと、アンネリーネは考える。
アンネリーネは無能、それも他人に迷惑をかける無能が大嫌いなのだ。嫌悪していると言っていい。
そして各国要人が集まる即位式に、救国の英雄である勇者一団がいなければどう思われるかなど決まっている。
、、、まぁその要人がわからないなら、国に問い合わせるだろう。
たまにあるのだ、儀式関連ならそこそこの要人で済ませる国が。そういうことに興味のない脳筋の国では、部下に出席を放り投げることなどよくある事である。
はてさて、新皇帝のお手並み拝見、とアンネリーネはほくそえむ。
自身が簒奪を企てた身、簒奪者ルクレウスには期待に応えて欲しいものだ。
もし、その期待を裏切るというのならこの国ごといただいてしまうのも面白い。真希達と楽しく、変態のいない暮らしができる国が欲しいと思っていたところである。
アンネリーネはどんな時も利は必ず貰っていくタイプの女傑である。損害が出たら、その倍で奪いに行くし、今後そのようなことすら思いつかないようにトラウマを植え付ける事も忘れない。
皇帝ルクレウスにも前回の件できっちりとトラウマを植え付けてある。それを再度繰り返すというならば。
アンネリーネの顔に獰猛な笑顔が浮かぶ。
その後、マックスが帰ってきて城での状況を説明した。
第二騎士団団長はすぐに皇帝ルクレウスの側近である現宰相に話をつけた。
その場で従業員の女は死罪は決定し、そのまま牢獄へ連れていかれた。
そして宰相、第二騎士団団長は、指示を出したと思われるマルスダルド侯爵家のことは皇帝ルクレウスにきちんと報告し、今後徹底的にマークすることを誓った。
しかしマックス的にはマークだけでは全く足りていない。すでに相手はこちらに手を出してきているのだ。
だからマックスはこちらで対処する事もあり得るとして帝国の侯爵家だろうと処断する権利を、勇者一団に与えることを両名の名で保障させた。書面と魔術両方で。
第二騎士団団長と宰相のそれぞれの署名とその家紋が入った書類をアンネリーネに渡す。
魔術については真希に鑑定による確認をお願いし、きちんと魔術での契約がなっている事の証明がなされた。
手際のいいマックスに、帝国の態度次第では殺る気満々のアンネリーネは至極ご機嫌だ。
これで皇帝がたとえ後から何か言ってきても、正当な方法で叩き潰せる。
まぁ無くても何とでもなるが、カードは多ければ多いほど取れる方策は増えるのだ。その方が万倍も楽しいではないか。
相手がきちんと行動すればよし、そうでないなら。
久しぶりに弄ぶ系女子の顔がのぞくアンネリーネ。お友達全員を狙われた今回の事件で、実は非常に怒っていた。
女性の心を薬で手に入れようなどという無粋な輩など消炭にして仕舞えばいいのですわ!
メラメラ燃える怒りのドス黒い炎はマルスダルド侯爵家よりも、それを放置している帝国皇帝ルクレウスに向かう。一人の王族として為政者への視線が人一倍厳しいアンネリーネである。
真希達の殺意はマルスダルド侯爵家へ。
アンネリーネの怒りは皇帝ルクレウスへ。
マックスの怒りは今回の件が起こる前に、あらゆる証拠を集め侯爵家を追い詰めることが出来なかった騎士団へ。
そしてクロエは今後も淡々と仕事をこなすだけであるし、エーリカとカイウスも今後の相手の態度次第で目標を変える。
正義は何も知らない。知ってても意味がないからだ。
しかし、基本全員がマルスダルド侯爵家は敵であると判断した。当たり前である。
そこで今夜はお開きとなり、夜の警戒はカイウスが担当し、途中で交代となる。
そしてここから勇者一団は厳戒態勢に入ることになる。対妄想系ナルシスト型変態野郎用厳戒態勢である。