四十八話 裁きの時《聖エルリアナ神国》其のニ〜自称神はゲロる!そして大罪人ガヴリエルへの罰
残酷な表現があります。大丈夫な方だかどうぞ!
夕陽がユダリエルの白金の髪に反射しきらきらと光り、まるで祝福されているようだ。
長い睫毛が影を作り、人離れした美貌の彼が目を瞑ると本当に精巧な人形のよう。
部屋には光が満ちて、とても眩しい。夕陽が直接部屋に入って来たようだ。
その時いきなり、どんっと一気に体に圧がかかる。
それぐらいの存在感が部屋にいた全ての者にのしかかる。
とある国側にいる人々はなんだ?という顔をするだけでなんともないが、それ以外はまるで首を垂れるようなしてその圧に耐えていた。
各国の護衛連もこれには動けず、すでに膝を折っているものさえいる。
魔王四天王の二と四すら、頭を下げ圧に耐えるのが精一杯だ。汗が止まらない。それは畏怖か、圧に耐える脂汗か。
あれこれ俺の時キョートエドの人ら大丈夫だったの?
そんな中場違いにも軽やかな、しかし艶のある声が聞こえた。
「あらあら、ごめんなさいね。こんなになるなんて思わなくて。」
嘘つけ!と思うくらい楽しそうに笑いながら喋っているのは、ユダリエルの体だ。
しかし、その楽しそうな様はさっきのどこか初々しいものとは全くの別物。
体への圧が少し楽になり、顔を上げることができるようになった皆が見たものは、ユダリエルの顔をした何かが妖艶に笑っている姿だった。
コロコロと鈴がなるように笑う姿は可愛らしいのにどこか艶やかだ。
体を押し付けるような圧力はそこから発されていた。
圧倒的な存在感、神エルリアナの大一之宮を依代にした神おろし。
ユダリエルの言う通りに顕在した神エルリアナを、未だに体が微動だにしないほどの圧力に耐えながら観察する。
なにをするつもりなのか。
謝るつもりがないことくらい先の圧でわかっている。
ならば許せとでも言うつもりか?そんなこと容認できるわけがない。
しかし今、神エルリアナの圧の前では何も出来ないことがわかっていた。
部屋にはただ神エルリアナの笑い声だけが響いていた。
自分の力を見せつけるように動けない者達を睥睨する。
、、、一部全く効いていない奴らのことはスルーした。
そこにツッコんでいては話が進まない。
もし、ユダリエルの警告を聞かなければ人間離れして美しい顔とその表情、そして圧倒的な存在感に抗うことさえしなかったかもしれない。
それほどまでに神とは凄まじい。
コレを身に宿しながらも抗ってきたユダリエルに各国の代表は敬意を表するべきだと考えを改めた。
自分たちと同じだなどと、そんな生温い存在ではないではないか!この神エルリアナは!
心の中で自分を罵るように皆が思ったのだ、神という存在を甘くみすぎていたと。
これに抗い諫め、そして誘導したユダリエルは全てが我々とは別次元にいたのだ。
悪い言い方だが、ユダリエルもまた化物だ。
「ねぇ外務二之宮?話はどこまでしたの?」
それぞれが神に圧倒され、ユダリエルの行動とその精神力の凄さを感じていた時エルリアナが外務二之宮ラファエルに話しかけた。
そうだ、二之宮は神問いができるほどには神に近しくある者だ。
これに耐えて返事ができるならば、その地位にあるすべての二之宮は総じて尊敬に値する。
代表者達がそんなことを思っていたのだが、外務二之宮ラファエルはすでに、失神していた。
当たり前である。
神エルリアナは先手必勝とばかりに神問いなどの時の10倍以上に自身の全てを上げて乗り込んできたのだから。
ここで気絶してない各国の人々が凄いのである。あ!何人かは気絶してる!特にガルド王国とアバロン帝国らへん!
外務二之宮ラファエルの返事がないのに機嫌を悪くしたのか笑っていた眉間に少ししわを寄せエルリアナはラファエルを見た。
そのラファエルの失神で今の自分の状態に気づいたらしい。
一瞬だが、あっ!て顔をしたの見えてたぞ!
そうだ!いまの状態で起きていられるわけがない!
特に信者にはキツイ!宗教心により精神的にもクルからだ!
全ての10倍化をやめて、存在感だけは残したらしい。
ラファエルが失神していたことはスルーして話を続けるエルリアナ。
信者へのフォローはなしか!
「我が国の大罪人ガヴリエルが愚かなことをしました。
ここに連れてくるのでお好きにしてくださいな。
本当にすまなく思いますわ。
わたくしの名を出せばなんでもできると調子に乗ってしまっていたみたい。」
軽い!謝る気が微塵も感じられない。
これなら謝らない方がまだなんとかなる。
なんか金持ちマダムが自分のペットの粗相を出入りの業者に詫びるくらいの軽さだ!
お詫びの品です、とばかりにガヴリエルをお好きにどうぞと言っちゃうとこもすごいマイナスだ!
エルリアナが軽く手を床に向けると、ホワリと光って何故かそこにガヴリエルがいた。
偉大なとか言われてる誰かが精神安定的な何かをかけたので、いきなりの転移にも安らかーな顔をしている。
しかし肉体的に縛られ魔力も封じられ横たわる姿はまさに大罪人。
いきなりの転移に驚いたのが魔族の国の者達だ。魔導ヲタク疑惑のある宰相ノアールを含め驚愕の表情をしている。
きっと、なにかが珍しいんだと思う。エルリアナの今した転移。
そんな転移なんて知ったことか!とエルリアナに噛み付いたのがジパンヌ王国国王ミツクニである。
爺ちゃん結界で分かってないかもしれないけど、相手自称神だよ?大丈夫??
「今の発言、自分の部下すらまともに教育できないということでよろしいですかな?」
噛み付いたけど、穏やかな笑顔で声も穏やかなんだが、あなた今、自分の部下のしつけもできないって言いましたよ?って直球で言ったも同然な発言。
エルリアナは笑顔を保っているが口の端辺りがひくひくしてる。
「そして責任の取り方が、部下に全て押し付けて、生贄に差し出すだけ、そういうことですかな?
それを言うためだけにいらしたと?ならばなんと恥知らずなことを。」
続け様に侮辱というか、事実を指摘され恥知らずとまで言われてエルリアナの顔が怒りで赤く染まっていく。
本人的には神がここまで言ってあげてるのよ、這いつくばって礼でも言いなさいな、くらいに思っていた。
しかし被害にあったジパンヌ王国国王は、何言ってんだ、馬鹿か?いや馬鹿の恥さらしか。
責任を全て部下に押し付けて笑っている屑が、と憤怒を穏やかな微笑みに隠して神エルリアナを汚物を見るような目で見ている。
神エルリアナの怒りを感じ取り、今は護衛のエルフ、ウリエルとその他がさっと傍に立つ。
真希と桃香は相手が攻撃してきたらジパンヌのメンバー全員への防御結界がはれるようにエルリアナをうかがう。
まぁ結界があるからなんだがな、平気なの。
ほら!とある存在がかけた奴!ジパンヌ王国全員にかけた奴!
そして彼らの行動はエルリアナが本気を出せば蹴散らせる。その結界がなければ。
正義は特になにもしてない、ずっとガヴリエルを見てる。なに?拘束フェチ?
「さすがに言い過ぎではないかしら、不敬だわ。
原因のガヴリエルをあげると言ってるのにまだ欲しがるの?強欲ね。」
お話にならないようなことを言い出したエルリアナ。こいつのどこが聡明だ!
「はて?強欲ですかな?
自分の国を失う原因を取り除こうとするのは上に立つものの義務でしょうなぁ。
それすらわからぬのならば国のトップなど辞められるがよろしかろう。
国の下の者らが気の毒じゃわい。
それにそんな話の通じないトップなど他国も迷惑なのでの。」
待て待て爺ちゃん!この存在感だけでも感じて!神だから自称でも神!
一瞬驚愕の表情をしたジパンヌ王国国王ミツクニだったが、すぐさま穏やかな微笑みを浮かべ汚物エルリアナを見た。
え?エルリアナ=汚物!?
しかもあの存在感を気にしないだと!?
「だから原因であるガヴリエルをそちらでどのようにしてもらっても構わない、と言ってるのよ?
わたくしだって国の滅亡の原因を取り除く重要性程度わかっているわ。
だからこそ、拘束してまで連れてきたのよ。」
エルリアナは訳がわかないようで笑顔もなくただ淡々とミツクニの言葉に返事を返す。
その返事を聞いて普通なんと返すのが正解なのか。
エルリアナが馬鹿すぎて答えに困る。
ガヴリエルは確かに原因ではあるが、そこまで増長させた原因をなんとかしなければ第二第三のガヴリエルがうまれるだろう。
そのたびに今回のようなことがあっては幾つの国が潰れるかわからない。
ミツクニの言葉をエルリアナは全く理解できていない。それが良くわかる返事だった。
ホント馬鹿、バ神。
話すのはもはや無駄、話しても理解する気がない相手にわざわざ時間を割くほど我々も暇ではない。
ジパンヌ王国国王ミツクニとエルリアナのやり取りを見ていた各国代表は各々に判断を下した。
ほぼみんなが同じ意見である。この神エルリアナに時間を使うほどの価値はない。
いつまでも何も言わないミツクニになにを思ったのか、エルリアナは指を鳴らすだけでガヴリエルの拘束全てを外した。
目がギラギラしていた頃のガヴリエルならここで一番魔導が達者であろう魔族の宰相ノアール(魔導ヲタク疑い)に従属魔導を使い、弾かれ、次に魔王四天王のニに使い、弾かれ、、、
あれ?なんか特に問題なかった。全員弾くか、操られても速攻で周りに制圧される。
そんな特に問題ないガヴリエルが大人しく横たわったままなのが気に入らなかったのかエルリアナは行儀悪く足で踏む。頭を。
あえてそこ選んだならエゲツない自称神である。
踏まれた頭が痛かったのか、足を叩き落としてガヴリエルが起き上がった。そしてエルリアナを上から下までゆっくり見た後で、安らかーに鼻で笑った。
「ユダリエルの体を使って神おろししても中身がエルリアナ様だとここまで美しさが損なわれるのですね。
ユダリエルなら足で踏むなんて下品なことなどするはずがないし、すぐにわかったわ。」
いきなりの中身がエルリアナだとユダリエルがブサイクになる宣言の後の下品呼ばわりである。
その最中も顔は穏やかーなので逆に本気で貶されてる感が半端ない!
エルリアナは先ほどまでの無表情から一転般若の如き顔になる。
女の容姿は同じ女に貶された時が一番心にクル。同様に服装を貶された時もクル。
今までエルリアナ至上主義だったガヴリエルも、ここまでの間にそうではなくなったようだ。
逆にユダリエルへの執着が半端ない感を醸し出してる。
エルリアナは般若の形相のまま、自分の怒りを抑え込み、ガヴリエルを無視。
周りに話しかける。
「神にさえこんなに横柄なのです。
今までの我儘もこの調子だったのでしょう。
わたくしも何度も諫めましたが残念なことに彼女はずっとこのままでした。
哀れな信徒を救えなかったことは確かに罪ではありますね。申し訳ないですわ。」
謝ってる感がゼロ!付け足したような、申し訳ないですわの一言に唖然です!
全体的に白々しい!
エルリアナのこの言葉に反応したのはガヴリエルだ。
「私エルリアナ様に諫められたことなんて一度もないんですけど。
私を諫めてくれたのはユダリエルだけ。
外務二之宮も内務二之宮も総括三之宮も何にも言わなかった。
ああ、実務三之宮は同じ三之宮が上をかき乱すのが楽しかったみたいだったかな。
そんなだから、もちろん特に何にも言わなかった。
私が少しでも悪いことをすればユダリエルは何度でも言い聞かせてくれる。
天啓を言い訳に使ってはいけない。
他人に迷惑をかけてはいけない。
自分が嫌だと思うことは他の人にもしてはいけない。
神の名を汚してはいけない。
他の人は何も言わなくても、ユダリエルだけが私を見てくれた!
3500年、時には何も言われない時期もあったけど続ければ、もっと酷い事をすれば必ず諫めてくれた!
それにエルリアナ様は私が天啓で悪いことしても、自分の欲しい装飾品や宝石、魔物とかが手に入れば何も言わずに喜ぶだけで一度も諫められたことなんかなかった。」
内容に一同唖然。
ユダニエルの苦労をまざまざと見せつけられる台詞である。
一人称がわたくしから私に変わっちゃってるガヴリエルなんて放置でいい。話し方まで変わってるから尚更だ!
幼児に言い聞かせるような言葉を3500年にもわたり言い聞かせ続けたユダリエルに何を言えようか。
言い聞かせていた相手であるガヴリエルがまるで嬉しいひと時の話をするようなのがまた悲惨さを際立たせる。
何一つ届いていない、一堂に虚しさが込み上げた。
そして、そのガヴリエルをエルリアナが許していた理由にも唖然だ。
欲しいものが手に入るから放置していただと?まるで盗人ではないか!!!
一同の怒りが頂点に達する前に、今度は聞き逃せなかったのかエルリアナがガヴリエルに言い返す。
「何を言っているの?ユダリエルが気にしているのはわたくし。
何度もユダリエルに言われたわ、ガヴリエルの愚行を止めるようにね!
あなたユダリエルに愚か者だと思われていたのよ?
ユダリエルが諫めるのもわたくしだけ。
他国を侮辱する行為を見逃すなどあってはならない。
他国の面子を潰すなどあり得ない。すぐに該当者に処罰を。
必死な顔が可愛くて、また見たくて放置したわ!
今回あなたをモンスタースタンピートの原因究明に外に出すのにも最後まで反対してた!
何をするかわからないから、せめてこの騒動の間は国に閉じ込めておいて欲しいって!
どれだけの愚者だと思われてるのよ、ガヴリエル!
まぁでもわたくしには関係ないことだもの、心配は嬉しかったけど。」
怒りが唖然に変わった。
この神全部ゲロりやがった!
なんだよ!必死な顔が見たいって!この変態に気に入られたばっかりに!
どんな陳情もエルリアナの頭をスルーして、ただユダリエルの表情にでも見惚れていたのだろう。
そして今回の件についてもユダリエルはしっかりと警告して対策をお願いしていたのだ。
それがなされていれば!もうユダリエルを責めるものはここにはいない。
地位が二位だろうと、一位が話を聞かない馬鹿なら簒奪くらいしか止める方法などない!
その一位が下手にカリスマがあるなら余計に他に方法がない。
そしてユダリエルの場合一位が神、しかもユダリエルの表情に執着する変態、そのためならなんでもするド変態!
そして周りはその変態の信者だけ、何度諫めても変態は話を聞かないばかりか、その表情もっとみたい!とあえて放置していくスタイル。
ユダリエルの諫める声を聞いていても何故か自分には関係ない、ですませてのスルー。
他の人間に訴えても、相手は神の僕、すべて神優先、もちろん神の答えのイエスマンそしてあの変態の信者。
そんな連中に話が通じるわけがない。
根本的問題だったガヴリエルにいたっては、ユダリエルの言い聞かせ目的のように愚行を繰り返している。
しかも内容は覚えていても結局スルーしている。
ユダリエルがその目的に気づいて無視に切り替えるも、今度はガヴリエルの愚行はエスカレートする。
言い聞かせを再開しないわけには行かない。
八方塞がりとは、まさにこのこと!
もうガヴリエルを殺すか、エルリアナをどうにかするしか方法がない!
未だに続いているのはユダリエルがいかに自分を諫めたか合戦というか、神国を何とかしようというユダリエル奮闘劇である。
健気なまでの意見具申、陳情、時には鉄拳制裁までしている様を延々と聞かされている会議の面々には半泣きのものもいる。
先程汚物としてエルリアナを見ていたジパンヌ王国国王ミツクニはガヴリエルも汚物と認識したらしく、同じ目で二人を見ていた。
この会議どうやって終わるの?と誰もが思っただろう。
未だに神エルリアナの存在感は皆をそれなりに圧迫しているのだ。
ここは頼りになる開催国国王レオンが何とかしてくれるかと思えば、なんかニヤニヤしている。
息子の王太子もうずうずしている。
というか獣人の国の皆さんが、これは今までにない強敵の予感!?とばかりにみんなが戦いたそうにうずうずしているのだ!
待て!と思い、もう一方の戦闘狂竜人の国の方を見ると、こちらも獣人たちほど顕著ではないが明らかに力を試すモードになっている!
それをうずうずしなからも宰相ユニティが小声でやめなさい!と止めている。
え?獣人と竜人は脳筋なの?相手自称でも神ぞ?
ホントにやめときなさい!
君達じゃ勝てないから!自称神による殺戮パーリィが始まっちゃうから!
どうやら2組とも神エルリアナ=元凶=敵=戦ってもよし!という流れを辿ったようだ。
わからんわ!脳筋の思考回路などわからんわ!
魔族たちは全く動かない。ただ警戒心剥き出しでエルリアナを見ている。
こちらはガヴリエルを転移させた魔導と、拘束を解放した魔導が魔族的にはあり得ないレベルのものだったらしく、激しく警戒心を刺激されてこうなったようだ。
うん、どこかの脳筋共とは違う、妥当でまともな判断といえよう。
ドワーフの王国オルディンはどっしり構えて動かない。
視線はジパンヌ王国へ向いているようだ。
ドワーフ国王オルディンは被害国であるジパンヌ王国の判断待ちである。
本当に見かけと種族は関係がないほどに思慮深い、繊細な心遣いと姿勢である。
普人の国はジパンヌ王国以外全滅、失神している。
途中で、もっと怖い思いしろ!寝てんじゃない!と失神から起こしたのだが、またすぐ失神した。本当に残念な馬鹿共だ。
恐怖を与えるのにも苦労しなくてはいけないとは。
失神していると言えば、聖エルリアナ神国外務二之宮ラファエルだ。
自国のことは自国でなんとかしろ!と失神から起こしてあげてみた。
ラファエルは起きてすぐに周りを確認。
夕陽が沈んでることに気づくと焦った様子で立ち上がり、エルリアナの肩を掴む。
「エルリアナ様!
こんなに長い時間の神おろしなど!ユダリエルの体と精神が!!」
絶叫である。
焦った表情と真っ青な顔色、震える声に唇、そして手。相当にヤバいらしい。
かれこれ2時間?くらいは経っている。
エルリアナも自分の失態に気づいたのか慌てた様子が表情に出た瞬間に抜け落ちた。
ユダリエルの体はラファエルに支えられるもだらんとしており、ピクリとも動かない。
倒れかかった拍子に編み込まれていた髪が崩れ髪がさらさらと、支えているラファエルの体にかかる。
ラファエルはそのままユダリエルの体を横たえた。
体温を確認し脈を確認、その後呼吸を確認後、おそらく治癒魔術を何度も何度もかけ続ける。
その間に魔導を扱える魔族の存在に気付いてユダリエルの体を任せる。
魔族の宰相ノアールが一度治癒魔導をかけて、首を横に振った。
その意味を皆が理解していた。
拘束を解かれていたガヴリエルがユダリエルの体に縋り付く。離すまいとユダリエルの服を掴んでいたそれを引き剥がしたのは何故か正義だ。
「彼は君たちの愚行に振り回され続けて逝ったんだ。
君達の!愚かな行為に!心は疲弊し!逝ったんだ!
最後くらい静かに眠らせてやれ!」
正義にしてはかなりまとものことを言った。
その言葉に一瞬言い返そうとするも何かに気づき呆然としているガヴリエル。
それを再度拘束するために近くの者達が協力し、拘束されたガヴリエルを外の兵に任せて部屋から出した。
ガヴリエルは地下牢にでも連れて行かれるのだろう。
ラファエルは呆然としてユダリエルの体を見下ろす。
ぽつぽつとラファエルは謝罪した。
「大一之宮ユダリエルは何度も何度も我々に、私、内務二之宮、総括三之宮、実務三之宮に言っていたのです。
今のままでは天啓さえあればガヴリエルが好き勝手した挙句になんの咎も受けさせられない、それでは反省のさせようがないと。
だからこのままであるなら、いつか必ず聖エルリアナ神国自体がその咎を受けることになると。
その前に我々は変わらなければいけないと。
その最初の一歩としてガヴリエルを罰するべきだと。
彼が言ったこと全てが正しかった。
我々は彼が権力を持たないことをいいことに、それを無視し、神が許されるならばそれが正しいのだと繰り返したのです。
本当に愚かなのは我々であったのに、正しい彼を愚か者のように扱った。
彼には何の罪もありません。
しかし聖エルリアナ神国全ての代表であるその上層部は彼を除けば皆咎人。
今回の件もすべては我々が考えず、何もせず、ユダリエル様の警告を無視し続けたからこそ起こったことです。
本当に申し訳ありません。申し訳ありませんでした。」
ユダリエルの前の床に座っていたラファエルはそのまま頭を下げた。それはまるで土下座のようにも見えた。
何とも後味の悪い結末である。
ユダリエルの体を聖エルリアナ神国には渡せないと、正義が言い張り今までの経緯を知る者たちもそれに同意し、ユダリエルの体は正義とともにジパンヌ王国へと向かうこととなる。
聖エルリアナ神国については神エルリアナの態度が決め手となり、国交は断絶。
しかし、国同士での繋がりは立たれるが民間の商人などはその限りではないとされた。
外務二之宮ラファエルの誠心誠意の謝罪と、大一之宮であったユダリエルのその献身が認められた結果と言える。
ジパンヌ王国国王ミツクニも神エルリアナとガヴリエルは汚物認定しているが、大一之宮であったユダリエルには尊敬の念を抱いているし、このまま民が飢え死ぬことまでは望んでいない。
しかし聖エルリアナ神国の上層部が変わらなければ、民間の商人も離れていくだろう。
そして、国は飢え、民は死に、または他国へと流れる。
聖エルリアナ神国というものがいつまで続くのか見ものである。
そもそもの原因ガヴリエルは、獣人の国で公開処刑される。
聖エルリアナ神国にある磔刑と同じ状態にした上で長期間晒されてからの斬首刑である。
これはもともと大陸会議の開催国の権利と義務である。
今回の被害国は一つジパンヌ王国だけだが、その可能性は全ての国にあり、その行動は相互援助の契約に違反するものである。
そのため大陸全ての国からガヴリエルは大罪人とされ、その最期を決定した場所である獣人の国で生涯を終えるのだ。
その詳細は全ての国の民衆にまで伝えられる。
怒りが深いものは獣人の国へ行き、ガブリエルの最期を見物するだろう。
晒されている間に石を投げることも可能だ。
ただし殺すことだけは固く禁じられている。
それくらい長い期間がわざわざ開けられて、大陸全土の民衆に知らしめられながらガヴリエルの刑は執行されるのだ。
そういう意味では民衆の怒りや不安を鎮めるためのある種のイベントといえるのかもしれない。
とても悪趣味ではあるが、一つの国を危機に陥れたと考えれば妥当な罰であり、イベント扱いされるのも罰に含まれるのかもしれない。
ジパンヌ王国の援軍であったウリエルたちは、戻ってきて暴言を吐いたミカエル以外は国王ミツクニの擁護もあり、ジパンヌ王国預かりとなり今後の復旧などを手伝っていく。その仕事は初め肉体労働が主なものとなる。
暴言馬鹿ミカエルもジパンヌ王国預かりではあるが、その前に獣人の国でガヴリエルの世話を任された。
国を敵に回すほどの愚か者がどうなるか、しっかりと見ておけと言う事だろう。
そのまま行けばお前もいつかこうなる、そういう事だ。
ガヴリエルの世話はもちろん彼女が死ぬまでやらされる。
例え彼女が磔刑で晒されても、その間怨嗟の声、憎悪の言葉、嘲笑などを受ける様を見ながらも世話は続く。
その中には大切な人を返せと泣き叫ぶものもいるだろう。
石を投げられ、泥や糞、他にも色々なものが投げつけられる。
それは聖エルリアナ神国であった磔刑の時以上に。
死なない程度に回復させるのも世話の一つだ。
ただし完全に癒すことは許されない。
それもまた罰の中の一つなのだから。
それを今回の件やガヴリエルの状況が大陸全土の民衆に知れ渡るまで続けるのだ。
そして最期には民衆の前での斬首刑。
その遺体を片付けてはじめて、ガヴリエルの世話は終わる。
ミカエルはそのあいだ何を思うのか。
ガヴリエルは自身の死を歓迎したそうだ。
ただ痛いのはやはり辛いらしく、早く死にたいとばかり言っていたという。
大一之宮であったユダリエルの死、彼女が死を歓迎した理由である。
後を追いたいというよりも、意識を消してしまいたいという感情が強くあるように見えたそうだ。
罪悪感、自責の念、それらは全て自分が死に追いやった男一人にのみ向けられた。
自分が犯した他の罪のことなど頭にない、今回の罰が何のための罰かさえ認識できない愚か者。
そんなガヴリエルの様子全てが、民衆に伝えられより一層痛めつけられる。その繰り返し。
結局、彼女は自分の首が落ちる瞬間にあってさえ自分の罪を理解しなかった。
こうして今回、聖エルリアナ神国のひとりのハイエルフの暴走から始まった事件はひとまずの幕を閉じた。
今後は聖エルリアナ神国がどう変わっていくかで、その対応もまた変わるだろう。
彼らが良い方へ舵を切るか、はたまたその逆か。
未来のことなどわからない。
それは神を自称するものさえも同じなのだから。