三十一話 商業都市カネナルへ〜その旅路、変態注意!
暴力的な内容を含みます、ド神官に注意!大丈夫な方だけどうぞ
カイウスの蛮行後、正義を除外した勇者一団のメンバーはそれぞれに思うことがあった。
真希と桃香は、普通に正義に宗教友達ができたという認識である。
蛮行後の旅路の中、馬の上でそれは楽しそうに偉大なる存在シュフを話題に盛り上がっているのだ。
声がどうの、あの殺気はどうの、痛みがどうの。ただの変態話である。
痛みがどうの辺りで2人は『ああ、正義はカイウスに頼んだのかもしれない、火球で痛みを感じたいがために』などという、どう考えても頭がおかしい結論を出し始めていた。
それも仕方ないのかもしれない、どう話を聞いても被虐趣味2人組なのだから。端的にキモい!
まぁ蛮行は正義に対して行われたものである。
だが戦闘中背後から攻撃されるという恐怖は計り知れない。
蛮行が行われた日の夜、アンネリーネがズタボロにしたカイウスを引き連れ、再度の謝罪行脚を敢行したことにより多くの勇者一団のメンバーはその行いを許す事はしないが受け入れ、今後の同行を認めた。正義専属の騎士として。
それは当然の帰結、変態には変態を。ハムラビ法典と同じである。
そしてアンネリーネはカイウスの蛮行に激怒していた!
もし真希や桃香に当てるつもりだったならば、とアンネリーネの背後から漆黒の炎が燃え上がる!
その場では殺さず生け捕りにし、誰にも知られないように徹底的に拷問して血塗れにし、ついでに心も折った上で正気のまま魔物の生き餌にでもしていただろう!
姫はお友達の敵には過激なのだ!
しかし、標的はたかが正義。だからただの激怒で済んだのだ。
宿に着くとアンネリーネはエーリカとマックスを連れカイウスの部屋へ。
カイウスに事の次第を報告させ、話を聞くうちに激昂!
(真希さんたちを評価するなど身の程を知るべきですわ!)
カイウスに平手打ちからの裏拳、裏拳からの逆の手でのストレート、元の手に戻してのアッパー!
両利きならではの隙のない連続技!
そして仕舞いには足で、とある部分を押し潰しに掛かろうとしてエーリカに止められた。
「アンネリーネ、流石に御御足が汚れますわ」
既に顔面ズタボロなカイウスの心を抉っていくスタイル!でもないただの言葉の流れ弾である。
素直に、ただばっちいのである。
そんな男の沽券にかかわる事態にも動じない大人な男マックスに話の続きを促されカイウスは語りに語った! そしてドン引かれた!
何のことはない、その恍惚とした表情が問題なのだ!キモい!
語ったことはここにいるメンツにとっては特にたいした内容ではない。
偉大なる存在シュフ、正義の魔法への助力、勇者としての資質、どれもこれも王都にいる時に結論は出ている。
《結果こそ全てである》と。
異世界から拉致してきたのに快く幾万といる魔物を倒し、その功績を偉大なる存在シュフに捧げ、対価にただ民衆皆と王の心を合わせた感謝の言葉だけを求め、他国に今まさに援軍に向かっている。
それらこそ、彼らにとって全てだ。
言葉にするとなんでこんなに綺麗に聞こえるのか、、、摩訶不思議の謎である!
つまりカイウスが言ってることは今更なのである。まさに馬鹿と言えよう。
マックスに皆に謝れ、まずはそれからだ、というありがたい教えと時間を無駄にさせられたお礼としての正義の鉄槌を貰ったカイウスはアンネリーネに連れられて謝罪行脚に出たのだった。
そして、正義の専属騎士となる。お似合いである。
謝罪行脚はもちろんクロエにも行われた。
そして、一度はカイウスのことを怒りながらも最後には笑顔で改心されてよかったです、と言葉をかけていた。
しかし、既にクロエ氏的にはカイウスは普通に敵候補としてひっそりと監視対象である。
そして表では今後も普通に接していくつもりだ。
密偵恐ろしい!
相手の言い訳は聞かない。謝罪の対応はオートマチックに行われただけである。
そして真希や桃香と大きく比率が異なる護衛対象正義を罠としてぶら下げていく方策に出た!
カイウス、正義に次攻撃したら即排除決定!
実に効率的なやり方だ。
どうにか表面上の平穏を薄氷の上に取り戻した一団は宿屋街ネンネコで準備と体調を整え、帝国への旅路最大の難所【魔の森】へと足を踏み出すのであった。
勇者一団は順調に森の中の街道を進む。ここからは戦闘の訓練は控え難所を超えることだけを念頭に置く。
また賢者でもある真希はこの【魔の森】で戦闘をする場合は今までのユニークスキル剣姫ではなく魔術中心に切り替えることになる。
盾役をマックスが担い、遊撃を正義とカイウスが請け負う。そして後ろから真希、桃香が魔術で攻撃、二人の警護をクロエが、そして控えにアンネリーネとエーリカが回る。
回数が増えMPが不足したり疲労してきたならば後方の魔術組は控えと交代、盾役マックスも遊撃の防御力だけは規格外な正義と交代する。
今回、馬はネンネコで交換し、また一頭増えた。
スキルに馬術が増えた真希がひとりで馬に乗ることになったのだ。
剣姫である真希は体を動かす事もまた得意で馬術については今や折り紙付きである。
難所を少しでも楽に超えられるよう、事前の話し合いで決まった事だ。
そして防具を含むとどうしても重くなるマックスが一人で馬に乗り、真希と乗っていたクロエは桃香を乗せ、アンネリーネは定位置であるエーリカ後ろ。
そして正義とカイウスである。
スキル獲得ならず、後ろに乗せてもらうことしかできない桃香は少し沈んでおりアンネリーネに慰められている。
それでも一同はそれなりのやる気を維持して深い森を進んでいた。
何度目かの戦闘の後、皆に疲れが見え始めたため、まだ少し日は高いが開けた場所を見つけ野営の準備を始めた。
日が木の影に沈み始めた頃には、既にテントをそれぞれ設置し終わり、アイテムボックスから食事を出して配っている。
今日のメニューは宮廷料理人自慢の一品、オーク肉の肉団子入りホワイトシチュー、柔らかいふんわり白パン、秋野菜の温サラダである。
そして温め酒精を飛ばしたワインにシナモンスティックを添えて、寒い秋の夜に体を暖める飲み物だ。
野営とは思えない、栄養満点贅沢な食事!アイテムボックス様々だ!
さぁ!異世界転移テンプレ、命を有り難くいただきます、の「いただきます」で食事を開始しようとしたその時、それは来た!
クロエが静かに立ち上がり、食事のプレートを溢さないようにテントの中に入れた。
その背中は殺気だっている。
次にエーリカと真希が気づき皆に声をかけた後、アンネリーネと桃香の分の食事も合わせて同じように避難させた。
正義とカイウスのことなど知らない。
真希たちがいたのはこの難所を超える集団が寝泊まりするために作られた少し開けた野営地である。
一応の囲いと、馬繋ぎが数頭分を一箇所として間隔を開けて置かれている。
足元はしっかりと踏み固められていて雨でも直ぐには泥まみれにはならなくてすみそうだ。
そんな野営地に場違いなほど明るく喜色に富んだ声が聞こえてくる。ホントに魔物が来るからやめてくれる!
そう、不屈の変態ルード神官とその信者のBクラス冒険者たちである!
信者の名誉のために明言しておく!話しているのはルードだけだということを!
冒険者の信者たちは森の中で騒ぐ危険をちゃんと承知している!
止めても聞かないから少し疲れた顔をして馬を引いてルードの後を歩いてきただけなのだ!
「素晴らしい!いい匂いがすると思ったら出来立てのお食事ですか?これが噂の勇者様のアイテムボックスの力なのですね!」
どこから匂いを嗅ぎつけてきたのかと問いたい内容の台詞を聞いてもいないのにべらべらべらべらとよく回る口で捲し立ててくる神官に、正義以外のメンバーは立ててきた作戦に移るかどうかの判断をアンネリーネに委ねた。
そう、さすがにこの難所での変態への対策は練っていたのだ!
携帯用の通話魔道具で知った王都での民衆の聖教離れを鑑み、ここはこの変態神官一回潰しといてもいいんではあるまいかと。
殺しはまずい、しかし心をこれでもかと折りに折りもう暫くは近づけないくらいの肉体的精神的トラウマを刻み込むのも吝かではないくらいには一同はこの神官がウザい。
暫くは、としたのは仕止めなければいつか必ず戻ってくるのがこういう輩だからだ!
問題は冒険者たちだ。彼らは信者としてルードに従っているのか、それとも信者だけども依頼を受けたから従っているのか。返答次第でその扱いは変わってくる。
未だこの世界ではストーカーは犯罪行為ではないのだ!
まぁ、王族である姫をつけ回して野営に乗り込んできたというなら不敬罪に問えなくもない。
本当は勇者たちをつけ回しているのだが、それはそれ。言いくるめる事などアンネリーネには簡単だ。
変態神官が勇者を褒め称え、正義がドヤっている間にアンネリーネは後ろにいる冒険者たちのリーダーに目配せし、コソコソと話し掛けた。
「貴方方、依頼で神官ルードに従っているの?それとも個人的に?」
美しいお姫様に話しかけられて舞い上がる、なんて事もなく、淡々とリーダーはことの次第を話し出した。
ここにいる冒険者は昔ルードに怪我をタダで治してもらったり、その人柄に惹かれたりで集まった者たちであった。
知らぬ同士が集まり冒険者であった為パーティを組み、Bランクまで上がってきたが今回のモンスタースタンピートで自信をなくし、その収束をただ見ていただけだった。
そんな彼らにルードは英雄である勇者を言葉巧みに操る王侯貴族への憤りをもって彼奴らから勇者様方をお守りする為の旅に同行してほしい旨を告げてきた。
そして、その返答をすぐに決めろと迫られ、ギルドを介さずに昔の恩、そして勇者方への恩を返すべくこの旅についてきたわけだ。
しかし、その旅はそんなものではなかった。昔の恩で最初の勇者一団への接触はまぁ目を瞑った。
いくらその、近づき方がアレでも相手は昔の恩人、スルーするのがせめてもの情け。
その後もたびたび何かに興奮して走り出そうとするルードを止めたり、道端に落ちていた誰かさんのハンカチを懐に入れようとしたところをやめさせようとしたり(何を言っても聞き入れられなかった、ハンカチは今もルードの懐の中だ)、勇者一団が宿泊している宿屋に深夜忍び込もうとしていたのを力尽くで止めもした。
もうそろそろ限界だった、変態の相手は。
話を聞いたアンネリーネが思わず感謝したくなる程、彼らはルードによる変態行為からの防波堤であった!
彼らがいなければどうなっていたことか!(クロエ氏に変態が消される方向で話は進むと思います。)
確固たる覚悟の言葉を聞くためにアンネリーネは問う。
「貴方方はあの者の連れですか?」
その言葉が意味することを察した冒険者のリーダーは少しの躊躇の後、きっぱりと断言した。
「なんのことだい?俺らはまだ先に進むつもりだ、日の沈みかけとはいえ次の野営地になら深夜になる前には着けるだろうさ。今度は諸点を商業都市カネナルにでもするつもりだよ。優しいお嬢さん」
渋い笑顔で決めたリーダーは他の4人の冒険者とともに馬に跨り、その場を去った。変態1匹を残して。
桃香はアッと思った、この変態置いていくの?のアッだ。
仕方ない、作戦を知ってても変態が近くに置いて行かれるのは誰でも嫌だ。
痛いけな少女の小さな心のアッくらいは大目に見るのが大人の役目だ。
アンネリーネはエーリカに目配せした。
「サイレント」「バインド」
エーリカの囁くような魔術のトリガーが少しの間を置いて二つ。
これで饒舌だった口も言葉を発せない。また、大袈裟な身振りも体の自由を縛られ、できなくなった。
アンネリーネは肯くと、桃香に鑑定を頼む。
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職業:神官(聖教)
種族:人間
名前:ルード=サンミッチェル
(身勝手な好意から勇者御一行と仲良くしたいと奮闘中。(魅了媚薬込みで。))
年齢:25
LV.40
HP : 2000
MP:3000
生命力:2000
精神力:800
筋力:600
俊敏力 700
知力:800
運:30
スキル
戦闘用:
剣術、盾術、格闘術
身体強化、水魔法、治癒魔法、聖魔法
一般:
生活魔法、料理、資料整理、礼儀作法、薬学、調合
ユニークスキル
魅了
称号
《自覚のある人たらし》《勇者の信者》《召喚者の自称友》《召喚者が嫌悪する変態》
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桃香がステータスの大半を読み上げる。もちろん相手の気持ちやユニークスキル、称号を言ったりはしない。そこは少しは警戒している桃香なのだ。
「なるほど。レベルが40。精神力とやらが800、ですか。」
ただ精神力やら生命力やらは読み上げてしまった。おっちょこちょいは桃香のチャームなポイントなのだ。
まぁそれくらいは許容範囲内だろうと真希も苦笑いして少し肩を竦めるくらいである。
「だいたい、肉体や精神に及ぼすデバフ効果の魔術は相手のレベルよりも自分が上でないとかけられないとされてきましたが、一様にそうではないとも言われます。きっとその精神力が関係するのね。
レベル的にはマックス副団長とエーリカが確実に上、精神力も上でしょう。
ならやりようはいくらでもありますわ。」
アンネリーネの口角が引きつるように上がる。目は爛々とルードを見ており、この後決して愉快なことにならないことがわかった。
ある意味ここにいる正義以外には愉快なことであるのだが。
その日から二度朝日を拝み、勇者一団はもうすぐ商業都市カネナルに着く。
途中幾度となく魔物に襲われたが危なげなく倒すことができた。
全員の息がぴったり合ってきた所での街への到着、同じことを為したもの特有の一体感とともに意気揚々と勇者一団は街へと入っていく。
門をくぐる前に、1匹の草臥れた変態を門番に渡したことなど些細なことなのである。