二十七話 旅立ち〜ド神官=不屈の変態〉〉〉ストーカー
変態的な人物が出てきます!大丈夫な方だけお進みください。
顔合わせも終わった次の日、慌ただしく少数精鋭と勇者御一行はガルド王国王都ロイヤルロンドを出立した。
馬にはそれぞれ、クロエと真希、マックスと桃香、カイウスと正義、エーリカとアンネリーネという組み合わせで乗っている。
戦闘力が同じくらいになるように、という名目でこの組み合わせである。
王女であるアンネリーネは女性としか同乗しない。しかもクロエはその実力を隠しているのでこうなったとしか言えない。
若造カイウスとお年頃の女性を乗せるなんて言語道断!
アンネリーネの強力な主張!
わたくしのお友達と同乗するなんてあり得ませんわ!
お友達に男を近づけたくないアンネリーネなのだ!
まぁ召喚組の力は正義以外は実際の成果を見たものがいない。
賢者で剣姫な真希、聖女な桃香は使える魔術についてはだいたい明かしてある。
明かさないほうが危険だからだ。メンバーから国に漏れるのは仕方ないと判断した。
城にいる間空いている時間を使って、書庫で勉強したり、お互いに魔法や魔術を使ってみて分かったことを教えあったり、与えられた武器防具を使ったりしたことで色々ステータスも変わった。
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職業:賢者
種族:人間
名前:稲森真希(白:緊張)
年齢:16
状態:偉大なる存在シュフの絶大なる加護。
すべての状態異常無効、鑑定などは跳ね返す。
性格:真面目だが柔軟性に富み、人の先頭に立って行動できる稀有な人格者。異世界に来て何か吹っ切れたのか、王や宰相などの地位がある大人相手にも流されない胆力、自分たちの立場を守りながらもきちんと主張ができる判断力と決断力を兼ね備えたリーダーの中のリーダー。
LV.15
HP : 3000(5000)
MP:3500
生命力:3000(5000)
精神力:1000(5000)
防御力(物):MAX
防御力(魔):MAX
筋力:800(1000)
俊敏力 700(1000)
知力:1000
運:10(30)
武器:ミスリルの剣(100/100)
サブ武器:ミスリルの短剣(100/100)
アイテムボックス内
予備武器:ミスリルの剣、ミスリルの短剣
スキル
戦闘用:
短剣術new!!、剣術、護身術、身体強化、
火魔術、土魔術、水魔術、風魔術、雷魔術、闇魔術、光魔術
一般:
話術new!!、生活魔法、資料整理、礼儀作法、剣舞
ユニークスキル
アイテムボックス、剣姫、カリスマnew!!
称号
《異世界の剣姫》《賢者》
《生徒会長》《苦労人》《人格者》
《召喚者のリーダー》
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職業:聖女
種族:人間
名前:川谷桃香(白:不安)
年齢:16
状態: 偉大なる存在シュフの絶大なる加護
すべての状態異常無効、鑑定などは跳ね返す
性格:天然だが切り替えが早く、実は色々考えている。人の気持ちの機微に敏感で気が効くムードメーカー。とある黒歴史を経て、自分の身は自分で守る!といえ強い意志が芽生え今まで周りに頼り切りだったが、今は確固たる意志のもと自分を鍛えている。それはステータスの戦闘スキルにも大きく現れている。
LV.10
HP : 1500(5000)
MP:3000
生命力:1500(5000)
精神力:900(5000)
防御力(物):MAX
防御力(魔):MAX
筋力:300(1000)
俊敏力 300(1000)
知力:800
運:30
武器:エメラルドの杖(100/100)
サブ武器:ミスリルの短剣(100/100)
アイテムボックス内
予備:エメラルドの杖、ミスリルの短剣
スキル
戦闘用:
短剣術new!!、棒術new!!、護身術、身体強化
水魔法→水魔術new!!、風魔法→風魔術new!!、
光魔術、治癒魔術、
一般:
生活魔法、礼儀作法new!!
ユニークスキル
アイテムボックス、聖魔術
称号
《異世界の聖女》《天然娘》
《黒歴史を乗り越えた者》
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そんな二人だが、今回の強行軍のせいで時間が取れず、まだ魔物と対峙したことがない。
そんな二人と正義のために旅の間に単独での剣や魔術での魔物討伐、他の者たちとの連携を練習することになっている。
剣術についてはマックスが、魔術についてはエーリカが三人の師匠となる。
馬に乗り街道を北へ向かって走る。
ガルド王国は北がアルバン帝国に西がジパンヌ、東がドワーフの国マルチザンに面している。ジパンヌが東の国でないのが悔やまれる。
王都ロイヤルロンドは国のおおよそ真ん中にある。真っ直ぐ一本道というわけにはいかないが、だいたい緩やかに北に向かうことになる。
途中に一つ小さな山を通る道があり、そこが一番の難所と言える。山を含めた一帯が深い森になっているからだ。そこを人は【魔の森】と呼ぶ。
魔物も他に比べて比較的強く、【魔の森】の近くには町もないため必ず二泊は野営しなければならない。
そのかわり【魔の森】の前に、少し距離はあるが山を越えて帝国へ向かう商団を目当てに、そこそこの大きさの宿屋街があるし、山を越え【魔の森】を抜けるとかなり大きな都市に出る。
帝国からの商品や西の国ジパンヌからの商品が売られる、王国で三番目に大きな商業都市カネナルだ。
つまり今回のスタンピートにより周りの町の人々が逃げ込んだ都市の一つということになる。王都付近よりも規模は小さかったようで冒険者や領軍により鎮圧されている。
ここも今回のスタンピートのおかしなところで、大規模なモンスタースタンピートはその国の王都か、一番人が多い都市でおこったのだ。
上位種により魔物が統率された時、人の気配の多い方へ行軍する、という性質を持つという話も聞かないではない。
しかし、それは一番近くの、という言葉が先にくる。わざわざ近くのそれなりに多くの人の気配を無視して一番大きな人間の気配に集まることは、やはり異常だ。
このカネナルには【魔の森】の魔物たちはきていない。おそらくだがここの魔物もカネナルを無視して王都の方へ行ったのではないかと思われる。
だから、考えてしまうのだ。王都や人の多い都市を知る何者かの存在を、そしてその指示があったのでは、と。
勇者一団にとって商業都市カネナルは予定的には、今回時間もないため宿泊と馬の交換くらいしかせず通り過ぎる都市だ。
一団は今王都を出て北へ、最初の小さな街を通り過ぎ周りが浅く森に囲まれた街道をゆく。
ここでは戦闘の訓練のため馬をおり、少し馬を休めながら魔物の気配を探す。
気配を探す行為もまた訓練の一つ。
スキル気配察知を獲得することは危険を避けるために必要なことだ。
ここの森というより林に近い木々に覆われた浅い場所ではスライムやコボルトが出没する。弱いため自ら大人数の前には現れないが探せば見つけることも可能だ。
真希は剣姫スキルのコツを掴むためにミスリルの剣で戦う。
桃香は昇華した水魔術で後方から攻撃を行う。
前衛と後衛、そしてフォローにアンネリーネとクロエ、エーリカが備えている。
本当はアンネリーネは正義の方に行ってもらうはずだったのだが、お友達から離れたくない腹黒王女はマックスを丸め込み正義と二人で行かせたのだ。
マックスは正義の力を知っている。丸め込まれたのも納得していたからというのが大きい。
伊達にその手腕で第一騎士団の膿を消炭にし、毎日暴れ獅子と言われる第二騎士団団長の手綱を取ってはいないのだ。
そしてカイウスは馬の世話である。
いや、移動手段の整備なのだ!
そう時間もかからず魔物には遭遇できた。クロエの誘導だ。護衛役としても早めに魔物との戦闘を経験させることが必要と判断したようだ。
現れた魔物は真希たちの前にコボルト三体、正義は少し離れたところでスライムと対峙している。
正義はまさに、この世の底辺(存在が)の戦いを繰り広げようとしていた。
至近距離での戦闘は三人とも初めてだ。
真希は剣道の要領で軽目の剣を両手で正眼の構えをとり一体を相手取った。
桃香は水魔術で残りの二体のうち一体の頭部分を水の球で覆い窒息を狙う。
もう一体はフリーな状態だったが、真希が最初の一体を頭から股まで両断して倒し、直ぐにフリーの一体に肉薄する。
首に一太刀、コボルトは息絶えた。
桃香から水魔術で窒息死を狙われているコボルト。水球を顔から外そうと、もがいたが外れることもなく、そのままひっくり返った。
油断することなく魔術を維持し続け、しばらく経った頃コボルト氏は哀れ粗相をしながら死んだ。
桃香は思う、この攻撃はエゲツないし時間がかかる。
もう直接、肺に水を発生させて溺れさせる方が早いかもしれない。粗相はそれでもするだろうか?
などとえげつなさがマシマシな方向に魔術の改良をしている。彼女は真剣だ!
真希は剣の血を覚えていた便利魔法クリーンで綺麗にし、今の戦いを反芻していた。
剣道では頭を狙うことも多いが、真剣でそれをやると武器がもたないかもしれない。
身体強化の延長と考えて、剣を自分の体と思うことで強化する方法をラノベ好きな友人に聞いたことがあったのでそれを試しているが。
ミスリルの剣を目の前にかざして鑑定してみるがダメージはないようだ。
小手打ち、突き、胸突きなど急所や関節を狙う方が動きも小さいし有用かもしれない。
今回は弱い魔物だから頭からかち割っても、そんなに抵抗もなかった。だが強い魔物の場合、武器が破損したり武器が抜けなくなって手放さなくてはならないかもしれない。それは悪手だ。
そんな風にそれぞれが今後の為に思考していると、クロエが静かに真希と桃香を守る位置に移動し、次に気づいたエーリカが周りの皆に小さく警告を発しマックスが正義を連れてきた。
拍手の音が響く。そして興奮した称賛の声が近づいてきている。
その声には聞き覚えがあった。
この旅に同行すると最後まで食い下がった諦めが悪い男、聖教会神官ルード=サンミッチェル。
白く細い手で拍手をし、興奮で頬を赤く染めながら形のいい唇で称賛の言葉を延々と垂れ流している。
真希と桃香は後ろへ下がり嫌悪の表情を隠さない。クロエは二人を守る為にルードを警戒しながらも周りに他の気配がないか探っている。
エーリカは顔を引きつらせながら、もしもの時のため相手との間に硬い壁を築く土魔術の準備を完了してる。
マックスは他の七人を背に庇う形で前に出る。顔には穏やかな笑顔をたたかえているが目が笑っていない。盾を準備し、剣をすぐに抜けるようにしている。
マックスの斜め後ろでアンネリーネは極上の笑顔で相手を威圧し、いつでも自分の地位に基づく言葉の鋭い牙で攻撃可能だ。
そして正義はルードの称賛をそうだろう、そうだろう、もっと褒めていいんだぞとご満悦だった。
何処かから、馬鹿が!真希さんと桃香さんの盾にでもなってろ、馬鹿が!という声が聞こえた気がした。馬鹿が!を二度いう、きっと大事なことだったのだ。
正義はさっさとルードを無視して真希たちを守る位置に下がる。
そう!叱ればいうことを聞く!
少しは脳味噌が機能しているのだ!これでも!
「聖教会神官ルード。何故、ここに?」
アンネリーネの極上の笑顔の煌めきがさらに増した気がした。背後の黒いオーラもマシマシだ!
相手の地位をわざわざ口にし、一言ごとに区切り強調する様は笑顔なのに威圧感がすごい。
しかし、そんなことは関係ない。それこそがルードクオリティ!
「勇者様方がいるところ、このルードあり。神の思し召しです。」
爽やかな笑顔で言い切った。
もうアンネリーネvsルードの笑顔対決かってくらいのイイ笑顔だ。
そういうこと言ってんじゃねーよ!と聞こえそうなほど更なる笑顔の追撃をアンネリーネは行う!
「そう、いるだけなの。ならば、わたくしたちは先を急がせていただくわ。あなたも陛下の決断をもちろんご存知よね?ここから我々に同行することはガルド王国第一王女である、このわたくしが許しません!それではご機嫌よう」
アンネリーネはルードに見事なカテーシーを披露し、颯爽と立ち去る。犬が土を後ろ足でかける様が見えた気がしたのはきっと気のせいだ。彼女は淑女なのである!忠犬でもあるが!
アンネリーネを先頭に真希と桃香が続きクロエがルードを視界に収めながら後を追う。
エーリカは土魔術を破棄し風魔術で周りからの遠距離攻撃に備えながら続く。
カイウスは馬のそばにずっといた。
いや、移動手段の確保だ!
最後にマックスは自分以外の全員が馬に乗るのを待ち、軽くルードに礼をし、真希の乗る馬に飛び乗り走り出す。
クロエのスキル気配察知に引っかかったのはルード以外に五人。
ルードの背後を庇うような形で散っていた。それなりの腕の玄人だ。冒険者でいえばBランクの中堅どころと言ったところか。
ルードはそのまま追いかけてはこず、しかし離れるつもりもないようで一定の間隔を開けながらついてきている。
クロエのスキルに引っかからないくらいの距離を置いて、こちらも馬での移動だ。
ルード以外全員がスキル馬術持ちなため、その足の速さは勇者一団よりも遥かに速い。
それなのに追いつくこともなく、付かず離れずついてきている。
紛れもないストーカーである!
一方その勇者一団はというと、そこそこの速さで街道を走っていく。速さをあまり出していないのは話し合いのためだ。
なにせこんなに早くにルードがこちらに接触してくるとは思わなかったのだ。
あいつが来たことが予想外なんじゃない、接触してくるならば商業都市カネナルに着く前の森と考えていた。
なによりこんなに早くに接触してきても、こちらはまだまだ警戒しているし、移動も楽な平坦な道、体力もまだ問題ない。
変態から逃げるのは必然だ。
しかし、もし相手が商業都市カネナル前の【魔の森】で接触してきたらこうは行かない。
【魔の森】までニ週間と少し、疲れも出てくる。そんなところで見知った顔だが変態に出会ったら、立地と体力面から逃げるのを諦め監視に移行は自然な流れと言える。とどめを刺せないのなら放置は危険なのだ、変態というものは!
それなのに何故?とはならなかった。何気なく正義が言ったからだ。
「神官が、こっちの戦闘に興奮して出てきただけじゃないか?」
格言である、真理である。
変態という名のストーカーは、ストーキング行為よりも勇者御一行のそばで崇め賞賛し仲良くなりたい(魅了込みで)。
変態〉〉〉ストーカー。
ド神官の中身はこういう感じなのだ!
ストーカーな変態であって変態なストーカーではない!メインは変態なのだ!
ということで、お話は先ほどの戦いに関する助言や質問に変わった。健全だ。
「真希さんの太刀筋は素晴らしかったですわ!桃香さんの魔術の使い方も今まで見たことのないものでしたわ!」
アンネリーネはさっきとは全く違う類のそれは可愛らしい笑顔で二人を称えている。
わたくしのお友達、こんなにも凄いんですの!とその笑顔が物語っている!語っちゃっている!
「そうね、興味深いわ!さっきの水魔術はどんな意図であんな風に?」
エーリカは桃香の魔術に大変食いついている。彼女は魔術オタクなのだ、第一級筆頭魔術師の名は伊達ではない!
ここでいきなり何だが、旅の間は基本みんな平等、ということで言葉遣いについては対等なものをとなっている。
旅の理由が理由なので目立つと進行に遅れが出る事も考えられるからだ。
だから主義や癖がない者はだいたいタメ口である。
クロエは癖で年上や上官にあたる人には敬語。
カイウスはマックス、アンネリーネ、エーリカには敬語である。
マックスは臨機応変、頼れる大人だからね!
アンネリーネは淑女なので別枠だろう。
エーリカは見事にタメ口呼び捨てが板についている。
伯爵家の三女、幼い時からの魔術の腕を見込まれ、そのまま宮廷魔術師のエリート街道を突っ走って、研究三昧なできる女エーリカである。
「それと真希の剣、何か魔法が付与されているの?さすがにコボルトを真っ二つって何かないともっと時間がかかると思うわ。でも剣姫ならそれもありなのかしら?それにしては魔術の気配がしたわ!なんなの?なんなの?」
魔術に対してガンガンいくぜ!スタイルなエーリカの質問は延々と続いた。そう、日が落ち始めその日の宿を近くの町でとることが決まるまで続いた。なぜそこで止まったかというと、アンネリーネが怒ったからだ。
これじゃわたくしとお話できませんわ!とかではないのだ。
アドバイスなどの今後のためになる話ならちゃんと時間があるときにしっかり話すべきであるし、エーリカの好奇心を満たすためのものなら、それはまた別の機会にすべきだからだ。ずっと質問攻めでは疲れてしまう。
その話はごもっとも、とエーリカもやっと興奮が覚めたようで真希たちにもアンネリーネにもマックスにも謝罪していた。
ここでカイウスと正義に謝罪しないのは、正義がずっとカイウスに自慢話をしていたので特にエーリカの被害にあっていないからだ。
正義の被害にあったカイウスのことは置いておく。
後々なんかいい感じな話として出てくることもあるかもしれない。
こうしてストーカーも嗜む不屈の変態、神官ルードに追いかけられながらの旅は進んでいくのであった。