十六話 チートな私も万能じゃない〜うん、知ってた!
残虐な表現があります、ご注意ください。
、、、あるら???
『主人、起きられましたか?
現在、気を失われてから15時間17分経過、3日目の02:30です。』
????説明を詳細に求む、んーえー敵を殲滅した日は何日?
『11月19日の11:13です。』
ん?日付はこちらも元と同じなのか。ほうほう!
ならその時からの私の状況を、お願い。
『了解しました。
11月19日の昼、主人は敵を全て殲滅。このとき行使したスキルは魔導【風】【氷】の大規模殲滅魔導に該当する大魔導でした。普通ならば複数人の行使者を用意し魔法陣の力を借りて行うような大魔導です。大規模かつ微細な魔力操作が必要な高度な魔導であったため脳に負荷がかかっていました。また、その時主人の自我はこの部屋ではなく恐らく正義の中にあったように観測されました。その負荷がかなり大きく、意識が一時的に機能を停止し今に至ります。
現在11月20日02:30、心身共に健康で不備はありません。
脳への負荷も後々まで響くようなダメージではなかったようです。』
今深夜ってこと?
『深夜02:30です。』
ソファーで意識を失ったのか、立ってなくてよかった。
私は体を起こして一通り体を調べてみた。
頭の付け根痛いな、肩こりか?
首を回してひどい痛みがないか調べる。
治癒魔法を使いながら頭をマッサージ、肩も揉む。足を曲げたり伸ばしたりしながら徐々に立ち上がって腕もおんなじように。
ゆっくり体全体が暖かくなるまでそれを繰り返した。
ふいースタンピートは終わりってことでいいんだよね?
『肯定。現時点でも周りに魔物は寄ってきていません。』
なんとかなった、か。
大きく息を吸って吐く、を繰り返す。
今更ながら震えが来るほど怖かった。
この部屋からだから。
チートだから。
誰も私を見つけられないから。
どれも私が死なないという理由にはならないって分かってたけど楽観視しているフリして、自分で選んで、私が殺した。
大量の血の匂い。私はあそこに居なかったのに血の匂いがした気がする。
ああ、正義の体を通して匂いを嗅いだ。
何百本という首が潰れるぐちゃっとした音も聞いた。
そして、最後に私は正義の中にも居なかった。
オーガエンペラーの前にいて、その血が凍りつく僅かな一瞬を見ていた。
そのまま、それは彫像のように動かなくなった。
私は今大丈夫じゃない。
うん、クリーンかけて睡眠魔法でおやすみなさい。
今夜はなにも考えないで済むように。
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真希がそのことを聞いたのは、王と私室で昨日睨み付けてきた騎士について話していた時だった。
どうやらその騎士は、私達召喚者から呼ばれたと嘘をついて城に入ろうとしていたらしい。
本当に馬鹿馬鹿しいの一言に尽きる。
王と姫も一緒にいたことからもそれが嘘だとあっさりバレ投獄されているようだ。
一応の確認のため、と質問してきた王だが顔色がすごく悪かった。
もちろん、私も桃香もそんな男呼んでいない。王たちが帰った後にも会っていない、と答えた。
王は立ち上がり深々と頭を下げ、そのものを極刑に処すと宣言した。
ああ、これで人が1人死ぬのか。
昨日の今日なのに異世界では、私達の言葉で人が死ぬ。
召喚者、勇者の仲間。
それはこんなに重い役割なんだと先ほどした覚悟が揺らいだ気がした。
そんなとき、慌てた足音が聞こえてきてドアが乱暴に叩かれた。
気づいた王が目配せすると近衛騎士の1人がドアを開け、倒れ込むように外にいた人が中に入ってきた。
多分、別の騎士団の服装、どうしたんだろうと思う前に彼は叫ぶようにして報告した。
「報告します!勇者正義様により王都を取り囲んでいた魔物全てが倒されました!繰り返します、魔物全てが倒されました!」
そのまま泣き出してしまった彼をぽかんと凝視する部屋の面々。
その中で一番に正気に戻ったのは王ですぐさま現状を確認しだした。しかしその声は嬉しさと困惑に上擦っていた。
「誠か?本当に?あの数をどうやって!」
そこから話を聞くに、正義はどうやら昼前に魔物から街を守っている外壁の上へと現れ大規模殲滅魔法を二つ同時に発動させたらしい。
大多数のオーク種は首を潰され失血死かショック死、後ろにいたオーガエンペラーは血液が凍らされて死んでいたようだ。
私は唖然とした。
本当に?あの正義にそんなことができたの?
本当に勇者みたいじゃない!
自分が馬鹿にしていた正義がこの国を救ったなんて。
この目で見るまで信じられない。
桃香を見ると同じように唖然としていて少し笑ってしまった。
王たちはどうやら現場を見に行くようだ。まだ時間もそれほど経っていないし、王として何か言葉を言う必要もあるのだろう。
私達も同行を願い出た。王は驚いた顔をしていたが快く承諾してくれた。
多分、勇者の仲間として紹介するとかいう裏も少しはあるのだろうが、何もしていない私達がのこのことついてくるのを許してくれるのだから安いものだろう。
桃香とふたり、周りを護衛の騎士に囲まれながら向かった城の外は色んな人がいて泣いていたり叫んでいたり、それでもすごく嬉しそうだった。
外壁近くの広場にたどり着くと周りのみんながある一箇所を見上げていた。
私も同じようにそちらを見上げた。
そこには片手を天に突き上げ、もう片方を腰にあて満面の笑顔で演説している正義がいた。
「僕は大いなる意思に導かれてここにきた!
その存在は仲間を守れと、ここで魔法を放てと僕を励ましてくれた!
今こうしてこの国を守れたのも、その大いなる意思、いや彼女のおかげだと言うことをみんなにも知っていて欲しい!
そして彼女のことを覚え、慕ってほしい。彼女の名前を知ることができることを誇ってほしい!
彼女の名はシュフ。偉大な存在シュフさまだ!!!!」
なにか大いなる意思がなんとか、彼女?が偉大な主婦?さま???
相変わらず奴は馬鹿で訳がわからない。
まぁそんな奴でもこの国の救国の勇者さまなんだ。
でも私の中であいつが馬鹿でアホで自己中で理解不能な奴である事は変わらないようだ。
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おおおーーーーーい( ꒪Д꒪)( ꒪Д꒪)( ꒪Д꒪)( ꒪Д꒪)