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巨大移動物体

 第54戦隊は、偵察巡洋艦バンガードの護衛として前方宙域に展開した。

 何としても、巨大移動物体の全容を判明させないことには、次の手が打てない。


 「どういたしますか」

 「近づいて、顔を拝むしかないな」

 

 ドルフィン大尉の質問に、カルロは軍帽を被り直しながら答える。


 「どんな顔していますかね」

 「危険な橋を渡るのだ。美人のねぇちゃんであることを祈ろう」

 「どこの訛りですかそれは」


 軽口をたたきながらも二人の視線は、刻一刻と変化するデータに釘付けであった。

 慎重に前進する54戦隊は、巨大移動物体の反応を捕らえると同時に、敵艦艇の存在も探知した。

 帝国の哨戒ラインに到達したらしい。


 「バンガードからのデータ来ました。帝国軍駆逐艦セド級。数4。方位627方向に向かって前進中。こちらに気づいた様子はありません」

 「よろしい。先手が取れるな」

 「はい。偵察巡洋艦様様です」


 この距離では、コンコルディアのセンサーだけでは敵艦を探知できない。偵察巡洋艦の威力は絶大だ。彼らのお陰で一方的に殴ることが出来るのだから。


 「四隻。一個戦隊未満か・・・・・・・」


 帝国の駆逐戦隊は一個戦隊六隻が定数だ。

 恐らく、帝国側も警備に回せる駆逐艦が足りず、一個戦隊辺りの配備数を減らして、チームの数を増やし索敵エリアのカバーに努めているのだろう。

 カルロはそう結論づけた。


 「よし。敵艦を排除する。バンガードに伝達。我これより敵艦を排除する。援護求む。以上だ」

 「アイサー。バンガードに送ります」

 「全艦。突撃態勢」


 カルロは54戦隊に突撃態勢を取らせた。

 どの道彼らを突破しないと、デカブツには近づけないのだ。


 「アイサー。全艦。突撃態勢をとれ。艦長。長距離雷撃戦を行いますか」

 「いや、探知されるまで前進だ。避けきれない至近距離でお見舞いするぞ」

 「それでは、敵艦に通報される恐れがありますが」


 魚雷と突撃艦では当然、突撃艦の方が早く探知される。

 長距離雷撃はそのリスクを最小限にする戦法だ。


 「四隻もいるんだ。どのみち通報される。それならば一隻も残さず沈め、その穴から潜り込むぞ」

 「強引ですね」

 「美人の顔を拝むためには、強引じゃないとな。黙っていても美人が寄って来るほどの甲斐性は無い」

 「それは、御経験からの教訓ですか」

 「ごく世間の一般論だ」

 

 バンガードからの敵艦への探知妨害の援護を受け、54戦隊は突撃を開始した。

 敵艦に探知されるのを一秒でも遅らせるために、コンコルディアの探知システムを使わず、バンガードからのデータリンクを当てに敵艦との接触を試みる。

 これは、なかなかの恐怖であった。

 人間と言うものは他人の目で見た情報よりも、自身の目で見た情報の方が信じられる。

 バンガードの情報取集能力が高いのは頭でわかっている。訓練でもそこは徹底されてはいるが、それでも送られてくるデータを全面的に信じられるかは、また別の話である。


 「敵艦の動きは」

 「変化なし」

 「そろそろ、引っかかる頃合いだと思うがな」


 カルロはメインモニターを睨みつける。恐らく他の艦長も似たり寄ったりの状況だろう。


 「妨害システムが上手く機能しているのでしょう」

 「よし、各艦一隻づつだ。目標を被らせるなよ」

 「アイサー。攻撃目標選定。本艦目標をデルタ1にセット」

 

 カルロの指示は各艦に伝達され、敵艦にマーカーが付いた。


 「全艦、攻撃目標セット完了。攻撃想定位置まで500」

 「よろしい。そのまま前進。目標地点に到着次第、全艦一斉射」

 「アイサー。各艦に伝達」


 第54戦隊の各艦は、順調に帝国軍のパトロールに接近していく。

 力場の影響か、探知システムが脆弱なのか、なんのトラブルもなく魚雷の有効射程距離に達した。絶好の機会である。 


 「艦長。目標地点に到達いたしました」

 「全艦攻撃開始。一番二番発射」

 「アイサー。一番二番発射」


 54戦隊から計八本の量子反応魚雷が、虚空へと飛び出した。


 「敵艦より探知波。発見されました」

 「遅い」


 カルロはモニターを睨みながらつぶやいた。

 ほんの一瞬だけ敵艦を哀れと感じたが、理性でそれをねじ伏せた。

 まだ、こちらが勝つと決まったわけではない。敵への憐れみなど勝者の余裕、傲慢だ。


 敵艦は密集隊形のまま、阻止弾幕とデコイの大盤振る舞いしているが、魚雷の探知システムは誤魔化せても、バンガードからのデータリンクまでは誤魔化せない。


 「一番。命中。撃破確実」

 

 コンコルディアの魚雷が、先頭を進む帝国駆逐艦に直撃した。

 続く二番は目標を変更しようとしたが、無駄であった。各艦が放った魚雷は余すことなく、敵艦へと突き刺さる。


 「敵戦隊の撃滅を確認」

 「よろしい。煩い番犬は排除した。いよいよ・・・」

 「艦長。ムーア減速」

 「・・・被弾したか」


 勝利の余韻に浸る暇もなく突然の報告に、僅かな沈黙が生まれた。


 「原因は不明です。徐々に速力が低下していきます。このままではムーアが隊列から脱落します。本艦も減速いたしますか」

 「機関そのまま。速力を維持せよ」

 「アイサー。機関そのまま」


 カルロは一瞬たりとも迷わなかった。

 ここで減速しては、突入の機会を逸する。それが分かっているので、ドルフィン大尉も口を挿まなかった。

 モニターには他艦から徐々に遅れていくムーアが映し出される。


 「報告は」

 「ありません」


 何かの要因でジェネレーターの出力が下がっているのだろう。運悪く被弾したか、駆動系の故障も考えられる。珍しくもない。


 「艦長。ムーアから通信」

 「繋げ」


 画面に、目を怒らせたロンバッハ艦長が表れた。


 「報告します。第一ジェネレーター出力低下。全力航行不能であります」

 「被弾か」

 「いいえ、原因は調査中です。本艦は追随できません」


 幸い深刻なトラブルではないのだろう。現状での原因の追究は今は無意味だ。付いてこれるか来れないか、ただそれだけが重要事項である。


 「了解。ムーアはバンガードと合流。撤退せよ」

 「・・・・・・アイサー」


 ロンバッハが奥歯を力一杯に噛み締めていることが、カルロには分かった。


 「陣形を組みなおせ。三艦で突撃を継続する」


 ロンバッハとの通信を終えると、新しい命令を下す。

 突撃艦乗りにとって、突撃の途中で味方が脱落することは珍しくない。

 これまでも、置いて行ったことも、置いて行かれたこともある。

 減速したムーアを残して、コンコルディアは先を進む。

 ムーアはしばらくの間前進を継続したが、やがて進路を変更し、撤退行動に移った。その動きにいつもの切れは無かった。


 「力場に注意しろ。ここから先はバンガードも当てには出来ん」

 「アイサー」


 極力、ムーアの事は頭から切り離そうと、必要性の低い指示を与える。


 一方、ムーアではロンバッハが怒りに震えていた。

 これまで、いついかなる時でもコンコルディアと共に行動していたムーアが、へそを曲げたのだ。それはカルロに対しての裏切り行為に思え、ロンバッハは初めて乗艦に怒りを覚えた。


 「艦長。原因が判明いたしました」

 

 ロンバッハは怒りを声や行動には出さなかったが、副長に血走った視線を向けでしまうことまでは止められなかった。


 「ジェネレータへの燃料の流入量が低下。また、冷却系に異常高温が発生。安全装置が作動しています」

 「復旧は」

 

 喉からカラカラで上手く声が出ない。


 「第一ジェネレータの動力をカットし、温度を下げないことには何とも」

 「いいでしょう。第一ジェネレータ停止」

 「アイサー。第一ジェネレータ停止します」

 「副長。ジェネレータのメンテナンス・データを出せ」

 「アイサー」


 激情を押さえながら冷静を装うロンバッハ艦長に、副長は従順であった。オペレータに命じて、艦のメンテナンスデータを艦長の端末に転送した。

 メンテナンスに何らかの不備があった場合、艦長の怒りの矛先の全ては整備部に向かうことは確実であった。

 

 54戦隊はムーアを除いた三隻で、目標に向かって突き進む。 


 「運がよかったな」

 「はい? 」


 カルロの独り言にドルフィン大尉は反応する。


 「ムーアは運が良かった。いや、我々は運がいい」

 

 大尉はカルロの言いたいことが分からず首を捻る。

 これから、威力偵察を行おうというのに、脱落艦が発生して運がいいとはどういう意味だ。

 ムーアの乗員は、撤退中にトラブルが無ければ死なずに済むから、運がいいのは分からなくもないが。

 

 「仮に目標の接敵後に減速されたら、ロンバッハ艦長の事だ。見捨てて逃げろと言い出しかねん」

 「そうでしょうか」

 「見捨てないでと口にすると思うか」


 その場面を想像してみたが、ロンバッハ艦長がそのような事を言うとは思えない。むしろ口が裂けても言わないだろう。


 「思いません。しかし、艦長は見捨てないのでしょう」

 「当たり前だ」


 語気が鋭くなってしまったが、大尉は動じない。


 「結果、54戦隊が全滅することになるやもしれませんが」

 「撤退中に脱落した友軍を見捨てない。それが突撃艦乗りだ」

 「そんなこと言っているから、いつまでたっても損耗率が下がらないんですよ。よくご存じのはずです」

 「損耗率の高さは、突撃艦乗りの勲章だ」

 「そのお考えは前時代的です。無駄死にです。家族が悲しむだけです。連邦にも悪影響を与えますよ」

 「否定しない。だが、苦境に陥った時に僚艦が必ず助けてくれる。これは、我々の絶対的な信仰だ。これがあるから、真っ先に敵の砲火に身をさらし戦えるのだ。違うか」

 「違いません。なるほど、我々の信仰の力を試されなかったから、運がいいと」


 目標への接敵前であれば、迷わず置いていけるという訳だ。


 「そうだ。ムーアを助けで全滅するのも地獄。見捨てて自分達だけ助かるのも地獄だ。損な商売だな。突撃艦乗りと言うものは」

 「それが好きでやっている艦長に言われても、誰も感銘は受けませんよ」

 「違いない」


 肩をすくめるドル分大尉に、カルロは獰猛な笑みを返すのだった。

 


 前進を続ける54戦隊の探知システムに、目標の影を捕らえることが出来た。


 「デカいな。まるで移動要塞だ」


 オペレータからの報告は予想通りのものであった。


 「周囲に敵艦の反応は」

 「複数の反応あり。作業船と思われますが、分類までは不明です」

 「護衛艦も交じっているでしょうね」


 大尉の指摘に頷く。


 「迎撃態勢は取っているか」

 「こちらに向かってくる艦影はありません」

 「もしかして、気づかれていないのか」


 カルロは腕を組んだ。

 データを見る限り、先ほどの戦闘を察知された様子は見受けられない。これは、安全に情報を取集できるチャンスではないだろうか。

 威力偵察だけが偵察活動ではない、何事も穏便に済ませられるのであれば、カルロは波風立てない穏健派と自称していた。


 「戦闘行動は控える。各艦、目標のサーチを行え」

 「アイサー。送ります」


 54戦隊は、荒っぽい威力偵察を放棄し、ごく一般的な情報収集に切り替えた。


 「やはり敵主力艦隊の姿は無いか。何処に行った。あのデカブツの目星は付いたか」

 「計測中です。お待ちください」


 54戦隊は、力場の乱れに隠れながら、目標の巨大移動物体に探りを入れる。


 「目視で観測できないか」

 「やってみます。お待ちを」


 オペレータの両手が慌ただしく動き出す。

 距離もあり、ガスなどの不純物が漂う空間だ。光学レンズでの観測は難しい。

 しかし、移動物体の全景が確認できたら、熟練の船乗りであれば、構成される構造物である程度の用途の察しはつく。


 「出ます。四分前の映像です」


 コンコルディアのメインモニター一杯に、目標の姿が映し出された。

 艦橋内にざわめきが起こった。


 「船影は帝国のククリア級輸送船に似ていますね」


 大尉が帝国軍の一般的な、高速輸送艦を口にする。


 「大きさが全く違うがな。巨大補給船なのかもしれん。贅沢なものだな」

 「それにしては、護衛が手薄と思われますが」

 「その通りだ。こいつがまるまる補給船なら、文字通り侵攻艦隊の生命線だ。相当規模の護衛部隊が展開していて当然だ。しかし、何処にいる」

 「確認できません」

 「補給船以外では何が考えられる」

 「補給線以外ですと、惑星破壊砲、もしくは惑星占領用の揚陸母艦ですかね。あの規模ですと何個師団収容できるのでしょうか。十個は硬いですね」

 「惑星破壊砲は無いと思いたいが、あれが揚陸母艦だとすれば、リボルグは一瞬で陥落するな」

 「衛星軌道上から、一方的な絨毯爆撃を行えるかもしれません」

 「条約違反だ」

 「いえ、惑星破壊砲は条約違反ですが、高高度爆撃は条約違反ではありませんよ。物凄い規模の爆撃艦かも知れません」

 「帝国の連中はいかれているな。どの道、放置あり得ないという訳だ」

 「はい」


 光学計測された情報を検討しているとデータが揃った。突撃艦は情報収集は苦手だが、三隻からのデータだ。ある程度は使えるだろう。

 

 「撤収する。向こうさんに気づかれる前に失礼するぞ」

 「了解。気を使わせては申し訳ありませんからね」

 

 54戦隊は撤退行動に移った

 コンコルディアのシステムで、収拾したデータを検証してもたかが知れている。

 詳細なデータは偵察巡洋艦バンガードにアクセスし、アウストレシア方面軍に解析してもらおう。


 「進路変更865。当該宙域を離脱する」

 「アイサー。進路変更865。第二戦速を維持します」


  帝国軍に気づかれることなく、離脱を開始したのだった。


 

                続く

 忘れてない。忘れてなんかいないんだからね。

 ええっと。なんて名前だっ気かな。(゜Д゜)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] リスク管理がしっかり出来る人はほんとに尊敬する やっぱりカルロは優秀だし好きだな
[一言] あれほど熱狂してても、小説に対する熱が冷めると面白くないもんなんだね。
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