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機動兵器

 戦闘艦艇の運用には、ローテーションがある。

 戦局が安定しているのが前提だが、戦闘配備、保守点検、練成試験の三段階をまわす。

 船団護衛任務が終了した突撃艦コンコルディアは、約一ヶ月の保守点検に入った。

 この期間に、故障箇所の修繕、不具合の洗い出し、新規装備の配備などを行う。コンコルディアは就役間もない新造艦ゆえに、さまざまな不具合が出ていた。


 「どうだ。止まりそうか」

 コンコルディア艦長、カルロ・バルバリーゴはハッチに潜り込んだ工員に声をかける。

 「厳しいですね。ここからじゃ、なんとも」

 メンテナンスハッチから、工員が身をよじって出てくる。

 「パワーパックに予備があれば、とりあえず全交換して終わり。で、早いのですが。前にムーアに使ったのが、最後のパワーパックでしたからね。まぁ、予備パーツはそろってるんで、修理自体は何とかなりますが、今のところ、時間は読めませんね」

 コンコルディアは、ジェネレーターが規定値より早く加熱する不具合を出していた。今すぐ、どうというわけではないが、戦闘速度のコントロールに不安があった。

 「ジェネレーター冷却材の漏れだから、配管系だろう」

 カルロは、自らの予想を述べるが、工員は首を振る。

 「いや、配管の圧力は正常ですから、循環器系か、それの繋ぎ部分か。最悪、熱交換器の内部で漏れているかも知れません」

 「ムーアの方は、どうだったんだ」

 同系艦のムーアは、コンコルディアより、先に不具合を出していた。

 「あっちも、解析が終了していませんから、なんとも。ただ、ジェネレーター本体の異常振動ですからね。コンコルディアとは違う、症状ですよ」

 「そうか。参考になれば良かったんだがな」

 「この、エスペラント級は、曲者ですよ。コンセプトは理解できますが、全体的に余裕が無いんですよね。こういっちゃ何ですが、軍艦というより、レーサーみたいな艦ですからね」 

 「確かにな。だが、こいつの高機動力のおかげで、生きてるからな」

 「前の、戦闘データ見ましたよ。相変わらず無茶しますね。激しい潮流で、カウンターマニューバでしょ。他の艦では、あの機動は無理ですよ。桁が飛んじまう」

 「いい旋回力だった。限界値はまだ上だしな」

 「判っておられると思いますが、あれはあくまで理論値ですからね」

 「いや。操艦の手ごたえ的にだよ」

 カルロは両手を握ってみせる。

 「とりあえず、お漏らしの方は何とかしますよ。そういゃ。艦長はこれから、休暇で」

 工員は、呆れ気味に話題を変えた。

 保守点検中は、一部の保安要員を残し、乗組員は交代で休暇に入る。

 「いや、まだ取れない。休暇ってのは一度取りそこなうと、ずるずると働く破目になる」

 思わずため息が出た。

 

 ナビリア方面軍司令部にはカルロのオフィスがある。部屋をパーテーションで区切っただけの簡単な造りになっていた。作戦行動から帰還すると、艦長には報告書の作成が待っている。

 中には、誰が読むのか、何の意味があるのか、疑問を起こさせる報告書もある。普段、この手の書類はドルフィン中尉に押し付けて、カルロはチェックするだけだが、肝心の中尉が休暇に入ってしまったため、今回は自分で作成するしかない。

 「昔の軍人は、軍は書類で動く言っていたが、そこから進歩しとらんのじゃないか」

 「うるさい。何を、ぶつぶつ言っているの」

 振り返ると、銀髪の女性仕官が立っていた。

 「ロンバッハ少佐。ああ。いや、なんでもない。報告書が溜まっていてな」

 「そう。大変ね。でも、後になさい。時間よ」

 「ああ。そうか、研究会か」

 時間を確認すると、腰を上げた。


 士官は、定期的に行われる戦技研究会に出席し、最新の戦訓を学ぶ必要がある。

 「以上が、先日のタシケント軍との交戦記録であります」

 カルロが、偵察巡洋艦バースロムとの交戦を説明を終えると、一人の士官が手を上げる。

 「バルバリーゴ艦長。あなたの戦闘記録は素晴らしい。ですが、一つ疑問が。どうして、単独で出撃されたのですか、ムーアの修理を待って、二隻体勢で出撃すれは、このような事態にならなかったのでは」

 正論は返答に困るものだ。

 「おっしゃる通り。理由は色々ありますが、出撃の段階でムーアの修理が、どれだけの時間が掛かるか不明だった。タシケント側の情報が不足していた。言い出せばきりが無いか、まぁ、軍令ということでご理解いただきたい」

 乾いた、笑いが広がる。

 「ありがとう。ハルバリーゴ少佐。では、次のテーマに移ろう」

 進行係の参謀将校が話題を変える。

 「諸君らも承知しているとおり、我がナビリア方面軍でも、機動兵器の集中運用が始まる。それいついて、諸君らに」

 「役に立つと思うか」

 参謀将校の発言の途中で、隣の席のロンバッハに囁く。

 「どうでしょう。小官は、限定的な運用しか思いつかない」

 ロンバッハは、前を向いたまま、素っ気無く答える。あまり興味が無いようだ。

 ここで言われる機動兵器とは、一人から、多くても4人までで運用される小型艇である。当然、航続距離、武装の搭載量は少なく、専用の母艦やステーション等に配備され運用される。これまでは局地防衛用の兵器として認識されていたが、近年、艦隊戦や要塞攻略の攻撃に運用しようという機運が高まっていた。

 「昔の例があるから、うかつに否定できないが、やはり、難しいだろう」

 カルロの認識もロンバッハと同様であったが。軍の情勢は機動兵器を重要視する方針のようだ、迂闊に否定的な発言は出来ない。

 カルロは、その後、活発に発言することなく、研究会の動向を窺うことに終始した。


 オフィスに戻ったカルロは、報告書の作成も手に付かず、考え込む。

 どう考えても、機動兵器の有用性が理解できない。そして、自分が機動兵器について無知であることに思い至った。司令部に新鋭の機動母艦に乗艦許可を求めたが、当然のごとく、すぐには無理との返答が来る。

 「ロンバッハ少佐、ちょっといか」

 通路を挟んで向かい側の、オフィスに声をかけた。

 「んっ」

 妙な、返事が返ってきた。パーテションの中を覗き込むと、ドーナツをくわえたロンバッハ少佐が、目を丸くしていた。

 「ああっ。すみません」

 その姿が随分幼い印象で、見てはいけないものを、見てしまった気分になる。

 ロンバッハは少し考えて、咀嚼することを選んだ。

 「何かしら。少佐」

 勤めて冷静に返事を返すが、唇の端にドーナツのかけらが付いている。それを指で指摘すると、拭った後、物凄く睨んできた。ここからどう話を持っていくべきか、少し考えたが、安直に無かったことにした。

 「研究会の続きなんだが、機動兵器の運用している知り合いはいないか。出来れは直接見てみたい」

 ロンバッハは、少し首をかしげ。

 「機動兵器を?。あなた、見たこと無いの」

 「駐機しているのを、外から見たぐらいだ」

 「動いているところ、見てみたいということね」

 頷くのを確認すると、背を向けて通信装置を呼びだした。しばらく、どこかと連絡を取って、立ち上がる。

 「運がいいわね。わたしの知り合いが、見せてくれるそうよ。行きましょう」

 「頼んでおいて何だが、すごいレスポンスだな」

 ロンバッハの顔の広さにはかなわない。

 「早い分には、いいでしょう」

 「ごもっとも。」

 ロンバッハに続いて、機動部隊のエリアに向かう。


 「研究会では、興味なさそうだったのに、どうしたの」

 基地内を高速で移動するモノレールの車内で、ロンバッハが疑問をぶつける。

 「興味が無いわけではない。あの話ではイメージが沸かないだけだ。しかし。少佐も興味ないように見えたが」

 「私は、そうね。損耗率が気になる。我々の3倍は高すぎる気がする」

 「3倍は高いな」

 艦隊の戦法として、大型艦艇に向かって突撃して行く突撃艦は損耗率が高く、突撃艦乗りはそれを誇りにしているが、機動兵器は、その上のようだ。

 「機材の損耗率だから、死亡率はもっと低いけど」

 俯くロンバッハの表情は見えなかった。

 暗い空間をモノレールが駆け抜けていく。


 「アディー。会いにきてくれるなんて。嬉しいよ。最近ご無沙汰だったから」

 駐機場の一角にある施設に足を踏み入れると、ロンバッハに抱きついてくる黒髪の女性士官。

 「クアンエイシ中尉。軍務中なのだから、アディーは止めなさい」

 「えっー。いいでしょ。アディーしか居ないんだし」

 唐突に始まった女学生同士のような会話に戸惑う。

 「私だけではないわ。同僚を連れて行くといったでしょ」

 「はぇ」

 カルロはクアンエイシ中尉と目が合った。なんだ、こいつと、目が語っていた。素早く階級章を確認すると。一瞬で表情を消して敬礼してくる。

 「第108航空機動戦隊シーアン・クアンエイシ中尉であります」

 目まぐるしい表情の変化に、手品でも見ている気分だ。

 「第54突撃水雷戦隊所属、カルロ・バルバリーゴ少佐だ」

 カルロの答礼が終わると、ロンバッハが口火を切った。 

 「中尉、私たちに機動兵器の運用を見せてほしいのよ」


 「どうなっている」

 カルロは、クアンエイシ中尉の部下に、連れられパイロットルームへ。そこでパイロットスーツに着替えさせられる。

 「耐G耐圧スーツです。万が一機外に放り出されても、3日間生存できます」

 今一つ、状況を理解していないカルロに若い曹長が、水の飲み方や通信方法などの使用法を、丁寧に説明してくれる。どうやら機動兵器に搭乗させてくれらしい。

 予想を上回る高待遇だ。

 案内されるがままについていくと、慣性重力帯を抜け無重力になる。そこは巨大なスーパーマーケットのようで、棚には商品の代わりに、さまざまな形式の機動兵器が並んである。その間を整備兵たちが飛び回っていた。そして待機路には、航空機型の複座式機動兵器が2機準備されている。

 「ちょうど、訓練するとこでしたので、曹長。お二人に機体の説明を」

 「アイサー」

 カルロを案内してくれた曹長が機体の説明を始めた。

 「こちらの、機動兵器はDE-167B 通称スペンサーであります。スペンサーは通常単座式でありますが、ごらんのように、練習機のため複座式であります」

 そこからしばらく、機体説明をしてくれるが、事前に仕入れた情報を上回るものは無かった。

 一番機にクアンエイシ中尉とロンバッハが乗り込み、二番機にカルロと曹長が乗り込む。

 「そこではありません。前席であります」

 前が操縦席と思い込んで、後部座席に乗ろうとしたカルロに曹長が声をかける。

 「なんか。急に申し訳ないな。訓練にお邪魔して」

 カルロがそう言うと、曹長は笑顔で。 

 「いえいえ。お二人のおかげで、本日の訓練メニューはソフトになりそうで助かります」

 なるほど、素人相手に無茶なことはしないだろう。

 

 ナビリア星域方面軍司令部は、惑星クースの軌道上にある。巨大な宇宙ドッグや各種タンク、居住区が、複雑に組み合わさっている。機動部隊はその機動ステーションの一番端に取り付けられた、専用の発進口を利用していた。

 普段使用しているより小型の電磁カタパルトから、宇宙空間に射出された。

 そこから、惑星クースの重力を利用したスイングバイを行い、さらに加速。一番近い衛星キロに向かった。

 「これより、戦闘機動に移ります」

 曹長の一声とともに、スペンサーは急旋回する。

 カルロは理解した。何もかもが違うと、まず自分の現在地が把握できない。艦艇のように、統合された情報システムが無く、簡単な情報がヘッドアップモニターに映し出されるだけだ。必要最低限しかない。一瞬で一番機を見失う。

 「曹長。一番機の位置は」

 「じきに正面に捉えられます」

 赤い閃光が走ったかと思うと、あっという間に視界から消える。

 「何だこれは、人間に操縦できるのか」

 「ナビゲーションは付いてますよ。半分機械、半分人力です」

 余裕のある返答は、この機体を完全にコントロールしている自負に溢れている。

 「少佐。クアンエイシ中尉が、こちらを攻撃位置に捕らえようとしています。対抗しますか」

 「曹長の好きにしたまえ。いや、中尉を撃墜して見せてくれ」

 「アイサー。しかし、そいつは、ちっとばかり無茶な要請ですね」

 速力自体は、コンコルディアより若干低速だが、機動変更が無茶苦茶だ。3秒以上、同じ機動を描かない。

 カルロには、どちらに向かって飛んでいるのかも、あやふやだ。

 充分、高機動な、二番機だが、クアンエイシ中尉の駆る一番機はそれ以上だ。


 「アディー。二番機撃墜して見せようか」

 「えっ」

 「いっくよ」

 ロンバッハの返事も待たずに、一番機は戦闘機動に移る。その時のロンバッハの感想も、カルロと大差ないものだった。訳が判らない。

 「おっ。抵抗するか。それなら」

 スペンサーに乗って何が一番困るかというと、透明なキャノピーから、外が見えるということだ。ロンバッハの視界の中で、惑星クースと衛星キロが交互に現る。そこに補足されまいと逃げ回る、スペンサー二号機が現れる。状況の把握が実に難しい。

 「この、機動力なら、艦艇の対空砲火には当たりそうに無いわね」

 「距離によるかな。遠ければ余裕で避けれるけど、近づくと、結構当たるよ」

 「近くというと、どの程度」

 「肉眼で見える範囲かな」

 「そんなの近くというより、接触距離でしょ」

 「でも、あんまり遠いと、こっちの攻撃が避けられたり、打ち落とされたりするでしょ。ほら武装の威力、小さいから。直撃弾以外、お断り。見たいな仕様なの」

 「ほんと、無茶苦茶な兵器ね」

 「でしょ。そこがいいんだよね」

 「あなた。ちょっと、おかしいわ」

 ロンバッハの指摘に笑い声が返ってきた。

 スペンサー、2機によるドッグファイトが続くが、徐々にクアンエイシ中尉の一番機が二番機を追い詰めていく。

 「よおっし。いただき。ロックオン。シュート」

 一番機は完全に二番機を補足し、トリガーを引く。


 「すいません。少佐。撃墜されました」

 カルロのモニターにも撃墜判定の表示が出た。

 「いや。すごいものだな。曹長の動きもすごいが、クアンエイシ中尉の動きはそれ以上だな」

 「中尉は、うちの戦隊の最年少アグレッサーですから」

 「話には聞いていたが、教官クラスは本当に化け物だな」

 「同感ですが、それ、本人には言わんでください」

 「当然だ。曹長。次は対艦攻撃を見せてくれ」

 ここが一番気にかかるところだ。

 「了解しました。クアンエイシ中尉に要請します」


 「アディー。少佐から、次は、対艦攻撃を見せろだって。意外に元気だね。どうする」

 「それは、私も見たいわ。お願いできるかしら」

 「いいよ。でも、今日の訓練、標的艦を用意してないんだよね。どうしよっかな」

 機動戦隊では無人の艦艇を標的艦として使い、より実戦的な訓練を行っている。

 「無理にとは言わないわ。急な話だったし」

 クアンエイシ中尉は、僅かに考えた。

 「初級の訓練目標でいい?。楕円軌道している小惑星を標的にするんだけど」

 中尉が提案したのは、惑星クースを7年かけて回っている小惑星だ。

 「ええ。かまわないわ。贅沢いえる立場ではないし」

 「了解」

 スペンサーは、艦艇では不可能な急旋回を行い、目標に向かう。

 二機のスペンサーは、小惑星の針路に対して対面方向から進入し、捕捉と同時に模擬弾を発射する。その後、小惑星とすれ違い、反転して、また攻撃した。

 一連の光景を、二人の突撃艦艦長は、食い入るように見入った。二人は、基地に戻るまで、ほぼ無言であった。

 

 「協力に感謝する。クアンエイシ中尉。とても参考になった。ありがとう」

 「どういたしまして。バルバリーゴ少佐。お役に立てたのなら、何よりです」

 カルロは、協力してくれた、クアンエイシ中尉と曹長、両パイロットと握手する。

 「ロンバッハ少佐にも感謝を。貴官のおかげで、良い経験が出来た」

 「お互い様です。バルバリーゴ艦長。きっかけを作ったのは貴官です。小官も貴重な体験が出来た。ありがとう。クアンエイシ中尉」

 「いいんだよ。アディー、じゃない。ロンバッハ少佐のためなら、これぐらい」

 言葉遣いを改めた割には、ロンバッハ少佐に抱きついている。

 「早速で悪いが、少佐。貴官の意見を聞かせてくれ」

 「アディー。久しぶりに、一緒にご飯食べよ」

 二人の言葉に、少し首を傾げる。

 「そうですね」

 ロンバッハは時間を確認した。

 カルロの提案と、クアンエイシのお願いを、同時に受けることにした。

 「いいわよ。シーアン、一緒に夕食を食べましょう。バルバリーゴ少佐。お話はそこで」

 クアンエイシ中尉は、露骨に顔をしかめ、カルロは肩をすくめて同意した。


                                             続く



お読みいただき、ありがとうございます。一読瞭然(造語)な、ヒロインで申し訳ございません。もう少し捻るべきでしたが、あの二人が好きなもので。

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