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ロリババァに召喚されたので異世界をロボで駆け抜ける  作者: ハムカツ
第02話 知らない世界の歩き方
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05『旅立ちは朝日と共に』



「ケイスケは、本当に物好きだな」


「そうですかね? 折角だし、知らない世界を旅してみたいってのは普通かと」



 獅子心王国の黒揃えを蹴散らし、そして見逃してから1日。


 まだ日が昇る前、ケイスケとツクモは二人。神殿の前に旅装で並ぶ。


 彼女の用意した白一色のマントはかなり目立ちそうだが、それでも複数の術式が編み込まれ、魔術行使の補助を行ってくれる一級品。荒野を歩むのならこれほど心強いものは無い。


 また、彼女も同じ機能を持ったマントを纏っている。フードを羽織り顔を隠した姿は、成程魔導士めいた姿だが。大きめのトランクを片手で持って、左腰に杖剣を携えたケイスケと比べれば、旅装と呼ぶにはかなり軽装にも思えた。



「それこそ、必要とあれば魔術で神殿の蔵と繋がるのだぞ?」


「ああ、そういう話ですか。いざって時は助けてもらいたいですけど」



 それはそれとして、自分の足でこの世界を歩いてみたい。


 魔術は余りにも万能すぎる。当然それが必要と来る時もあるだろう。けれど他に方法があるのに、安易にそれに頼り切ってしまうのは。何となく違うと感じる自分がいる。



「成程、我が言うまでもなく。魔道に堕ちる恐ろしさは理解しているか」


「ああ、やっぱりそういうのってあるんですか?」



 それにツクモはほんの少しのからかいと、年長者の余裕を持って瞳を細めた。



「うむ、精神力と体力。そして想像力の至る範囲で、魔術は万能だ」



 マントの下からツクモの白い手が伸びて、宙に光で魔法陣を描いていく。



「故に、ある一線を超えてしまった魔術師は。文字通り魔道に堕ちる」



 声が響く。けれどそれをケイスケは読み取ることが出来ない。自分が召喚された時に仕掛けられた翻訳術式では理解出来ない言葉の羅列。恐らくはツクモにとって奥義に近い、大魔術が成されようとしている。



「我のように、全てに飽いたまま何もせず生きもせず死を待つか。それとも全てを飲み込み、燃やし尽くしてそのまま果てるか。大まかにそのどちらかだな」



 地響きが鳴り響く、ゆっくりと、ゆっくりと白亜の神殿が大地に沈んでゆく。その光景にケイスケは絶句した。精緻かつ巧妙な術式が、神殿の機能を維持したまま。それを人の手の届かない近く深くに押し込んでいく。


 それはエクレアスに乗った自分が感じた万能感すら超えた。文字通り神に等しい所業であると、才覚があるからこそ理解出来る。



「……そういうツクモだって物好きでしょ?」


「そうか?」



 小首をかしげるツクモに、笑みを投げかける。術式を理解出来たからこそ分かる。彼女はこの白亜の神殿を完全に封印した。もしもこれを復活させようとするのなら、ケイスケ全力を出しても難しい。



「そんな俺に、なんだかんだでそうまでしてついて来てくれるんだから」


「召喚した故に、騎士として認めた故に。ケイスケに対して我には責任がある」



 先程まで山肌にその威容を誇っていた白亜の神殿は、たった数分で岩肌へ完全に沈み込んで。ついさきほどまでその光景を見ていたケイスケでも、それが幻だったのかと疑いたくなる程綺麗に消えてしまった。



「それこそ、ちょっとした物の出し入れなら魔術でどうにでもなる。お主に与えたエクレアスも、問題なく召喚できるし。多少の破損ならば地脈に集まった魔力で修復すら可能だ」


「それはありがたいような、味気ないような」


「あまり己惚れぬ方がいい」



 ツクモの忠告で、自分が傲慢な考えに傾いていたことに気が付いた。


 いや魔術の助けがあるとはいえ、荒野を生身で旅できると思うことと。巨大ロボを個人で維持管理できると思う事。どちらも同じ様に身の程知らずなのかもしれない。



「うん、気を付けるよ」



 その瞬間、山間から日が昇る。


 そびえたつ山脈の合間から、太陽が昇り世界を遍く照らしていく。


 少しだけ肌寒かった春の空気に。熱が満ち、空気が軽くなるのが分かった。



「うん、なんというか。旅立ちを祝福されている気がする」


「……この世界は、外の世界は、幸せな事ばかりでは無いぞ?」



 どうしようもなく退けなくなったあと。後の祭りのツクモの忠告に。ケイスケは微かな怯えが混じっていることに気が付いた。ああ、そうだ。彼女にとって世界は優しくなかったのだろう。


 何も知らない。この世界のことも。何も知らない、彼女の過去も。



「じゃあ、歩きながら話を聞きます。怖い事も、恐ろしい事も、辛い事も」



 一歩足を前に踏み出す。別に大したことではない。けれどその先に広がる未知の世界への期待にケイスケの心は震え出す。



「そして、一緒に楽しみましょうよ。怖い時は抱き合い。恐ろしい時は立ち向かって。辛い時は笑い飛ばして」



 どこまでも能天気で、どこまでも楽観的な考え。


 けれどフードの向こうで、ツクモが笑ったのを。確かにケイスケは理解した。


 彼女も一歩、足を踏み出し。そして二人は進みだす。ザクザクと、小石を踏み鳴らし山を下る。目指すは裾野にある山村。


 ツクモ曰く半日の距離らしいが、ケイスケ自身が旅慣れぬことを考えれば余裕を持った方が良い。


 成功も失敗も、取り返しがつくならそれは大いなる経験だと笑う。さて道中で何を話そうかと彼は頭を悩ませるのであった。



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