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ロリババァに召喚されたので異世界をロボで駆け抜ける  作者: ハムカツ
第01話 ロリババァと白騎士
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02『ロリババァとの食事』



「魔術師も、食事はちゃんと料理するんですね」


「喰わずとも、生きてはいけるが。それは余りにも味気ない」



 先程召喚された部屋と、同じく白いキッチンで。ツクモの名を得た魔術師と共に、ケイスケは料理を作っていた。細切りされた根菜をたっぷりの油で揚げていく。世捨て人のような生活を送っている割に、新鮮な油の芳醇な香りがケイスケの鼻をくすぐった。



「しかし、この調理場を見て驚かんとはな」



 そこにはかまどどころか、コンロすらなく。広がった鉄板の上に描かれた魔法陣が、そこに乗せられた鍋を熱していた。



「ああ、確かに自分が知ってるIHヒーターと似てるからですかね」


「本当にお主は只人か? 我の知る限り、この遺産と同等のものを得られ。氏を名乗れるのであれば、貴人の類では?」


「さぁ、それはどうですかねぇ?」



 基本的に身の回りのことは自分でやる。金を稼ぐために働く。別に誰かを配下として抱えているわけでもない。それは結局ただの人だと。ケイスケはそう考える。



「まぁ、こうも料理を作り慣れているのも。貴人としては妙な話だ」


「そういうツクモさんも、料理を作ってるじゃないですか」



 白いワンピースの上から、これまた白いエプロンを纏ったツクモは。比較的料理をするタイプであるツクモから見ても手際よく。調理を進めていっている。


 それこそ姫と呼ばれる存在ならば、従者に任せるのが普通な気がするが。



「なぁに、従者はもう200年前に皆死んだ。新しく雇う伝手もあるにはあるがな。こんな僻地で我の世話をして一生を終えるというのも味気なかろうに」



 時間は幾らでもあったと、彼女は楽しそうに笑う。



「つまり、200年かけて料理を極めたって事ですか?」


「いや、20年で極まった。この地に食材は多くない。レパートリーも限られる」



 どうやらツクモの話を聞く限り。近所にスーパーやコンビニがあるような世界でも、文明でもないらしい。



「そこは自分の世界の方が便利ですねぇ。その辺の店で世界中の食べ物が買えちゃいますし」


「ふむ、少なくともケイスケは。最低でも万近い…… 首都の生まれか?」


「ははは、首都じゃないけど100万都市って奴ですね」



 ケイスケの軽い言葉に、ツクモは文字通り絶句した。暫く根菜が油の中で跳ねる音だけが二人の間に流れていく。



「それは―― 想像を絶するな。もはやそれは滅びた帝国を持ち出さねば。この世には比類すべきものは存在せん」


「まぁ、けど所詮俺はその中の百万分の一ってだけですから」



 網の上で油を切っている根菜にひょいと手を伸ばし、口に放り込む。まだ味付けすら終わっていないが。芳醇な大地の味が口の中で広がっていく。




「うん、ホクホクして美味しい」


「行儀が悪いな。いや、それでも褒められれば嬉しくもあるが」



 横で冷水に晒した葉野菜をサラダにしながら、ツクモは笑う。


 それを見て、ケイスケも自分が笑っている事に気付く。こんな風に何気なく人と話しながら料理するのは何時ぶりだろうか? もしかしたら人生で初めての経験なのかもしれない。そんなことを考えながら、他愛もない話を挟みつつ。暫く料理を続けるのであった。





 ツクモにいざなわれ、やってきたダイニングルームに広がる光景に息を呑む。


 ケイスケの眼前に等間隔に並ぶ白い柱。その向こうに広がるのは、広大な山脈。雪ではなく荒涼とした岩山が広がり、それでも生き物の気配が感じられる光景は。日本に居た頃では目にすることは出来ない光景であった。


 そして今、この瞬間。空が赤々と燃えながら、ゆっくりと夜に向かっていく。



「……凄い、こんな光景を毎日見ながら夕食を?」


「いや、気が向いた時だけだ。魔術があっても掃除をするのは手間でな」



 日が落ちるのと合わせて、ふっとツクモが手を振れば。ダイニングルームに飾られたシャンデリアやランプに一斉に火が灯り。豪奢な内装が露わになる。これまでの白一色の部屋とは違い、ささやかながらも金銀の細工で飾られたその部屋は客人を迎える為のものであることを意識させる。



「しかし、テーブルが無茶苦茶長いですね」



 驚くほど長いテーブルの上に、しみ一つない白いテーブルクロスがどこまでも続いている。晩餐会なら兎も角、二人きりでの夕食では確実に持て余す。



「では、どうしたい?」


「窓際にテーブルと椅子を一組、それで食事ってのが楽しそうかなと」


「随分と色男なのだな。こんな小娘の見た目に欲情でもするのかね?」



 ギクリと心の内側で汗を流す。いや、実際には流していない。その辺外面をコントロールするのは得意なのだ。まぁこの魔術師相手に通じるか? と言われると怪しいが、まぁいい。そんなことはどうでもいい。ここまで来ればどこまで格好が付けられるかの勝負だ。



「まぁ、普通にしますが」


「するのか?」


「はい、まぁそれはそれとして」



 そこはあっさりと認めていく。嘘をつくのは得策ではない。



「折角レディからお話をしたいと召喚されたわけで、じゃあ多少ロマンチックに盛り上げていこうってのが伊達男的にやるべき事かなって。まぁ安心してください、こう見えて童貞ですから」


「その言動で童貞とは…… どういう生き方をして来たらそうなるのだ」



 呆れた、けれども興味深そうな顔を彼女はこちらに向けてくる。失望はされなかったらしいとケイスケは自分が賭けに勝ったことを理解した。無論ここはまだ入り口で、この先どう転がるのかは分からないのだが。



「そりゃもう、聞きかじった物語の内容を組み合わせて。必死でオーダーに応えてるだけですから。伊達男と呼ぶには普通の顔立ち過ぎますが。そこは芝居がかった言動でカバーしますよ」



 中肉中背、特に不細工ではないが、イケメンと呼ばれる程印象にも残らない。とにかく普通を極めた自分が、普通のジーンズとシャツ、ついでに薄手のアウターといううカジュアルな格好でこんな言動で振る舞うのはやや滑稽だろう。


 それこそ渋めのシルバーアクセサリー程度用意しておけば良かったと後悔するが。召喚直前に、何をしていたかと思いを馳せれば、普通に街に買い物に行こうとしていたのだ。最低限髪をセットしていただけ。マシだったと思いなおす。



「……下心はあると」


「それはそれとして、会話を楽しむのが本筋で。結果としてそういう事になるのも。まぁ期待してなくはないですけど。楽しく会話をする為に呼び出されたのに。それを疎かにしちゃ、ダメだと思う訳で」


「ふむ、まぁ。こちらが無理やり呼び出したのだ。殺されても仕方ないとも思っていたが。この貧相な体を求められるとはな」



 ツクモの声にからかいの色が混じる。



「ちょいと違いますね」


「ほう、どのように?」


「心を絆した結果、そうなれば良いなと」



 勝手に貪れと、雑に投げ出される肢体に、いかほどの価値があろうか。そうではなく、心を通わせ。その結果として抱くのが正道だ。いや、童貞の無駄に高い理想と笑われれば、反論は出来ないのだが。折角ここまで非現実的なシチュエーションに巻き込まれたのだから、多少格好は付けても罰は当たらない。



「ふふふ、本当に。甘いな、甘い誘惑だ」



 そう呟いた彼女が指を鳴らすと。次の瞬間長いテーブルがあっという間に折りたたまれて。二人で食事するのに丁度良いサイズにまとまった。文字通り魔法そのものな光景を目の当たりにして。けれどそれでもと――



「そりゃどうも、ええまぁ。そうでしょうね」



 楽しそうに、どこまでも楽しそうに笑うツクモに対して、ケイスケは覚悟を決める。道化と笑われようが、全力で彼女を楽しませようと、決意する。

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