始まり
「フゥー」と僕は深呼吸をする。ドキドキと心臓の鼓動が加速して周りに聞こえるんではないかと心配になる程の爆音を響かせている。緊張で歯がガタガタと震え、冷や汗も流れてくる。このままでは持たないと隣に積んである土嚢に寄りかかりそのまましゃがみ込んだ。
「顔色悪いそうですけど大丈夫ですかー?笠原優さん」
自分の名前が呼ばれたのでその方向を見ると成瀬クロエが立っていた。彼女はどっかの国とのハーフらしくほっそりと長い足と男の自分と同じくらいの身長でモデル顔負けのスレンダーな体型だ。顔も肩まである金髪に猫目が特徴の控えめに言っても整った顔をしている。ただ、その表情にはいつもの人を小馬鹿にしたニヤケ顔が張り付いている。
「怖いなら逃げても逃げてもいいんですよ」
「嫌な言い方するな……」
「だって優さんったら子犬みたいに震えてるんですもん。」
「武者震いだ。……それに僕は怖くなんてない。」
「そうですか……まあ無理だったら私の背後にでも隠れていてください。」
クロエは未だニヤニヤしている。正直悔しいが本当はめちゃくちゃ怖かった。ただそれも今からすることを考えると仕方の無いことだ。僕が抱え込んでいるのは重く黒光りしている小銃で、腰には刀をぶら下げている。クロエや周りの人間達も装備は違えど、どれも似たような格好だ。僕が寄りかかっている土嚢も幹線道路を分断させるように置かれたものだ。そう、僕らが今からやる事は「殺し合い」だ。こんなもの怖くないはずがない。それに僕は今回初めてちゃんとした戦闘に参加する。恐怖で吐きそうだ。ただ、逃げることだけは絶対にできない。そう誓ったのだから。僕は胸に下げたペンダントを握りこむ。僕の勇気の補充方法だ。
その時だ、割と近くで「パァン」と乾いた音が鳴る。空を見上げると快晴の空に黄色の信号弾が打ち上げられている。黄色の信号弾は敵の接近を知らせるものだ。
「あーよりによって私達の持ち場に来ちゃいましたか」
クロエはそう呟くと近くの土嚢に銃をセットして迎撃態勢を取る。僕も彼女の真似をする。土嚢に銃を置き銃床に頬を押し当て標準器を覗き込む。心臓の鼓動が大きく加速していく。いや、これは心臓の音ではない。巨大な足音だ。"ヤツ"がくる。