99 家は広い。自分は一人。
配線作業の終了後。
手伝ってくれた二人に礼と土産を——たまたま家にあった父の出張土産で、箱に大人しくおさまっている長崎の高級カステラを一つづつ——紙袋に入れて渡し、解散とした。二人はまっすぐ帰宅し、すぐにフロキリへログインするらしい。
部屋にはテテロと、テテロを失ってから家を離れていたガルドが戻った。
「ただいま」
答える人の居ない部屋に向かって呟く。これが本来の形であるはずだが、ガルドは居心地の悪さを感じていた。なにも返事がないことに違和感があり、気恥ずかしさに口がムの字へ歪む。
どうせ夕方から会えるというのに、家に一人佇むとぽっかりと空虚だった。静かな家に住む数多の機械達の、ぶーんという動作音だけが寄り添ってくる。
さて、とガルドは机の前で佇まいを整えた。
これからのフルダイブ時間に備え、プレイ前に一気に課題を済ませて時間をつくることにした。机に座り、鞄からノートを取り出す。
英語のテキストとノートを開く。
ペンを手に取った。
がしかし、筆が一切進まない。ガルドは無理矢理聞き手を動かすが、一向に英語が文字に見えてこない。そして背後が気になってくる。
生まれ育った家のはずだが、不安になった。誰の気配も当然無い、ただ広いだけの一軒家だ。それなのに居心地が悪い。榎本の自宅と比べてしまっているのが自分でもわかった。
集中できなくなるのが分かっていたが、いてもたってもいられずにモノアイ型プレーヤーを装着しweb画面を開く。音楽でも聞きながらやろうと思い動画サイトを開くが、しっくりくる曲もみつからない。
「……ん」
こういうとき、同年代の友人達はどうするだろう。ゲーム以外で気を紛らわす時。いや、寂しさを解消する時というのが正しい。
フルダイブに出会う前は、自分は何をして解消していただろうか。遠い昔のようで、まだ四年しか経っていないころのことを思い出す。
現れたのは、五年前に亡くなった祖母の姿だった。
短くてすみません、調整のためここで切らせてもらいました。次回は少し長くなると思います。




