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96 ガルドの手は添える程度

「え、誰?」

「初めて見るね……」

「誰ー!?」

 楽しげに話す男二人が玄関に入ろうとして、扉が閉まりかける。

「え、え、どうしよう」

「不法侵入!?」

 そこに一瞬だが、もう一人小柄な人影が見えた。

 黒髪を翻しつつ、襟ぐりの空いた長Tとシンプルなホワイトのニットを着た少女だった。顔はよく見えないが、その服装や背の高さから誰だか分かる。みずきだ。

 続いて、ダウンジャケットの男が「おう、邪魔するぜ」と言う声が届く。それに応対するのかみずきが口を開くところで、ドアが閉まった。

 無機質な施錠音が響く。

「あれ、みず?」

「知り合いかな……なに繋がり?」

「気になるわぁ」

「でもここにいると私たち不審者じゃん?」

「とりあえず、帰ろ」

 その後も佐久間と宮野はあれこれ予想を言い合った。父の部下説、親戚説などが挙がるものの、彼女の友達説というのは即却下された。

 彼女たちにとって中年男性とは、絶対に友人になりえない存在だ。自分達のスカートの下に伸びるむちっとした太ももを、性的な目でジロジロ見てくる野蛮な種族だと思っている。嫌悪感しか湧かないイヤなやつらという印象だった。



「重てぇ!」

「うぐぐ、大丈夫ですか、閣下ぁー……」

「ああ。そっちが辛いだろ、がんばれ」

 佐野家の階段。踏み板と手すり以外鉄骨で組まれた、下が丸見えのタイプだ。

 階段の上にガルドが、下側には榎本とボートウィグがテテロを押す形で運ぶ。一段一段休憩を入れ、万が一のためにフックに引っ掻けたロープを二階の手すりにくくっている。タワー型の本体を横に倒し、カーブは車の車庫入れの要領で小刻みに方向転換しながら進めた。

「そっち、ぶつかんないか?」

「ん、おーらい」

「上げますねー」

 ガルドの自室のベッド脇、ぽっかりと空いていたテテロの本来のポジションに近付け、ゆっくりと寝ていた本体を立ち上がらせる。

「ぐ……!」

「んむ!」

 榎本が下から上へ、ガルドはベッド上に立ち上がり横から力をいれた。ボートウィグは急な着地でテテロの角が傷つかないよう、毛布をクッションに挟む係りを担当している。

 重いものが着地する際の、重量感のある音がした。

 二人はすとんと力を抜く。あとはテテロを若干浮かせて毛布をひっぺがすだけだ。

 だがそんな気力も湧かないほど、二人はぐったりとしている。二の腕が痛み、榎本は若干腰が変な形で固まってしまった。

 歳を取ったものだ。言葉にはしないものの榎本は一人、自らの肉体の衰えを実感する。回復するのも昔のように一晩とはいかない。二日三日かけ徐々に痛みが抜けるだろう。彼が少なくない年月を生きた結果、中年のオヤジになったという証拠である。

「疲れた」

「おう……休憩入れようぜ」

 ガルドと榎本が揃って部屋を退出し、下に降りる。

「あちょ、待って、毛布引っ張るから……ええー?」

 ボートウィグはその後、一人で下敷きになった毛布と格闘した。

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