94 プロファイリング
榎本は氷山から帰還し、ロンド・ベルベットが所有するギルドホームへ移動した。広いエントランスを抜けた先に、天井が低めに設定されたシックな場所があった。区切るための壁がないため部屋ではないが、このエリアは暗黙の了解でレイド班は立ち入らない。
前線メンバーと呼ばれる、ギルドでストイックにバトルをこなしている六名だけが居座るエリアだった。
その柔らかそうな茶色の革張りソファに、阿国同様耳の尖ったアバターが座っている。
「ヒステリックで思い込みが激しい女だ。いい感じに動かせたな。危険だが、ガルドの利益になるなら金を惜しまない太っ腹なやつだ。この調子でコントロールすれば敵ではない」
どこか説明的で、聞く相手によっては上から視点に感じなくもない失礼な突きつけ方が特徴の彼は、ギルドの頭脳・マグナだ。
PCデータを半透明ポップアップにして表示させ、何事かを考えてはマルチタスクで記入してゆく。さらに会話までしているのだから、彼の脳は多角的に動いているのだろう。榎本は、固いが有能な仲間に精神的な話題を振る。
「……ここまで単純だと心配になるな」
阿国のあの信じきってる表情!と補足をいれ、榎本は彼女を心配するそぶりを見せた。実際は危険人物だということを忘れていないため、どこか冷めた考えで彼女を評価している。
「とりあえず、社会人経験は無いタイプだ。オフ会で家事手伝いと自己紹介していたな」
「落ち着いてるガルドとは正反対ってことだな」
「あいつは女子高生にしては落ち着きすぎだ。年相応なのは、頑固でリスクを恐れない点くらいだろう。フッ……これが若さか!」
「言いたかっただけだろ、それ」
ホームに帰還した榎本は、マグナに結果を報告していた。ほぼ想定通りの結果だと言うと、阿国についてのプロファイルをマグナが表示する。
ギルドの要注意プレイヤーデータには、プレイ傾向と共に性格や行動のログと予想も載せている。簡易的な行動シュミレータと連動しており、次にどんな行動にでるのか弾き出せるようにしていた。
これは元ギルドマスターのベルベットに依頼されて、マグナが丹精込めて作り上げたプロファイルデータだ。榎本も何度か利用させてもらったことがあり、その精度は素人の趣味とは思えないほどだった。
「メロは夕方かららしい。俺も少し落ちるぞ」
「おぅ、お疲れ」
マグナがそう言ってログアウトする。榎本も急いでログアウトし、外出の準備を始めた。ガルドがボートウィグを伴ってフルダイブ機の回収をしているはずである。横浜の東戸塚駅から彼女の高校に行く直線道路上の、坂で上下しつつ、白のハイエースが停まっている家。案内などなくてもたどり着けるはずだった。
「おっと」
洗面台に置かれたままになっていた化粧水のボトルを見つけ、背負うリュックに放り込む。もうこの家に彼女は帰ってこない。そう思うとひどく切ないように思う。
寝室に鎮座する古いフルダイブ機も、最後の主を失い寂しそうだった。




