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9 悩みのタネ

 ギルドの名はロンド・ベルベット。現在は引退している旧ギルドマスター、ベルベットの名前が入った戦闘特化型のギルドだ。

 メンバーの数人が共通して好むSFアニメに登場する、架空の部隊名に似せて名付けられた。こういったチーム名に特定の意味はないことが多い。語感ありき、ということがほとんどだ。ロンド・ベルベットも語呂とかっこよさ、そしてギルマス・ベルベットの鶴の一声で決められた。

 座っているメンバーが、二人を見ながら茶化すように話し出す。

「俺たちの中でも生粋のバトルジャンキーコンビだからな」

「部活終わりに家でも自主練、て感じだね」

「おお、若いな! どれ次は俺が相手を……」

「会議っ! 今日は会議の日!」

「どうせ議題の結論なんか一致しているだろう?」

 ギルドの特徴は、まさに自由。彼らを引き寄せたベルベットの性格がそのままギルドの雰囲気になっている。一応音頭を取ろうとしているメロが今日の予定を言うが、真面目そうな男でさえ「一致していることを話し合っても時間の無駄だ」と協調性の欠けた発言をしている。

 リーダー不在、というのもロンベルの長所であり短所でもあった。

 懐かしいものを見るようにガルドは様子を眺めた。ギルマスが去ってもうすぐ一年が経つ。寂しいと思う回数が増えているように思う。

「そうだなぁ。辞退する理由、ないよな」

「まぁね。でも一応意見を聞きたいなー」

「やるに決まってるだろうがぁ! これで乗り遅れるなど日鯖代表の名折れだぞ!」

「楽しみだね! あ、パスポート申請行かないと!」

 ガルドはいつも以上に口をつぐんでいた。


 議題:frozen-killing-online通称フロキリの世界大会及び世界規模のオフ会に参加するかどうか?

 ここ数日、ガルドの頭を悩ませている悩みの種がこれだ。発売された年には数回あったらしい。今年はそこから実に三年ぶりの大会で、ソロプレイヤーだったガルドは前回招待されなかった。

 上位ギルドには招待状がゲームから届き、その中でも最上位五チームのギルドには航空券と宿泊場所まで用意される。大会の運営にはスポンサーが付き、観客への広告収益から大会賞金が支払われるが、その金額はゲームそのものの人気度を表すバロメーターだ。

 ロンド・ベルベットは前回も呼ばれており、そのときはトップ三の座を得た。これはメンバーが変わる前であり、今回の事前投票では評価が一段下がり、暫定四位である。

 ガルドはちらりと古参メンバーを見た。その中には榎本も含まれる。この、歴戦を共にした仲間たちが世界で評価されたことは嬉しかった。ギルマスや離脱プレイヤーの技術がもっと高かったことは知っている。彼らの分まで頑張ろうと、鼓舞されるような気持ちにもなっている。

 それでもガルドは、この仲間たちと一緒に大会に出場するのをためらった。

 「はぁ」

 自然と漏れたため息の声が低いことに、再度ガルドは自分の性別を思った。

 リアルは明かさないと心に決めていたガルドは、世界大会だからといって「ハイ行きます」とは言えなかったのだ。

 着ぐるみで全身を覆えばなんとか、と真剣に考えている。ヒーローよろしくアイパッチ、は体型ですぐに女だとバレる。意味がない。ガルドは目をぎゅっとつむった。それはアバターの容姿に合う凶悪な眉間のシワと忿怒の表情で現れる。

「あー、世界大会出場、反対のやついる?」

 ガルドは強く悩んだ。よっぽど手を挙げて「どうせ賞金なんてもらえない、恥をさらすだけだ」と言いたかった。もちろん言い訳だ。

「いねーって、それどころか優勝も圏内だぞ」

「最大手だった【アカシックレコーズ】が空中分解したからなぁ、これは狙えるぞ」

「あとは気合だ、根性だっ!」

「おいジャス、適当すぎるだろう。練習と作戦。入念な準備。その上のチームワーク、だな。その部分では負ける気がしないが」

 そうなのだ。トップランカーが一つ落ちたため、十分優勝が狙える位置に自分たちがいることはわかっている。言い訳にもならない。

 ガルドは結局、反対できなかった。

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