89 過保護二人の策のうち
海外での世界大会に出場するのは確かに前線の六名だけだ。だが日本サーバー唯一の出場チームということもあり、沢山のフレンド達や熱心なフロキリファンが空港まで応援に駆けつける。前回はそうだった。
ギルマスだったベルベットのストーカーが何名も現れ、大変だったことを思い出す。
今回も同じように、しつこいプレイヤーが来ることは想像にかたくない。
<あああ! 来るじゃねーか!>
<なんだ、今気付いたのか>
マグナが榎本を正面に見据えながら続ける。
<確かに忘れていた。何か対策をとらないとな。ギルマスは勝手に自分で制裁加えたから何もしなくてよかったが……だからこそ忘れていたんだろう。俺たちが何か対策をとるということ自体、初めてのことだ>
<どーすんだよ。空港で騒ぎなんか起こしたくないぜ。前はベルベットだったから大事にならずに済んだようなもんで、今回はガルドのだろ? オフ会に一切出てこないレアもん見ようと必死になるだろ、あいつら>
ガルドのリアル情報は、何通りものデタラメが何度も流れて収拾がつかない状況だった。横浜住まいというのはバレているものの、仕事・正確な年齢・家族構成・ゲーム以外の趣味・服装・身長体重まで謎のままだ。
アバター同様だという噂、痩せていてアラフィフ越えだという噂、社長説、鳶職・建築土木作業員説、バツイチ説まである。子どもが居るという説は本人が否定して消えたが、それが信じられる程度には大人だと思われていた。
ここまで情報が散乱しているのも珍しいが、ガルドはそのどれも肯定せず、どれも否定しなかった。お陰で襲撃されることもなく生きている。
<そうだな。ギルマスはオフの姿を知られていた。混乱は最小限で済んだ>
<あれを越える騒ぎになるってか>
<そうだな>
<ヤバイぞ!>
<作戦を立てる必要があるだろう。まず俺たちから情報が漏れないよう、メロ達とアキバ酒場のオーナーに連絡。容姿性別一切を極秘にして、やつらの目をあざむく必要がある>
二人で顔を見合わせ、ため息をつきあった。ガルドは悪くない。悪いのは、ガルドの住所データを解析しようとした過去を持つ阿国や、ベルベットの自宅に盗聴機を仕掛けたストーカーどもの方だ。
いつもの表情でレイド班の報告に聞き入るガルドを見ながら、榎本は一番危険視しているネットストーカー・阿国を思い出す。
まるでリアルでのガルドの容姿を模したかのような、鼻筋の整った美しい女性アバター。その実、中身は正反対。粘着質で鬼のような女だった。