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88 噂の女と失念と

 レイド班の三人とガルドが話し込む隙を見計らい、マグナはメッセージを隣の男に送信した。

<そうか、失念していたな。初回がボートウィグで助かった。デメリットというと、他の奴等と出くわすかもしれないということだな?>

<そういうこと。俺たちがこいつのリアルを知ってまだ一ヶ月ちょっとだってのに、ピンポイントで熱心なやつを引き当てちまった。もっとヤバイのにエンカウントするのなんて、あっという間だろうな>

 マグナは目眩に襲われた。ギルマスとも違う一種のカリスマ性を持つガルドは、その能力を嫌ったギルマスとは違い、他人からの評価に鈍かった。お陰でガルドに拒否されることもなく、カリスマのオーラに当てられた面々はそのまま付き従うことが出来ている。

 フレンドの少ないガルドに運良く名前を覚えられた者は、特別なその魔力から逃げ出すことが出来ないだろう。元々はボートウィグもその一人だった。そして、熱狂的なガルドのファンであったはずが悪質化したプレイヤーというのが何名かいるのである。

 榎本が心配しているのは、その何名かの中で「本人の迷惑関係なく突っ込んでくる輩」である。

 マグナが推測を続けた。

<首都圏じゃない奴等は問題ないだろう。それに、オフ会未参加でお前の顔を知らない奴も除外していい。問題は、リアルで行動を共にしているお前と接触したことのある奴だ。思い出せないか?>

<俺が知ってる限りでは阿国(おくに)がヤバい。新宿エリアに住んでたはずだ。俺の顔もバッチリだし、なにより行動範囲が広い。ガルドが横浜住みってのも知ってたな>

<阿国か。あいつはガルドも拒否してる。鉢合わせさえしなければ問題ないのではないか?>

<あいつ、前科あるだろ?>

 無言でぼーっと立っているように見えた二人が、その瞬間同時に生のゴーヤでも噛んだかのような苦悩の表情になる。マグナが気弱に榎本へ問いかけた。

<先回りして逮捕は出来んのか>

<ガルドが怪我するか、もしくはログの残るメッセ送ってくればあるいは>

<却下だ! そんな危険な真似させられん! 俺ですらあいつの送ってきた二年前のURL、放置しているんだぞ! 下手したらアバターが乗っ取られかねない!>

 マグナが瞳孔を開きながらそう送信する。

 阿国は言うほど過激な思考の持ち主ではない。ただ愛が異常に強く、そしてその愛を具現化する際の「情報技術」が卓越しているのが恐怖の源流であった。

 過去アカウントを公式から消去操作された回数は山のようにあり、しかし徐々にその頻度は減ってきている。運営側の公式AIをも操作出来るハッキング技術は恐怖以外に何も産み出さないだろう。マグナは心底、彼女が社会貢献もしないでこんなことばかりしているのが不思議だった。

 彼女なら海外から引き抜かれて英雄扱いされてもいいだろう。国際ハッカー集団の仲間なのだと言われれば、素直にそうなのだと信じるほどだった。

<とりあえず二人同時に出歩かないようにするから>

<今はそれしかないだろう。それでも結局、出発の時にはバレるだろうが>

 マグナは目を閉じながら、そう送信した。

<世界大会>

 「あ~……」

 思わず声が出る。榎本は根本的なことを失念していた。

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