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86 調整バージョンアップ

 メンテナンス後のログイン率は異常だ。皆、どこをどうメンテしたのかが気になるのだ。出遅れたガルドと榎本は、パワーバランスが変更されたという信徒の塔のエリアに向かう。

 塔に程近い転送ポイント周辺でさえ、様々な人種の日本人プレイヤー達がぎゅうぎゅう詰めになっている。その向こうの戦闘エリアがどうなっているかなど想像したくもなかった。

「どうする」

「聞き込みでいいだろ、もう見てきてるだろうしな」

 メンテの公式報告はたった一文、「出現モンスターを調整しました」だけだった。非公式のファンサイトに報告が乗るだろうが、今ここにいる者達に聞いた方が圧倒的に早い。

 幸い、見知った顔が近くにいた。

「マグナ」

「来たか。遅かったな」

 オープンフィールドでギルドメンバーを目視で見つけるのは難しい。クエストを受注していない時、同一チームを組むギルドメンバーはマップ上の名前の左にハンドシェイク、つまり握手のマークが付く。エリアに来た直後に開いたマップにはハンドシェイクが一つ、転送ポイントのすぐ近くに表示されていた。

「よう。見てきたのか?」

「ああ。中々渋い」

「弱くするだろうとは思ってたが、やっぱそんなもんか」

 渋いとはつまり「派手な変化は無い」ということだ。三人は人混みを掻き分け、同じようにハンドシェイクがマークされていた辺りまで進む。

「ピックスブルーが随分と鈍くなっていたが、あとは本当に少しずつ弄られているくらいだった」

「ディディー=エーは?」

「この目では見ていないが、変化無しとのことだった」

 それを聞いたガルドは目に見えて不機嫌な顔をした。期待していたモンスターが変わらないことも不満だったが、ログイン直前の榎本の発言を引きずっている。デフォルトの眉間のシワを二割ほどさらに深くし、戦場を見つめる歴戦の傭兵のようだった。

 すれ違った一般ヒューマン種の女性が、思わず目に入ったガルドに「ヒッ」とひきつった悲鳴をあげて通りすぎて行く。

「残念だったな。あれが強くなればなかなか面白いだろうが……」

「あ、お前もそう思うか?」

「もちろんだ。運営はなにも分かっていない。俺がチームにいれば、徹夜してでもイジるようなものを」

「上の指示に無い仕事をするなよ」

 笑いながらそんな冗談を言い合うが、ガルドはそんなマグナを「いつかやりかねない」と危惧していた。既に仕事先で何か妙なこだわりを注いでいるかもしれない。見たこともないマグナの上司に心の中で合掌した。

 マグナはジャンルこそ違うがプログラム設計の技術者である。しかしフロキリに掛ける愛情が深すぎて、運営に毒のある台詞を吐くことが多かった。

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