80 新たな戦友
座っていたガルドの頭を、胸に抱き込むような形になる。
「泣くな」
ゲームでもよく泣く彼を、こうして好きにさせるのもガルドとボートウィグのお決まりだった。
しかし見た目がよろしくない。
「なっ! 待て待て待てっ、ガルドおいそうじゃねえ! 嫌がれ! つかテメー調子乗るなよボートウィグっ!」
榎本が立ち上がったときの椅子の音が店に響き、周囲の客が何事かとチラリ見る。さらにおいおいと泣くボートウィグの嗚咽が、静まり返った店内の新たなBGMとなった。居たたまれない榎本が口早に注意するが、一向にボートウィグは動かない。
「閣下、閣下ぁ~!」
「ガルドを離せ! この犬野郎!」
「うぅ、僕は、僕は何年もこの日を! うぅっ! ぐすっ、ずっと、ずっと! 待ってたんですよぉっ!?」
「もっと肉食べろ」
「相変わらず突拍子もないこと言い出すぅ~!」
「こんなに痩せてると思わなかった」
「僕だって閣下がこんな可愛くてちっちゃいなんて、ちっちゃ、あれ閣下……デカい?」
「身長なら百七十は越えてる」
「閣下かっこいい!」
ひっつき虫のようにガルドにくっついているボートウィグを、榎本が強引に引き剥がしにかかる。
「は、な、せ!」
「榎本さんばかりズルい! 閣下の相棒とはいえ、ズルいじゃないですか! いつの間にこんな感じになってたんすか!」
「まだそんなに経ってねーよ!」
「その言い方、ここ数日じゃないでしょ! 僕だって閣下の犬ですからぁ! 離れませんから! あんたの命令聞かないですから!」
ブンブン頭を振り涙を辺りに散らしながら、ボートウィグは必死に抵抗した。口元がわなわなと震えている様子は、マズルを持つアバターとは若干違っている。それが新鮮で、ガルドはじっとボートウィグを見つめた。
「ハッ、閣下が僕に熱視線を! もっと栄養状態の良いときにお会いしたかった……」
泣きながら照れるという器用な表情をしながら、ゆっくりガルドを抱える腕を解いた。すかさず榎本がボートウィグを後ろに思いきり引き倒し、椅子に座らせる。
「なに照れてやがる、気持ち悪い……」
「あ、写真撮っていいですか?」
「自由だな! 断れガルド、こいつ変態だ!」
「ん」
鞄からスマホを取り出したボートウィグに、ガルドはピースのポーズで答えた。
小首を傾げ上目使いしつつ、小さく頬のそばでピースする。学校の友人たちに教わったプリクラ用のかわいいポーズだ。
「ふぉおお! か、かわいい!」
「ガルド……お前なぁ……」
榎本は保護者の面持ちで心配になった。




