↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/431

78 エンカウント・ボートウィグ

 座っている客と歩いている客が目を合わせるというのは、どちらかが強く興味を示さなければあり得ない構図だ。

 ガルドはその違和感を目で追った。

「あれー!?」

 目線の先から不意に大きな驚愕の声が聞こえ、予期せぬ反応にぎょっとする。声に背を向けていた榎本も、弾かれたようにそちらを振り返った。

 声の主は、目が合ったガルドではなく後頭部だけの榎本を凝視していた。

「やっぱり! 榎本さんじゃないっすか! あ、上野に住んでるんしたね~」

 そう言って近づいてくる男に、ガルドは全く見覚えがない。榎本の友人だろうと推測する。年齢も彼と同じ程度に見えた。

 彼はくたびれたスーツの上に技術者が着るような、ワッペン付き胸ポケットが目立つアイボリーの作業用ブルゾンをはおっていた。

 ボサボサの鳥の巣のような真っ黒い髪は、毛先のダメージがひどくガサついている。もっと切り揃えれば良くなるだろうが、恐らく忙しいのだろう。数ヵ月は切っていなさそうだ。

 顔色はお世辞にも健康的だとは言えないレベルに白く、目の下のくっきりと浮かんだ隈にも心配になる。鼻立ちはのっぺりとしており凹凸が少なく、目だけがキラキラと力ある輝きを称えていた。

 それが逆に不気味に見える。

 変なハイ状態なのだろう。徹夜か、栄養ドリンクブースターか。ガルドにも経験がある。あれは脳だけ強くさせて体を無視するドーピング薬だ。心臓や免疫を置いてきぼりでダッシュするようなものである。

 ヤクは辞めてすぐに帰宅して、暖かくして寝た方がいい。栄養のある消化にいいもの、たとえば卵をのっけたうどんなんかを作ってあげたくなる。そんな男だった。

 声を掛けられた榎本は目にみえて慌て、作り笑顔で応対した。ちらりとガルドを見てから返事をする。

「よぉ……ぼ、ボートウィグじゃねーか」

 まさか。

 その名にガルドが凍ったように固まる。

「……は?」

 思わず声を出して聞き返す。聞き覚えのある名前だ。そもそも、ガルドが(・)榎本に紹介したのだ。

 目の前の、ボートウィグと呼ばれた男は一瞬で顔を赤くして照れた。ガルドの疑問符を別の意味で受け取ったらしい。

「よしてくださいよ~! リアルじゃ痛いっす、その名前」

 オンラインゲームの平均値で言うとそれほど痛くはないが、現実にはありえない名前である。それに少し長い。付き合いの長いガルドも、面倒なときは愛称の「ウィグ」で済ませてしまうことが多かった。

 彼はロンド・ベルベットのメンバーではない。「鈴音(りんね)舞踏(ぶとう)絢爛(けんらん)衆(しゅう)」というギルドに所属する男だ。

 優秀な単詠唱(短チャージ)系魔法職プレイヤーで、レイドの時などはよく支援してもらっている。周囲と比較しても特にガルドと親交が長く、元々ソロ同士だったが、ガルドのロンド・ベルベット加入と同時に「鈴音」に加入した経緯があった。

 ガルドとしては、榎本とはまた違う大切な戦友の一人だと思っている。

「っと、そちらは……あっ、ああ~、デートでしたか? すみませんお邪魔しちゃって」

 そこまで話した後、榎本にだけ聞こえる程度の小さな小さな小声で「チョー可愛いっすね、援交っすか?」と失礼極まりないことを呟いた。

「おい! いや違うぞ……あーっと、えっとだな」

 ボートウィグのセクハラと冗談の境目のような発言をスルーしながら、榎本はガルドの方に一瞥をくれる。このアイコンタクトに、ガルドは一つ頷きで答えた。

 前線メンバーにバレた以上、隠す理由は無い。

 女とバレてしまっても実害はないだろう。以前ほど「ネナベであること」への罪悪感は無い。それを綺麗に消してくれたのは榎本やギルドの仲間達だ。

 ガルドにとって自分の評価など二の次に変化し、むしろ「年の差が親子ほどもある少女とデートしていると榎本が噂される」方がダメージだと判断した。

 それに加え、鳥の巣頭の彼は戦友だ。

 ガルドを年上と信じ慕ってくれている彼は、フリーでやっていた頃からの付き合いが続いた数少ない戦場の友なのだ。

 オフ会の時同様、拒否されないかと不安がよぎる。だがガルドは、舎弟のような存在の彼の、暑苦しい忠誠心を信じることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。