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68 恋の話とプレゼント

「イベントごとにワイワイ出来ていいね! この間のクリスマスはどうだったの?」

「えっと……」

 そう振られた話題に言葉が詰まる。

「イブもクリスマスも会ってたんでしょ?」

「一応」

 みずきは、友人で集まる予定だったランチもカラオケも断った。問い詰められて「両方ログインする(彼に会いに行く)予定」だと言うと、長い付き合いの恋人同士ならではの「側に居るのが当たり前」という意味で受け取られたらしい。

 ここ最近の日課である世界大会対策もそうだが、その時期は大規模なプレイヤーVSプレイヤー決戦、通称攻城戦(こうじょうせん)が行われていた。みずきは必死に切りまくり、死に、復活(リスポーン)を繰り返していたころである。

 血塗られた聖夜であることに違いはない。

「二日も一緒で盛り上がったでしょ~」

「まぁ……熱かった」

「羨ましいぞー!」

「いいなー、仲良しだなー!」

 アキバのオフ会より前の出来事ということもあり、ガルドが「四十代のおっさん」だと思われていた頃だ。つまりクリスマスなど関係ないといった態度で——実際みずきにとってはただの「ケーキとチキンの日」だ——あえてプレイヤー達は聖夜という単語を出さずに過ごしていた。

「プレゼントは何もらったの? 私はアナスイの香水(パフューム)だったよ」

「あ、これ? そうだったんだ。すっごいいい香りだよ~」

「お気に入りでつけまくってたら、かなり減っちゃったんだよね!」

「リピ買いもいいんじゃない? ね、みず」

「うん、似合うと思う」

「ありがとっ! ね、みずは? 向こうで使えるものでしょ?」

 クリスマスの日を必死に思い出す。様々なドロップアイテムの中で何か無いだろうか。榎本からアイテム譲渡で渡されたものなど(回復アイテム)くらいだ。

 何か誤魔化せそうなアイテムは無いか、あれこれ考える中でとある女性プレイヤーから貰ったものを思い出した。

「……ダイヤもらった」

「えっ」

「だっダイヤって、あのダイヤモンド?」

 ファンタジー色が強いフロキリでは「魔法による宝石」がドロップのほとんどを占めており、現実でも見かける鉱石はレアである。その中で金剛石(ダイヤモンド)は一等珍しい鉱石だった。勿論リアルでもその価値は知っての通りで、それは友人達の驚いた顔を見ても分かる。

「ゲームとはいえ、すっごいの貰っちゃったんだね……」

「かなり珍しいアイテムだったから、嬉しかった」

「そうなんだ、彼、何て言うかその、ストレートだね」

「ん? 真面目な人だよ」

 みずきは、佐久間が言う「ストレート」の真意がよく分からなかった。


「うわっ真っ暗じゃん」

「寒いっ!」

「……来月の誕生日プレゼント、早めにあげてもいい?」

「早め?」

「マフラー、買お」

 それはみずきの、突然の思いつきだった。

 ホッカイロで必死に暖を取る宮野を見ていると、早めでも今必要なものをあげようと思ったのだ。先程まで話していたプレゼントの話題を引きずっているのが明白だが、喜んでもらえるならば構わないと思う。

 誕生日当日には何かジュースでも奢ろう。そう思いつつ、買おうと誘ったショップを指差す。

「ええっいいの?」

「何でも好きなの選んで。他のショップがいい?」

「ううん、ここで全然嬉しい! え、何にしよう……どれもかわいいー!」

 遊園地のようなライト演出の効いた店内には、世界中で不動の地位を築いたアニメから飛び出した、モノクロと原色使いのアメリカンなキャラクターグッズで溢れている。各年代を象徴するアニメ映画出身のキャラからグッズ展開専門のぬいぐるみまで様々だ。

 今も昔も女子高生に人気のそのグッズショップは、宮野を始め友人達がこよなく愛する店だ。みずき一人が馴染めずにディスプレイを眺める。

「えっえっどうしようどうしよう~」

「好きなの選びなよ。あれ好きじゃなかった?」

「好き好き! でもこっちも好き!」

 あれこれ悩む二人の楽しそうな声がする。

 ディスプレイで眩しく輝く水晶のインテリアは、フィギュアと呼ぶには高貴で清廉としていた。ドレスをつまんで空を見上げながら踊るプリンセスは、まるで宮野や佐久間のような友人達のようだ。

 着飾り、幸せであり、恋と愛に身を焦がしている。美しい青春を送っている彼女達がプリンセスと重なる。

 ゲームに入り込み人生を賭ける自分は、決してプリンセスにはなり得ない。

「うわあ暖かい!」

「その色合うね~!」

 そういいながらマフラーを試着して鏡に向き合う宮野を、みずきは優しく見つめた。

「うん、かわいい」

「これにするっ! みず、ありがとね。選ばせてくれるところとか、欲しいときにスッとさりげなくくれるところとか、やっぱ流石だよ~」

「うんうん。すごくかっこいい!」

「——ありがと」

 プレゼントをするとむず痒い気分になる。みずきは照れながら礼を言った。

 あげたのは自分なのに、逆に気持ちを貰うような、幸せをお裾分けしたはずなのに自分へそのまま渡されるような気分だった。機会がないと渡しづらいが、一度あげるとしばらくの間は感触が尾を引くものだ。

 恥ずかしさと共に心地よい暖かさに包まれながら、電車に揺られて家路につく。

 さてチョコともう一つ、仲間達にあげるアイテムは何が良いかと考えながら。

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