65 父が命じるラッシュガード
<おいおい。六人以上は出場出来ないし、レイド班には飛行機のチケット出ないし、自腹でハワイは厳しいだろ。前回みたいにマグナの嫁とアイツらは手伝いで着いてくるだろうけどな……親御さん自腹で連れてくるのか?>
「増やす、って二人きりじゃなくするってことかい? 女性だったら、まぁいいかな。もちろんみずきの知り合いで、だ。彼の知り合いはダメだぞ。グルの可能性がある。できれば父さんが一緒に行きたいくらいだが、ゴールデンウィークは仕事があるしなぁ……」
二人の話が入り交じってきているが、みずきは冷静に計算し、打開策を弾き出す。
ロンド・ベルベットに同行する人材、女性、金銭的余裕、父を納得させる倫理観のある保護者役。みずきの頭に広がる連絡網から、最適な人材を数人ピックアップする。
一人は、フルダイブVRMMOに理解のある従姉妹。もう一人は、ギルド参謀マグナの恋人。さらにもう複数人。前回も同行したという、あるギルドに所属するメンバー達だ。誰が女性か分からないが、下調べ自体は簡単だった。
しかし予定のことがある。聞いてみなければ、可能かどうかわからない。
「女の人、一人誘ってみる。ならいい?」
「えっ!? 彼はいいのかい、それ。こちらとしてはありがたいけど、彼にメリットは無いだろう」
「中止よりはいい、とか言うと思う」
「そっか、穏和な方だねぇ。いや、父さんも恋愛禁止だなんて言わないぞ? ただ、なんというか、健全にな! お買い物とか食事で帰してもらうんだぞ!?」
父の表情があからさまに良くなってゆく。その後もクドクドと「高校生の理想的な恋愛関係」について語っていたが、そもそもその恋愛が嘘であるみずきにとって、全て糠に釘だった。
とにかく二人きりでなければ遠征もOKということらしい。みずきの緊張感で凍った心が、すうっと溶けてゆく。
「いいかみずき、部屋はシングルか女性とのツインにするんだぞ。昼間でも彼を部屋に入れちゃだめだ。お酒の飲める店も拒否しなさい。ハワイはそれほど治安悪くないが……ハッ! ビーチ、水着! ダメだダメだ! 長袖のラッシュガードを持っていきなさい! いいね!?」
<おいガルド、大丈夫なのか!? 変な方向に行ってないかっ!?>
父の鬱陶しい小言が続く。途中で無言になったみずき側を心配した榎本の、悲鳴のような文章がみずきの脳で荒ぶり続けた。




