64 ダブルス・トーク
<え、まじか!>
<ああ……け、計画通り>
<どこがだよっ! 待て待て、俺生きて帰れないフラグたってないかそれ!>
みずきは、父の怒りを受けながらこっそりと榎本に連絡をいれた。
脳波感受型コントローラの利点は、画面を見なくても文章が読める・書けることだ。父とは反対側のこめかみにコードをくっつけ、会話を続行しながら榎本とチャットをスタートさせた。
<正直に言っちまったほうがいいんじゃないかー? 遠征の方が怒らないだろ>
<男五人に女一人だから、そっちのほうが怒るかと思った。それに、テテロ回収の情報源にもこの設定で通してる。対象によって齟齬があるのはマズい>
<しかしその様子じゃどっちにしろダメだろ。一昨日も言ったが、俺はオッサンだからな! 俺が顔出したくらいじゃハワイなんか厳しいぞ>
まさか父が恋人というキーワードにこれほど過剰反応するとは、夢にも思わなかったのだ。みずきはしょんぼりと気落ちした。
何事か小言を話していた父が慌て始め、深呼吸をひとつして仕切り直した。
「みずき、冷静になろうな……」
それはまるで自分自身に言い聞かせるような台詞だった。そして父は、少し温くなり泡の消えたカプチーノを一口飲むと、一息つき、みずきを見る。
見計らってみずきは交渉を始めた。
「父さんは、海外行き……反対?」
「そうは言ってないさ。世界を見るっていうのは大事だよ。英語の勉強にもなる」
<とにかく親父さんには、テテロを取り返す許可だけ貰え。海外の話は後回しだ>
父の声と榎本の文章が頭に同時にやってくる。みずきは必死にどちらも考えながら、それぞれに対応していく。
「じゃあ、行ってもいい?」
<その話は大丈夫だった。味方になってくれるらしい。だが、後回しにするにしても、大会は半年後に迫ってる>
「その、な。みずき、恋人と二人きりはダメだ! まだ高校生なんだぞ。二人きりで旅行なんて! 遠距離恋愛のお前達は会いたいだけだろうが、せめて誰か——」
<そうか。んじゃ、旅行の件はじっくり攻めるしかないな……せめてギルドにもう一人女が居れば、大分違うんだけどなぁ>
「増やすってこと?」
思わずリアルで返答してしまった。
脳波コンを使用しながら二通りの会話をするなど、みずきにとっては慣れたことだった。だが、父の許容ボーダーラインと榎本のアイディアが衝撃的で、思わず口を突いて出る。
人を増やす。旅行に女性が居ればいいのだ。これはいいことを聞いた。




