表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/429

63 父は激怒した

「そうだ、あともう一つ。海外に行きたいって言ってたね。母さんが『怒りすぎてよく聞いてなかった』とか言ってたけど。うーん、なんだかタイミング悪かったね」

 あのときの母の声を、みずきは脳波感受型コントローラの恩恵で全く聞いていなかった。耳からの情報をプレイヤー優先にしてしまえば、外の音声を受け取ることは出来ない。怒りの声を文字通りシャットアウトしていた。

 向こうも聞いていなかったらしい。安堵感とともに、父にどう話すか考える。あのときは「ゲームの大会」だと話してしまった。だが、聞いていないのであれば「あの計画」にシフトすることも出来るはずだ。みずきは必死に、上手い言い訳を考えた。

 しかし、榎本の「設定に無理あるって!」の声がリフレインする。

 止めた方がいいだろうか。彼の言うことも一理ある。

 問題は、父が「ゲームの遠征(オヤジ五人に囲まれながら)」と「恋人との旅行」のどちらなら許してくれるか、ということだ。

 悩むみずきを見守る父は、面白いものを見るような満面の笑みのまま、カプチーノをゆったりと飲んでいた。そのほおに年齢故のほうれい線がくっきり浮かぶのを見つけ、みずきは仲間たちのリアル側を思い出す。父よりシワが多い男が三人、父よりシワの少ない男が二人。後者は榎本と夜叉彦だ。それでも中年男に変わりはない。

 そんな男がずらり六人並ぶ様子を、父は許してくれるだろうか。恋人などいたこともないみずきは、慌てて慣れた嘘を口にした。

「実は、四年前から恋人が居て」

「え?」

「アメリカに居て」

「えっと、ん?」

「彼がハワイに行く機会があって」

「……え」

「一緒に、一週間くらい過ごそうって誘われてる」

「みずき」

「……行くから」

 その時の父の顔は、梅干しのようなくしゃりとした泣き顔だった。

「みずきぃ、知らなかったぞ……」

「言ってなかった、ごめん。とりあえず許可だけ欲しい」

「許さんぞっだめだめ! 同級生か!?」

「年上で、仕事してる」

「なんの! 家柄は! 収入は! 婿じゃなきゃだめだからな!」

「むこ?」

「長男はだめだ、次男より下じゃなきゃだめだ!」

「兄弟、いたかな」

 みずきは、まさか父親がここまで騒ぐとは思ってもいなかった。

 怒りながら挙げる条件も、当てはまるかどうかほとんど答えられない。仕事は確か不動産関係だが、それではアメリカというのは辻褄が合わなかった。収入も家柄も知らない。兄弟がいたのかさえ覚えていない。姉か妹だかがいる、というのは聞いたことがある気がした。

 いつも穏和な父が豹変し、怒りを露にしている。ほんの少し、みずきはショックだった。

「父さんが認めた男じゃないとダメだ!」

 話が予想以上に先まで飛んでいった。ホームランの弾道のように遠くへ行った父の思考に、みずきは追い付けないでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ