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62 秘匿_機密_守秘義務遵守

「なにそれ」

 思わず強く出てしまった声に、みずきは自分で驚いた。父は真面目な顔のまま話を続ける。

「脳波感受の技術そのものは、五年と言わず結構前からあったんだ。市場に出回らないようにコントロールされていたけどね。フルダイブは、その歯止めが効かなかったんだ。何せゲームだから。好きな人は英語圏とダイレクトにやり取りして輸入してしまう。高額なのが救いだったんだよ。普及率が低いまま、もう四年も耐えてる。情報のコントロールも簡単だよ」

「——わざと、脳波コンが良くないって」

 みずきの脳裏に、母の烈火として怒る表情が浮かぶ。あれが「作られた情報の鵜呑み」によるものだと、にわかには信じがたかった。

「ズバリ言うとそうだね。しかも肯定派の言葉を潰しつつ、デメリットを拡散してる。フルダイブのゲームのファンサイト、少ないだろう? SNSでのコメントも内輪にしか広まらないように内々でブロックをしてるんだ。みずきたちプレイヤーには見えるけどね、一般の閲覧者には見えないようにしてる」

 そこまでされる謂れが何処にある、と一ゲーマーとしてみずきは怒りを覚えた。まるでゲームそのものが悪だと言われているように感じ、フルダイブをプレイする自分が犯罪者のようにも思える。父は表情を少し和らげた。

「法整備が済めば、徐々に解放するつもりらしいんだ。もうちょっとの辛抱だよ」

 法整備までの情報統制、つまり日本の首脳部がそう指示をしたということだった。みずきは頭が痛くなる。

「父さんは、理由って知ってるの」

「知ってるけど、残念だが教えられないんだ。守秘義務っていうんだけど、ルールがあってね」

 秘密を守る義務と書いて守秘義務だろう。みずきはその社会のルールに悪態を裏でつきながら、予想してみる。

 海外でもこれといって問題が発生したという情報はなかった。日本人特有のことのなのかもしれない。脳波感受型コントローラが広まってほしくない理由。広まることによって、国レベルで問題が発生する可能性。身体的なものなのか、犯罪的なものなのか、心理的なものなのか。

 さっぱり想像がつかない。

 考えても分からなかったみずきは、話を戻すことにした。

「父さんは反対?」

「フルダイブ機についてかい? そうだな、一つ条件がある」

 父はそう言い、またキュッと真面目な表情になった。みずきはまたどきっとし歯を食い縛る。

「勉強をおろそかにしちゃだめだぞ!」

 それを聞いたみずきは、ゆるゆると表情筋の力を抜いた。なんだ、そんなことか。今まで四年間、悪くない成績を叩き出してきた。トップクラスとは言わないが、父が満足できるだけのクオリティで良いのであれば、今まで通りで大丈夫だろう。

「あ、今『いえーい楽勝だぜー』とか考えてただろう。両立は大変だと思うんだけどな……そういやみずき、何年前にフルダイブ機買ったんだい?」

「ちょうど四年前」

「中学のころ!?」

「受験の時期もログインしてた」

「それであそこに受かったのかい!?」

 高校受験期も、頻度こそ少し落ちたが普段通りプレイしていた。それで地域有数の進学校に入れたこともあり、みずきは成績面ではかなり楽観視している。

「そんな前だったなんて……器用だな。そこは母さん似だね」

 にっこりして父がそう言うのを、苦虫を潰したようにエグみのある気分でみずきは聞いた。似たくない。そもそも母が過剰に嫌がらなければ、こんなことにはならなかったのだ。

「母さんが嫌がってる」

「そうだった、機械を勝手に捨ててしまったんだったね。そっちは父さんがなんとか言っておくよ。今話したことを言いつつ、みずきに危険性がないことも伝えておく。それでダメなら、そうだなぁ。父さんも脳波感受のマルチデバイス入れてみるよ。父さん用のフルダイブ機をみずきに貸してあげてるってことにする。どうかな」

「いいアイディアだけど、いいの?」

「父さんもう年だけど、まだまだ部下に負けてられないからね。脳波感受で成績アップ、給料アップ! ははは、調子良すぎかな?」

「それで母さん、納得するかな」

「あはは、どうだろう。口喧嘩じゃ母さんには敵わないからなぁ」

「……自分でも言ってみる。まだ、謝ってない」

「そうだね。母さんにも謝って、お願いしてみよう。今よりは良い返事が貰えるだろうから」

「うん」

「よし、帰ったら早速交渉開始だ!」

 この言葉が欲しかったのだ。自然と笑みがこぼれる。父から聞いた頼りがいのある言葉が、みずきは素直に嬉しかった。

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