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53 セットアップはご自分で

 何事かと疑問ばかりが湧いてきたが、箱の側面に大きく描かれたロゴでガルドは事態を把握した。

 雑誌やサイトでしょっちゅう見かける上に、ガルドの自宅にあったものの側面にも書かれている。放射線状に線が四本引かれたそのロゴは、曙光(しょこう)のものだ。

 大きさとロゴが、この大きな荷物を新たなフルダイブ機だと教えてくれた。

「そこにおねがいします」

「セットアップも有料でお受けしますが……」

「あ、こちらでやるので大丈夫です」

 本が山ほど積まれていたはずのソファの後ろに、今度は大きすぎる機械が鎮座した。大変な思いをして急ぎで別室に本を運んだのは、これを見越してのことだったのか。ガルドは良いように使われたのだと気付くものの、怒りは欠片も湧かなかった。

 少し大きな音を立てながら、梱包材を破りにかかる。破った膜から、光を吸収するマットブラックの壁面がぬっと顔を出した。その色合いと、ちらりと見えた数字で機体名が分かる。

「TEE-MAX/2か」

「どうよ! 曙光の現行新型! テテロに並ぶ傑作らしいぜ?」

「あぁ。これはいいものだ」

 口にしなかったが、ガルドには色々と聞きたいことが山ほどあった。

 なぜこのタイミングで新機体が家に届くのか。次の夏まで待てば、これよりさらに性能のいい機体が発売される。冬の今買うメリットが一点しか浮かばない。

 自分が転がり込んだからだろう。ガルドはすぐそう思い至った。

「ガルド、お前にはこれは貸さないからな!」

 耳を少し赤くした榎本が、子供のような表情でガルドに言う。

「本が片付いたから、買う予定を早めたんだよ。今のヤジコーのは売ろうと思ってるが、その、なんだ。お前がいる間は売らないでおくさ」

 榎本の優しさが、痛いほど伝わってくる。頬に力を入れていないと、潤んだ視界から一粒感情がこぼれ落ちてしまいそうだった。

「——ありがとう、しばらく貸してほしい」

「おう」

 照れくさそうに、だが優しい表情をした榎本が、新しいフルダイブ機にそっと触れる。

「いいマシンだな」

 そして満足げに呟いた。

 配線処理やデータの移行、梱包材の片づけもある。すぐにプレイすることは出来ない。だがそれよりも先にすべきことが残っている。

「作業は飯食ってからだな!」

「ああ。炊き込みご飯だ」

「まじか! すげぇな、どれ……おお! 具だくさんで旨そう!」

 三合では足りなかったかもしれない。そのときは、作業の合間にでも袋ラーメンを茹でよう。榎本がいらないと言ったら自分だけでも食べよう。ガルドは小さく決意した。

 榎本の嬉しそうな表情を見ながら、こっそりと優しくほほ笑む。ガルドはこの瞬間、近年稀にみる程幸せだった。

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