51 一人訓練
巨人の攻撃は、光エフェクトの無いただの通常攻撃だった。
攻撃力に関わらずスキルはスキルでパリィ相殺できるが、スキルと通常攻撃では例外なくスキルが勝つ。AI相手のモンスター戦でもそれは変わらない。
兜割りが巨人の攻撃を飲み込み、そのまま腕を両断した。低音の野太い悲鳴を上げながら巨人が後ろにのけぞる。
これで数秒稼げるだろう。
「次ぃ!」
先ほど後ろで運よくガード出来た巨人の方角に転回する。
スキル直後でアバターガルドの動作は鈍い。すでに巨人の方は攻撃モーションに入っており、両手を組んで今にも振り下ろそうとしている。
ガルドは剣を一度離し、もう一度掴みなおした。反動がリセットされ速度が上がる。そしてそのまま手首のひねりで上に弾きあげ、巨人の両拳を通常攻撃パリィ。さらに反動のまま後方に転がり距離を取る。
すぐさまカウンターを打ち込んだ。
一定の通常攻撃のコンボを続け、もう一体の存在にも気を配る。そろそろ動き出す頃合いだ。実はすでに一体、撃破済みの巨人がいる。既に爆散しており、雪原の上に躯は無い。ガルドは少しずつ積み重なる達成感にテンションを上げながら、視野を広く心がけ続けた。
連続狩猟クエストは、一定時間ごとに大型モンスターが同位置に出現する。同時に現れる訳ではないが、倒しきれなければ居座るモンスターがエリアにひしめきあうことになる。ガルドにとってはその方が都合が良い。
大剣で片手剣のポジションを奪い取る、というガルドの野望には努力が必要だった。マグナに止められたゴリ押しの無茶でここまで来たこともわかっている。
「ぐっ!」
気を抜いたつもりはなかったが、どうしても一定のダメージは避けきれない。巨人のこぶしをもろに背中から食らい、ガルドのボディがふわりと浮いた。
アバターや防具の重量すら物理エンジンの計算に入れているフロキリでは、前線キャラは重ければ重いほど、後衛キャラは軽ければ軽いほど良いとされている。受けるダメージは変わらないが、この被ダメージ時の吹き飛ぶ距離がその後の動きを有利に運ぶテクニックになった。
鎧と筋肉のお陰で重量のあるガルドは、巨人の攻撃で若干空中に浮くものの、数歩分しか吹き飛ばない。着地もできないが、前転を行うことでクッションを挟む。
メロやマグナのような遠距離の軽量ボディならば、まるで弾丸のように数メートル飛ばされ華麗に着地するだろう。そしてすぐさま攻撃態勢に入る。ガルドには経験は無かったが、映画のワンシーンのようで楽しそうだったのを思い出しながら姿勢を正した。
もう一体の巨人が迫りくるのが、音だけで分かる。
フルダイブ機ゲームは例外無く視界が自身の目であり、後方を見て知るようなことができない。音は重要な情報源だ。すぐに左側にローリング回避。
低い地鳴りが響く。
巨人が圧雪の地面を蹴りつけているのが、ガルドの目の端にちらりと映った。ちょうどいいタイミングだ。横薙ぎ払いを繰り出しながら、もう一体の場所をチェックする。
さて、どうやって回復アイテムを使おうか。ガルドは真剣かつ楽しみながら悩んだ。二体をどうにかして同時に怯ませるか、もしくは一体を倒してしまうか。それしかアイテム使用の隙は無かった。




