49 ローテーブルで朝食を
学校と榎本の自宅を往復する日々は、一週間もすると馴染みのものになった。
電車通学にも慣れ、榎本の自宅がある御徒町の立地も地図無しで歩けるほど馴染めたことに、ガルドはなんだかんだ喜んでいた。自分の世界が広くなったような感覚は自信になり、電車への苦手意識も払拭出来た。
母とはメッセージで話し合いを続けており、今のところ彼女は「友人宅に居候」というのを信じているらしい。「居候先の友人宅に迷惑にならないか」と追及されたが、榎本とガルドは以前の作戦を流用し、先手を打った。
自宅に「居候先の保護者」として電話を掛けたのである。
幸いなことに榎本は、現役高校生の親に扮して電話をかけてもバレない程度に年を食っていたのであった。
家に帰っていないことに三日目まで気付かなかったことには呆れたが、母親がそういう人だということをガルドはよく知っている。相変わらずフルダイブ機・テテロをどこに処分させたのか不明だが、話し合いそのものは進んでいた。
どうも仕事関係でどこかの場所に引き取らせたらしい。ここまでわかれば、あとは後輩の兄という伝手がある。母親と話し合うというストレスを回避したいこともあり、メッセージのやりとりは少し頻度を減らしていた。
この場所での生活は、横浜でのいつもの生活と大きな違いはない。
朝、通学に掛かる時間に加えて一時間ほど早く見積もり起床する。榎本はソファでまだ夢の中だ。最初の数日こそ気を使って静かにしていたが、寝汚い榎本はガルドの物音程度では起きないらしい。特に気を遣うこともなくシャワーを済ませる。制服に着替え髪を整え、朝食の準備を始めた。
榎本がぼさぼさの頭で部屋をウロつきだすのはこのタイミングだ。半目すら開かない表情で身支度を始める。ガルドが借り受けている寝室に引っ込んだ榎本が、きっかりとスーツを着込んだ頃にガルドは朝食を食べ終わる。
いつも通りモノアイ型のプレーヤーでフロキリの攻略を閲覧しながら、コーヒーで一息つく。そのころやっと榎本が食事を始めるのだが、この時間が朝の二人のコミュニケーションの場になっていた。
「そういや、夕方に荷物届くんだった。俺が帰る前に届いたら、ハンコ、玄関にあるやつ使ってくれ」
「宅配ボックスは使わないのか……」
「なんだ、残念そうだな。でかい荷物は入れられないんだよ。九時に指定したから、多分俺も間に合うとは思うけどな。届いたらソファの奥にでも頼むわ」
「ああ」
朝食を済ませて駅へ向かってからは、普段の学校生活と何も変わらなかった。学校の最寄り駅から高校までの最短ルート上に自宅があるものの、母とのエンカウントを避けわざわざ遠回りして登校する。
むしろ「いってきます」と言い合える人間がいることに、ガルドは今までにない安心感を持っていた。




