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28 眠い時でも、朝日でも。

 数分もすると、メロも手馴れてくる。後衛とはいえ現役のトップランカーだ。瞬発力の面ではジャスティンや夜叉彦にも並ぶポテンシャルを持っている。ワラワラと集まってくる敵の侍に向かい、三人で三角形の陣を組み応戦した。くるくると時計回りに交代しながら、メロのフォローを行う二人の撃破数は相当膨れ上がっていく。

 二人の心配りで、メロはストレスの無いプレイができていた。メロに四体同時できた時はガルドと榎本が一体ずつ。ガルドに五体きた時は榎本が一体。榎本に六体きた時はガルドは何もしない。そうして、榎本のアバターの体は傷だらけになっていく。

「ガルドさん? 助けてくださらないんです?」

「頑張れ」

「俺も助けてほしいなー」

「先に落ちても、二人で残れる」

「あーそう。そうですか」

 ガルドが普段より辛辣に答える。以前から眠さのせいで榎本にだけ当たりが冷たくなってしまう癖があったが、そのことをさして榎本が「なるほどなぁ、おネムだったのか」と笑った。リアルだからこそバレたのだろう。

 ムッとしたガルドがHUDゴーグルをグイと持ち上げ、遠くに座る相棒の顔を覗く。向こう側もゴーグルをしているため目元は見えないが、小骨でも取れたかのようなスッキリとしたような笑顔だ。つられるようにガルドも気分を良くし、一時睡魔を忘れて楽しんだ。

 それからしばらく敵を切り続け、隣のメロがゼェゼェと疲れてきていることに心配になったガルドは、終了時間がいつなのかという疑問が浮かんだ。

「榎本」

「んー? どうしたガルド、眠いか?」

「いや。お前スタートの時、どういうモードにした」

 榎本は無言のまま、また一人敵を斬った。

「ちょっと榎本? まさかアレ?」

 唐突に榎本が口笛を吹き出す。

「あれ?」

「無限モード! もー! 終わんないじゃん!」

 メロが刀を投げ捨てログアウトボタンをタッチした。敵が限りなく出てくるモードに設定していたことにガルドとメロが気づいたのは、プレイを始めて四十分ほど連続プレイしてからであった。

 冷たい飲料が喉を駆け落ちる心地良い音とともに、乾いた体に水分が満たされていく。プレイを止めてから真っ先に三人はバーカウンターに侵入し、冷蔵庫の飲料を飲みあさっていた。ガルドは瓶入りのジンジャーエール、榎本は緑の可愛らしい瓶に入ったペリエ水、メロは飽きもせずビールだ。

「プワッハー! くぅー! ゲーム終わりの一杯、サイコー!」

「けふ」

「ぶ! 今の何だガルド、げっぷか? かわいいな!」

「うるさい」

「ははは、レディに失礼だぞ~!」

「だからって! 腹パンはやめろ! おいガルド!」

「うるさい」

「あっははは!」

 早朝五時。一晩中起きていた3人は、眠さを一回りして不思議なテンションで騒いでいた。



「グ、うう、頭痛い……あれ、ここ……そっか、オフ会だ」

 すりガラスから太陽光が差し、眩しさで夜叉彦が目を覚ました。数秒ぼんやりとしていたが、横になっていたソファから身を起こしてすぐ目に入った光景に血圧が上がる。

「え?」

 寝ないと豪語していたガルドが、革張りのソファに体を沈めて眠っていた。猫のように丸くなっている。落ちないようにだろうか、向かい合わせでもう一台ソファを座面同士くっつけて簡易ベットにしているのだが、そこにもう二人紛れ込んでいた。

 一人は姿が見える。細身の体に、男性にしてはボリューミーな髪型、そして極彩色のエキゾチックな洋服。年齢を気にしない中年が一名。メロだ。そこそこ長い足を背もたれに引っ掻けている。上半身はソファに、というよりむしろ男の腹の上という方が正しい。

 メロの体の下にちらりと見えた顔は苦しそうだった。気にしないのか、それとも甘んじているだけなのか。狭い場所にいるにもかかわらず、ガルドに接触しないようにスペースを空けて奥へ詰めているのが尊敬に値する。榎本だ。もちろん収まりきらない足はソファの肘あての向こう側にある。

「起こすか」

 そう言いながら、夜叉彦はぐーっと背伸びをした。時刻は七時を回ったぐらいだろうか。誰が何時まで起きていたのかわからないが、朝食を食べに築地に行きたいと地方組が言っていたはずだ。この時間では若干遅いかもしれない。

 だが、と笑いながら夜叉彦は三人が寝るソファへ近寄った。みんなで行ってみよう。きっと楽しいはずだ。もしダメだったら、嫁から聞いたホテルのレストランでモーニングでもいいかもしれない。昼食は月島のもんじゃにでも連れて行ってやろう。ガルドも鉄板焼きは外で食べたことがないと言っていた。榎本に作らせよう。俺はお好み焼きを焼こう。豚肉の入っているやつがいい。

 そこまで考えて、夜叉彦は立ち上がった。体の節々が痛むが、こういう日もたまにはいい。榎本がうなされている。

「ほら起きろ~、築地に行くんだろ? メロ、起きてやれ。榎本がぺちゃんこだ」

 メロの肩を叩いてやりながら、幸せだな、と夜叉彦は朝を味わった。

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