27 コントロール・ガード
一般的なHMD型VRのゲームプレイスタイルは、頭につけた上で、手元にコントローラを持ち、座った状態で行う。だが脳波感受型を持っているものは手元がフリーになる。姿勢も自由でいい。コネクタと本体がずれない格好であればなんでもよかった。
革製のどっしりとしたソファに寝転んでいるのは、黒髪のおかっぱを肘当てに散らしたガルドだった。まるで勝手知ったる我が家のように、靴も脱ぎ体の力を抜いてリラックスしている。頭と目だけがフル回転しており、キャラクターを操りながらマウントしているディスプレイを凝視していた。
「そこ」
「だっ! あぶねー!」
後方に敵がいるのを一声かけると、榎本はすぐに反応した。リアルではガルドの寝ているソファの後ろ、古風なロッキングチェアに揺られながらプレイしている。ゲーム上ではガルドの前方に立っているのだが、敵に狙われ過ぎており大変そうだ。しかし仮にも上位ギルドの前衛を張っているのだから、と敢えてガルドは手を貸さないでいた。
「うっわー近い! こう? こう?」
「そう。一歩下がって、右側に体向けて」
ひときわうるさく叫びながらプレイしているのは、近接戦闘に不慣れなメロだった。立ったまま、まるで本当に斬っているかのように両手を構えながらプレイしている。
案の定、ガルドはヘッドマウントスタイルにあっという間に慣れた。視界が狭い程度で不便もなく、モノアイ型よりしっくりくるのが心地よい。キャラクターの立ち回りや剣の振りなどいつもとシステムが違う部分は戸惑ったものの、それも数分でマスターしてしまった。逆に今ではメロに指導する側になってしまっている。
指導と言ってもメロが下手なわけではない。メロも一般的なレベルでのプレイはできているのだが、ガルドや榎本がハイレベルすぎて下手に見えてくるだけだ。
「協力プレイなんだろ!? 俺一人で半分以上やってんじゃないか、これ!」
「やって見せろ。自信がないのか?」
「にゃろーガルドてめぇ覚えてやがれ!」
扱いを上手く心得ているガルドは、適当に煽り台詞を投げて榎本を焚きつけておいた。これで数分は暴れてくれるはずだ。その隙に、寄ってきた数体を切り捨てつつメロの方に二体だけ流してやる。
「二体の時は、遅いやつを基準に……」
先ほど教えた立ち回りを実践するメロだが、動きがぎこちない。その上リアル側でブンブン腕を振っているせいか、息がかなり切れてきている。アルコールのこともあり、若干ガルドは心配になってきていた。
同一のモンスターが二体いる場合、モーションが全く同じということが多い。動きが早いものを先に追っていると後からのもう一体にダメージを負いやすく、ガルドの場合、早いものの動きをまずは避けておく。遅い方が攻撃をしてくる前にそちらを片付けてしまい、早いものが次のモーションに入る前に撃破する、というスタイルをとっている。ちょうど良い、とガルドは顎を撫でた。今やっているチュートリアルゲームは見切りもガードも存在しない。敵の攻撃範囲に入らない立ち回り、という厳しいシチュエーションへの勉強になる。
「たー!」
メロが腕を袈裟斬りに振りながら、ゲーム内でもその動作をイメージしてコントロールする。すぐさま体をひねりもう一体に向き合う。しかし眼前にぼろ布をまとった敵侍が迫っていた。
「んん!?」
敵の刀が目の前まで迫り、間に合わないことを悟ったメロが諦めの表情を浮かべる。一撃食らえば即終了、ゲームオーバーだ。
瞬間、棒をスイングした時によく聞く、ブンという風切り音が響く。
「惜しかった」
圧倒的な速さで後方から迫ったガルドの一撃が、メロを襲う敵を斬る。感受型ならではの瞬発力が生むスピードで駆けつけ、そのまま他の敵を軽くいなしてメロを背中に庇う。
「ヤダかっこいい!」
「んなことしてないで手伝えよ!」
メロはガルドの勇姿にときめき、榎本は敵を斬りながら振り返ってそうツッコんだ。




