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250 げぇむ?

 ゲームという単語に反応したらしい男は、なかなか強烈な容姿をしていた。まだ首から下は見えないが、アゴ上だけでもインパクトがある。髪はうねりツヤがなく、灰色も通り越し全く真っ白になっている。肩の辺りまで伸ばしているが毛先は長さがまちまちだ。まるで素人の、母親が子どもの髪を切ったような髪型だった。

 口回りは逆に黒い。鬱蒼と言っていいほど手入れのされていないヒゲが、まんべんなくアゴと鼻下、こけた頬にまで広がっている。ふさふさとは言いがたい。無精髭を伸ばしっぱなしにしただけの、ホームレスにいるようなヒゲが不衛生に見えた。

「ゲームの火は燃え移らない。火事にはならない」

 ガルドはじっと男の目を見ながら簡単に説明した。火の矢を必死に掴もうとしていたのは、おそらく火事を恐れたからだろう。燃え広がらないことに気付いたが、理由が分からず思わず「かみさま」という不確定な何かに押し付けたのかもしれない。

 それはここが現実とは違うからだ、とガルドは伝えたかった。ゲーム未経験ならば、ここがフルダイブタイプのゲーム内だなどとは気付かないだろう。ふざけたセリフに聞こえるかもしれない。誠意を込める意味で、ガルドは目を合わせようと見つめる。しかし徐々に、別の意味で視線が外せなくなった。

 こちらから見て右側の目と視線が交わらない。

 咄嗟に「ずけずけと見て良いのか」と不安になる。容姿に響く病気。知識だけで知る「斜視」という名の病気を思い出すが、本物は初めて見る。ガルドは常識的な配慮より好奇心が勝ってしまった。

 ずれた瞳は外側を向いている。片目はガルドを、もう片方はガルドの隣に立つ榎本の方を向いていた。その両目は強く睨みの形をしていて、ヒゲにおおわれた口がわなわなと震えていることにも気付いた。

「げぇむ?」

 小さく聞き直してきた言葉は、徐々に大きくなってゆく。

「げーむ、げーむ……あそび? あそんでいるのか、ここは。おもちゃの、つもりか」

 ボソボソとして震えの混ざっていた喋り口調が、語尾になるにつれてはっきり明瞭になる。槍を持つ老人は、苛烈に怒っているらしい。

「キミらはあそび、ワタシはいきている、それはワタシも、キミらも、そう……オワリか? オワリにしたいのか?」

「おっ、終わり!? あんたまさか、出口か!」

 ジャスティンが老人の口走った意味深い「オワリ」を聞き、口調を強めて聞き返した。この世界から脱出する出口という意味に思えたジャスティンは、咄嗟に盾の構えを解いて詰め寄る。目と鼻の先まで近付き、さらに聞いた。

「あんた、終わらせられるのか! サルガスより強い権限を持っているんだろう、そうだろう!」

「ジャス」

「聞いただろうガルド、こいつ、終わりに出来るんじゃあないのか!?」

 興奮ぎみのジャスティンを抑えようと名前を呼んだが、あまり意味はなかったらしい。つられて榎本やマグナも近付いてきては、警戒しながらも武器を下ろした。

 臆病に見えた老人は背筋をすっと伸ばし、ゆっくりと立ち上がった。槍を強く握っている。そしてディティールの乏しい白の貫頭衣のようなワンピースを着ていた。ツヤもなければ布っぽさもない。ペイントソフトで白を塗っただけのような色をしたそれは、黄ばみといった汚れもない。

「なんにちも、なんねんも、ずっとずっと……」

 マグマを溜め込んだようか声色に、ガルドの首の後ろがヒリヒリと痺れる。予感、もしくは殺気のような何かが脊髄を走って脳に届く。説得力のある危機感だった。

「くっ!」

 勘のままに脊髄反射し、前に飛び出す。

「貴ぃ様らがぁっ!」

 か弱く見えた老人が、爆発するような憤怒を膨大なエネルギーに変え、突きの動作で槍を向けて襲いかかってきた。

 間合いがあっという間に詰まる。

「どぉっ!?」

 槍は、無防備に向かい合っていたジャスティンを狙っていた。


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