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236 家族ではないけれど、きっと近いものになれる

「じゃーん、けーん……」

「ぽーんっ!」

 巨大ネズミ退治のクエストをクリアした仲間達は、エリア残留を選びそのまま雪原に留まっていた。

「あいこでー?」

「しょっ!」

 六人全員で元気良くじゃんけんを行い、何度か三すくみの勝負を繰り返し、やがて一人がチョキの形をして固まる。

「うー……」

 悔しそうな表情のメロがチョキだ。うなりながら勝者達をぐるりと見渡すが、皆サッと顔を反らす。

「うー!」

 メロがまた一声あげた。

「ごめんって……」

「じゃんけんなんだからしょうがないだろ」

「留守番よろしく」

「土産話を待っていろ! 良い話を期待するといい!」

「チャットには入れるんだ、寂しくないだろう?」

 仲間達が口々に慰めるも、メロの機嫌は良くならない。むすっとしたまま文句を続ける。

「次はウチ、一抜けだから! じゃんけんしないからね!」

「分かってるよ」

「行き先も決めるからね! それくらいいいでしょ!?」

「分かった分かった。好きなとこに行くさ」

 沢山の条件を飲ませ、やっとメロは表情をノーマルに戻した。そして一人きりのギルドホームで何が出来るかを自慢げに語り出す。歌い放題、お酒飲み放題、暖炉の前を陣取り放題。まるでカラオケ屋の謳い文句のような言葉を連ねながら自慢するメロに、さも羨むようなコメントを一人一言ずつ発した。

「いいなぁ、楽しそうだなぁ」

「のびのび出来るな!」

「テントの装飾も光らせ放題だぞ」

「踊っても変な目で見られないな」

 全員の羨望を受けてやっと満足したのか、メロは笑顔で送り出す。

「……早く帰っておいでよ、待ってるから」

「うむ、当たり前だとも! ギルドホームは家だからなぁ!」

「うんうん。心配すんなって」

 仲間の暖かい声を聞きながら、ガルドも続けた。

「家、か……」

 氷結晶城の方角を見る。あの城下町のどこかにあるという設定だ。本当に建っているわけでもない。見えている風景も「こう見えるだろう」というゲームエンジンの画像処理によるもので、実際に座標が見えているわけではない。

 だが確かに、ガルドにとってもギルドホームは我が家だ。

「誰かが『おかえり』と言ってくれるだけで、帰るのが楽しみだ」

 ジャスティンは言葉通りギルドホームが家だと言いたかっただけだろう。ガルドにとって「おかえり」は失ってしまった昔の思い出だった。祖母はもういない。

「ガルド……」

「そう言われるとやる気でちゃうねぇ。ウチがロンベルホーム初の『おかえり係』ってわけだ!」

「なんか一気にレアな役職になっちゃったけど」

「逆に考えろ、俺たちもホーム初の『ただいま係』だ」

「五人もいるだろう、レア感ない!」

「じゃあ俺、予約な。次の『おかえり係』」

 メロのネーミングに魅力を感じ始めたメンバーの様子に、慌てて榎本は次回の留守番を立候補した。夜叉彦達が口々に不満を言い始めたが、それも「次の次」「その次」と順番をつけることで解決していく。

「よかったな。『おかえり係』は途切れないぞ、ガルド」

「……次の次の次の次、予約だ」

「っはは! 言うと思った」

 少し不満そうな顔で言うガルドに、全員がほっこりと顔を和ませた。

「ははっ、オフ会前だと男前だなって思ったけど、実は素直で純粋、ってね」

 ガルドがホームで待機する仲間のモチベーションを急上昇させた声掛けに、夜叉彦は「素直故」という分析を入れた。一般プレイヤーから「上司にしたい」と評価されているガルドだが、意図的に上司らしく振る舞っているつもりなど全く無いのだ。本気で素直に発言している。その一つ一つがストレートでいさぎよい。

 しかし、夜叉彦が言うと紳士的な褒め言葉に聞こえる。

「おっまえ、恥ずかしげもなくサラっと褒めたな……」

「フッ、夜叉彦がモテて榎本がモテない理由が分かってきたぞ。褒めようと思って言ってると思うか? ガルドもだが、コイツも本心からの感想だろう。だからイヤみがない」

「俺の褒め方がイヤみだってかぁ?」

「そう聞こえたか」

「聞こえた」

「そうか、誤解だ。意図して下げようなどと思っていないのは分かるぞ。ただ、夜叉彦のような爽やかさが無いとこうも違うとはな」

「ぐっ、このモテ男と比べりゃ誰でもオッサンだろうが……でもまぁ、俺だって実績はあるんだぜ? レディの扱いに関しては自信あるからな。夜叉彦とは違うタイプに効果テキメンだから」

「派手めで遊び好きなタイプに効果的なんだろう。誠実さは無いな。四十代になったんだ、少し落ち着いたらどうだ……ガルドを見習え」

「イチかゼロで例えを出すなよ。コイツは固すぎるだろうが。ガルドは少し俺を見習えよ。お前なら良いヤツ捕まえられるだろ」

 榎本とマグナがケンケンと言い合うが、唐突にガルドへとばっちりが飛んでいった。その内容に少しムッとしたガルドは、咄嗟に話題へ乗り反撃に出る。

「……後輩とデートしたときは、『超完璧なエスコートだった』と褒められた」

「……あ?」

「な、なんだと……?」

 飲み込むのに少し時間が掛かった二人が、持ち直してから驚き、二人揃って小さく「マジか……」と呟いた。


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