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230 JKは心配す

 クラス全員が悲しんでいる。

 とある坂の奥に建っている高校の、ある一つの教室。空気は重く、たまに聞こえる雑談も覇気がない。

「絶対あやしい」

 そう断言したのは、ぽっかりと空いた席の近くに座っていた黒髪の女子高生だった。普段からのほほんとした言動の多い彼女が、眉間にシワを寄せて友人に文句を言っている。

「もちろんじゃん! だってあのみずだよ?」

「メールまで英語っておかしいでしょ。みず、確かに彼氏に夢中だったけどさ。ここまで入れ込むタイプじゃないもん」

 黒髪に赤いリップがトレードマークの女子高生・佐久間が強い口調で話しかける相手は、くるんとした髪の先を指で巻きながら机に寄りかかっていた。宮野だ。表情は読めない。

 しかし佐久間には、自分の顔とそう大差ないと分かっていた。

 親友である佐久間と宮野だけではなく、このクラス全員がどこか悲しげだった。怒っている学友さえいる。入ってくる情報によれば、佐野みずきは「彼氏とのバカンスに夢中になり語学留学を強硬した」というのだ。

 これを信じているクラスメイトを、宮野と佐久間は馬鹿だと一蹴していた。

「パパさんも帰ってないみたいだし、ママさんも捕まらないし、もぅ!」

「このみずのアイコン、確かにみずだよね?」

 スマホを取り出した佐久間は、つい数時間前にもやり取りしたばかりのメッセージアプリを開いて見せた。奥から吹き出しが順繰りにせりだしてくるようなデザインのアプリで、視線を追尾して画面スクロールをするユーザーインターフェイスがウリだ。奥を見ようとすれば過去ログが、手前を見ようとすれば新規のコメントが表示される。

 佐久間は、ボヤけている奥の(古い)吹き出しの、端をドッグイヤーで折ったページを注目する。気になってブクマしていたのだ。

「みずの写真、みずのユーザーネーム、みずのプロフ。間違いないって」

 ガルドがみずきとして猫を被るための武器が、そこにはところ狭しと表示されていた。プリクラの、補正だらけにされた佐野みずきの顔写真。ニックネームの「mizu」と誕生日の組み合わせに、sweetという英単語を無理やりねじ込んだユーザーネームだ。ヘッダーに修学旅行のナイスショットを嵌め込んだプロフィール。佐久間達がいつも見ている佐野みずきの姿がそこにあった。

「でもあやしい」

「うーん、確かにみずからのメッセなのに……でも、日本語で訊いてるのにさ、英語で返す? 普通」

「それも気になるし、留学ってのも引っ掛かるんだよねぇー」

「でもこうして連絡取れてるし、ママさんから留学届け出てるらしいし、やっぱ本当に留学なのかな?」

「でも受験だよ?」

「うーん……」

 そこまで話すと、二人は揃って頭を悩ませることになった。二人の希望としては嘘であってほしい。しかしメッセージや母親などが本当だと説明している。教師も留学の件を信じているようで、あやしいと思っている二人を支持する人間はいなかった。

「ぼっ、僕もね! あやしいと思ってたんだ! 絶対なにかあるよ。間違いないね」

 もう一人いた。

 授業と授業の合間、短い休み時間に他クラスへ突入してくるほど行動派なオタクだ。

「うわっ、なに金井」

「名前覚えててくれたの!? うわぁ嬉しくないよー。まぁこの間のノートの件は水に流してあげるけどさ、僕としては本当は不本意なんだよ? でも誰も信じてくれないからさ」

「……え、何? ウチらに話しかけてんの?」

「うっはぁ酷いっ」

「そういうのいいから。で、用件は? みずのこと?」

 あからさまにオタクであることを隠さない上に、マシンガントークでひたすら捲し立てる金井を二人は煙たがった。しかしGW前に佐野みずきと仲良く話していた様子も知っていた佐久間は、彼の話題への参加を許可したのだった。

「そう、佐野さん! ちょっと調べたんだけどね、もしかしたらもしかするかもしれないんだよ」

「こいつの話し方、まじうざい」

 宮野はそう、金井の目の前で金井の悪口を言った。



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