表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
228/429

227 ドリンクのご注文は?

「終わった? ゴリラコンビ」

 慌ててラウンジの球状モニターを非表示にしたメロが、肩を組んだままの榎本に声をかけた。ガルドをゴリラ呼ばわりするのはいつもの事だが、榎本をそう茶化すのは珍しい。

「ゴリラ……ガルドはともかく俺もかよ!?」

「おぉ、お前やかましいからチンパンジーの方が合ってる」

 ジャスティンもその話題に乗りつつ、二人が座れるように、先程まで独占していた四人がけソファから一人用のものに乗り換える。ハイバックでくるむような形のソファにすっぽりと収まり、毛むくじゃらのドワーフを包むオクルミのようで良く似合っていた。

「俺はお前よりずっと静かだぞ~ジャス。お前が猿だろ。全身ロングヘアの」

「がはは! 髭の生えた猿なぞ聞いたことないぞ!」

「ガルドはシルバーバックだな。寡黙で堂々としている」

「ありがと」

「待てよ、それ褒めてるのか?」

「かっこいいじゃん、シルバーバック。ほらほら、とりあえず全員揃ったから作戦会議しよ」

 ばたばたと席を移動し、食卓に使用するには低すぎるローテーブルを片付け始めた。一つ一つ選択して消去していくのは面倒くさいと、メロがまた杖を取り出す。

「あーあー、水は困るぞ」

「わかってるって」

 榎本が放った牽制の一言に「やめろ」の三文字はなかった。

 テーブルの中心部を目視で定めてから単詠唱の魔法スキルを発動させた。装備をラフなものにしているため、いつもの超高速発動は起こらない。きっかり五秒後に巻き起こる風が、机の上でつむじ風となった。

 小さなオブジェクトが大量に破壊される際の、パリンパリンとガラスが割れるような音が続く。食器棚から皿を投げるような音で、眼前の様子もまさにそのようだった。

 料理が皿ごと一つのオブジェクトとして浮き上がり、水晶のつぶになって砕け散っていく。チョコチップスコーンが半透明になって粉砕される様子を見つめながら、夜叉彦がしんみりとした。

「……トイレットペーパーならいいけどさ、料理とか飲み物だと罪悪感でてこない?」

「食いかけは一個以下のアイテムに変化している。ボックスに戻しても所有数は増えないからな、食いきるか捨てるかしか道はない」

「別の場所に移す、とか」

 その発案にマグナは大真面目な顔をして考え始めた。

「棚でも作ってか? 腐ることは無いから、アリと言えばアリだな」

「えー、なしなし。食べかけなんて食べないって」

「だが埃も湿気も存在しない。ゲームだからな。ポテチが湿気って不味くなることもない」

「……気分の問題だよ」

「各自の部屋に持ち帰るなら、ありじゃあないか?」

 ジャスティンはそう言いながら、手に持ちっぱなしで難を逃れたカナディアンウイスキーのグラスを掲げて見せた。カランと軽やかに氷が揺れ、暗に自室で酒盛りをしていると自慢している。

そっち()はまぁ、わかるけど」

「このあと会議だと言っただろ。飲むのは程々にしろ……ジャス、お前に言ってるんだぞ」

 また一口飲んだジャスティンに注意するマグナだが、素知らぬ顔で歩く髭のドワーフにメガネを上げるしぐさで睨みを強めた。メガネの装飾装備が存在しないフロキリですると、少しだけ間抜けに見える。

「ちびちびならいいだろう?」

「まぁまぁ、マグナ。ジャスが逆に真面目に『大事な話し合いだから水でいいぞぉ~!』なんて変でしょ」

「確かに」

「俺だって仕事の会議では飲まんぞ! アル中じゃないからな!」

「社会人として当たり前の事を言うな」

「味覚再現でアル中治療とかありそうだけどな」

「もう実地試験されてるんじゃない?」

「効果あるかよ。VRの酒だと酔いなんてすぐ無くなるのに」

「飲むことに、意義がある……」

「今の俺らの飯と一緒か。自己満足、生きてる真似、人らしいポーズ」

「うーん、なんて世紀末的……」

「ほら、机片付いたから始めよ? お供は紅茶ね。ジャスはそれ置いてきて」

「いや、紅茶に入れるぞ! ブランデー入りの紅茶、あるだろう!」

「ウイスキーだろそれ!」

「提督の真似か?」

「え、誰」

「……通じんか」

「チャイにしよ」

「俺レモン」

「……アイスティー」

「同じ紅茶でもこうも違うのか。面倒だ、自分で選べ」

「おおい! なみなみ注ぐな、こいつも入れるんだぞ」

「好きにしろよ……もう」

 そこに悲観的な空気は無い。

 変容してしまった日常を、ロンド・ベルベットの精鋭達は拍子抜けするほど瞬く間に自分達のリズムへと組み替え、受け入れていた。

 仲間達がワイワイと騒ぐ様子を見つめながら、ガルドは会えなくなってしまった高校の友人を思い出していた。彼女達はいまどうしているだろうか。ガルドはその心配と共に、しばらく付き合いをサボっていたために忘れていた甘味を懐かしんだ。

 「甘いのも、たまにはいい」

 ガルドの手がフードストック一覧を呼び出し、陶器のミルクポットとガラス細工の砂糖入れが現れる。紅茶のセットはどれも女性的で、この砂糖入れは特に繊細でフェミニンだった。

ちょっとだけ多忙につき短めですみません…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ