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216 「万馬券作れば盛り上がるかな?」「やめろ、未成年もいるんだ」

 疑問を持たずにはいられない謎の状況に、全員が混乱しながらげっそりした顔でそこに立ち尽くす。

「なになになに何なんだよ何がしたいんだよー!」

「うげー……なんて表現しようか。瓶詰めのアリンコ?」

「グロい」

「出た! ガルド必殺『嫌悪の目線からの痛烈な批評』!」

「うむ、気色悪いな!」

「ホラー的に評価すると、四十点ってとこかな」

「なかなか辛口ぃ、夜叉彦」

「これでピタッと止まって一斉に振り返ったりすると、七十点」

「うえっ、やめてよぉー! 想像しちゃったよー!」

 口々に文句を言いながら、しかし冷静に中の様子を観察し続けた。

 各々が「店員で来たやつが抜きん出て高クオリティなのが分かるくらい鈍いAIだな」「その場に立って……足踏み?」「昔の物理エンジンで事故とか検証する動画みたい」と意見を言い合い共同分析を始めている。

「いや、あれは『他オブジェクトの通過禁止』と『歩行の継続』でああなってるんだろう。そんなことより見てみろ、手の中を」

「手なのか?」

「棒だな」

「あー! あれ一個一個別の料理なの!?」

「青椿亭全メニュー……」

「確か百はない」

「百近い人数がうごめいてればそりゃキショいだろうなぁ!」

「料理一つにつき一体『配膳係』作ったのか。なんつーかダイナミック」

「元々そうなんかもよぉ」

「複雑化してやればフロキリの青椿亭そのものになったんだろうが、犯人達はそこまでの開発技術が無かったんだろう」

「にしても気持ち悪っ!」

 延々と文句を交えた考察を言い合いながら、百体近いNPCから注文したメニューの数体が出てくるのを待った。

 入り口付近にやって来たのはシュークリームの配膳係だ。

「おぉ、来た来た!」

 注文した榎本が嬉しそうな声をあげた。その様子にガルドは、居候で見かけた冷蔵庫の上段にあったコンビニのシューを思い出す。切らすことなく必ずあった。榎本は、何故か週に三回程シュークリームを食べるのがルーティーンなのだ。

「小さいから出てくるの早いとか?」

 夜叉彦の推理を隣で聞きながら、ガルドは素直に感想を口にした。

「回転寿司のレーンの奥を見てる気分だ」

「ガルドお前……回転寿司行ったことあるのか」

「友達と」

「リッチだな!」

「いやガルドの家庭事情踏まえればチープだがな」

 雑談をしながら見守っていると、シュークリーム係は手前にたむろしていたシーザーサラダ係の横腹にぶつかり、その場で足踏みを始めた。進もうとすらしていない。障害物が退くまで待っているようだった。

「あ……」

「じれったいな!」

 そこにチーズマカロニ係がやって来て三つ巴となり、弾かれるようにシュークリーム係が脱出、再度こちら目掛けて歩き始めた。

「お、ナイスマカロニ」

「いや待てよ、難関が待ってるぜ」

 榎本が指を指す。入り口に最も近い所を封鎖している三体の配膳係が大きな料理を抱えて待っている。

 今回は注文していないターキーチキン(一羽ごと)が先鋒となり、小さなシュークリームを弾き飛ばした。

「ああっ!」

「負けるなシュー!」

 無料ゲームのパズルのような弾かれ方をした棒人間は、その場でぐりんと無茶な回転をした。そしてこちらに向かってまた歩きだした。

 幸運なことに、一度ぶつかったターキーは進路を変えて移動を始め、奥に戻っていった。しかし進行方向にはさらに二体の配膳係が料理を抱えて待っている。

 五人掛かりで消費するような、大きなバケツパフェが行く手を遮る。ゆっくりだが店の奥に向かって歩いていた。

「くっ、メガ盛りか!」

「あんなアメリカンなの、青椿亭には似合わないって……」

 もう一体が抱える巨大ナポリタン三キロ盛りを睨みながら、夜叉彦が唸る。高級店故にパーティーメニューの少なさで有名な青椿亭だが、数点あるメガ盛りがこのパスタやパフェだ。ロンド・ベルベットのレイド班が毎度注文することで定評がある。

 暴力的な質量に小さな小さなシュークリームが挑んでいく。それを運ぶ棒人間が、徐々にいとおしく思えてくるのが不思議だった。

 そこに悠然と風が吹き抜ける。

 ガルドは(NPC)の背後に力強い意思を見た。

「きた……」

 榎本がぽつりと呟く。糸吊り人形のような不格好な歩き方でやって来たのは、おでんの大鍋をたぷたぷ言わせながら運ぶ新たな運搬係であった。一直線に特盛ナポリタンを持つ棒人間へと向かって、正確には注文した榎本に向かってきていた。

 おそらくシュークリームとおでんのどちらも榎本が頼んだためだろう、スピード、到着予定の時刻、体の角度などが双子のように揃っている。

 ガルドには、彼が双子の弟・シュークリームのためにパリィガードへ入る剣士に見えた。

「見たか!? 大根はやはり素晴らしいだろう!」

「キタコレ!」

「燃える展開だなぁ!」

 仲間達もおでん係の登場に浮き足だつ。特盛ナポリタンからシュークリームを守るために駆けつけたようにしか見えない。

 くだらないことで盛り上がっているように見えるが、普段からロンド・ベルベットはこうだ。

 くだらないことを娯楽に出来る仲間達だった。

「クラムチャウダーも来たぞ」

「熱々コンビで挟み撃ちだぜ!」

「七面鳥の足が来ない……」

「つまづいてたりして。足だけに」

「がはは! くそつまらん!」

「ジャスのギャグより冴えてるだろー!?」

 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら料理の行く末を見守る中、とうとうおでんがナポリタンと衝突する時が来た。

 あと数秒で接触するだろう。言い合う言葉を忘れ急に静まり返り、プログラム通り歩く配膳NPCを見守った。

 正面衝突だ。鍋と皿とが真正面からぶつかり合う。

 鍋の中でだし汁が揺れて跳ね返る時の、ちゃぽんという美味しそうな音が響く。

 衝突音はない。

 ただオブジェクトが通過できずそこにあり続けるだけだ。そして、当たりにいった方が移動エネルギーをそっくりそのまま受けた。ゆっくり歩くナポリタンは小さく後ろへ。普通に歩いていたおでんは大きく後ろへ弾かれた。

 鍋が手を離れ、後方へ吹き飛ぶ。

 バケツをひっくり返したようなけたたましい水音をあげながら、こんにゃくと大根が宙を舞った。



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