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202 俺的には何がなんだか分かってない

 久仁子が持っているメモには、十六桁の数字が漢字で書かれていた。さらに八が鉢、五は吾になっている。外国人が翻訳ARで解読しようとするのを避けるのに同音異義語を使うアイディアは佐野のもので、普段の業務でもたまに使うらしい。

 手書きで書いたメモを脳波感受型コントローラを持つ被害者にぴらりと見せるが、口では何も言わなかった。この数字が何を意味するのかも、何をさせたくて見せているのかも伝えない。

 目を丸くしてぼんやりとメモを見る男に、久仁子はヒントを見せた。

 もう片方の手でワンレンロングヘアの髪を耳にかける。おおぶりな円柱が動作に合わせて揺れ、耳たぶの下で存在を主張した。金属風の質感はどことなく工業製品を思わせる。ただの、なんの変鉄もない円柱型のモチーフピアスだ。何かギミックがあるわけでもない。

 しかし男ははっとしてメモをじっと見つめながら、そのコードをコントローラ側の無線回線の中から探した。鍵のかかった回線コードの一覧を探る様子に、久仁子は「ふふん」と笑みを浮かべる。

 金属円柱は、フロキリユーザーにとって通信アイコンのようなものだ。

 別サーバーへの連絡ボックスアイテムが金属でできた筒の形をしている。メッセージや動画、アイテムなどを詰め込み郵送することが出来る。サーバーの移動手段として公式がねじ込んだものだが、アバターデザインは引き継ぎ不可、各サーバー限定アイテムは入れられないため微妙に不便だった。

「二、四、一、はち、四……」

 どうやら回線コード自体は十四桁で、あとの二桁はその回線用パスワードのようだった。男はここで久仁子の思惑に気付く。外国人だらけとはいえ、言語の壁がAIによって砕かれた今、日本語が暗号のように使える時代ではない。

 暗号通信とはつまり秘匿回線での通信。そのくらい、一般人の男でも理解できた。周囲にバレないようこっそりと繋げ、というのが久仁子の目線からもわかる。男には彼女が何者なのかわかっていなかったが、首から下げた関係者のカードに信用を寄せる。

 回線をパスで認証制限解除し、無線の通信を受け入れる。大量のログと全角カタカナで二十文字程度しか入らない文章入力フォームが脳裏に浮かび上がってきた。

 使いなれたスマホ経由のそれとは大違いの、文字数・形式に制限をかけたチャットルームだ。無線通信ではこの程度が限界なのだろう。男は文字をイメージして、無事閲覧出来るようになったとアピールする。

<ロンベル ドウナッタ>

 男は自身のことより選手の心配をしていた。

 

 海の上では一般的な通信網が全く役に立たない。スマホやPCといったアイテムは演算機械として活躍できるが、ネット接続前提のソフトは全てオフラインになっていた。

 ならせめてローカルで、船の中に散らばる同志が繋がれるように。久仁子と九郎は配慮し、機材を手配していた。

 電波を送受信して脳波感受同士を繋ぐことができる次世代型HUBを経由し、彼らの脳同士でのみ通じるチャットルームを構築する。こうして一人一人に認証をさせていく必要があり、二十四名全員はまだ参加できていない。

 それでもすでにスレッドは活発で、トレンドはロンド・ベルベットの安否であった。

<マダ>

<ハワイ イケタカ>

<ソレドコロジャナイ>

 片言ながら的確な情報交流が活発に行われ、彼らは徐々に状況を把握しつつある。意識を失う直前にSNSの「こめかみにくっついてくる黒ネンドに注意」という注意喚起を目撃したメンバーもいたことで、自分達が脳波感受を通して何かされたのだということも理解していた。

 その会話ログには、まだ彼らが客観的に見てどんな様子だったのかは流れてこない。

 この場には当事者しかおらず、防犯カメラなどをチェックしていた警備スタッフや九郎の部下になった省庁側も口をつぐんでいた。

<オマエ ダレ>

<オレテキ>

 この短い略称で通じる程度に、彼らは熱心で有名なプレイヤー達であった。「俺的最適戦闘実行委員会」というギルド名を名乗った男は、アメリカ人の船員から受け取ったホットミルクを一口飲んで、無言のまま脳内で質問に答えてゆく。

 空港にいたはずの自分達がこうして船にいる。あり得ない状況だ。プレイ中寝落ちして見ている夢だとしか思えない。オレンジカウチ騒動と、その後見送りを終えて歩いていた自分を思い出す。同じギルドメンバーと土産物屋を冷やかしていたはずだ。

<ギルメン ドコニ>

<ギルド:オレテキ サンニン カクニンズミ>

<オマエ ヨニンメ ダ>

<コレデ フル(フルメンバー) カ>

<ソウダ>

<オマエ プレイヤーネーム ナニ>

 男が名乗る。すると同じギルドの男たちから<ドノヘヤ><ソッチ イク>などと発言が上がってきた。

 船の中は人がひっきりなしに走り回っている。男は仲間の到着を待ちながら、チャットで自分の置かれている状況を読み続けた。

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